大陸通商協定連盟
大陸通商協定連盟とは、商人達が作ったギルドであるが、街道の通行料や市においての出店税を納めなければ行商をさせてくれないとかで、やくざのみかじめ料かよと、ダグドにはめっちゃ嫌われている。
しかしダグドが飛行機を作り、その飛行機へ世界中の注目が集まった事で、彼は大陸通商協定連盟に加盟をした。
「高く売れる時に売るのが商人ですわ。」
十七歳になったアリッサは美しさと性悪さに磨きがかかり、彼女に売れないものはなく、また、彼女に強請られて財布の紐を緩めない男はいないというほどだ。
そんな彼女がうっとりとダグドを褒めたたえたのであれば、これは悪手では無いのであろう。
また、加盟をしただけではなく、とある不法行為ともいえる敵対的な商業行為を通商の幹部の一人から受けたという理由で、ダグドは連盟に幹部席を要求した。
それが叶った事は上手くやったともいえるが、連盟から幹部会議となると呼び出しという面倒をも受ける事になったのである。
ダグドは呼び出しの通知を呼んで、しまった、と呟いたので、幹部席の要求は連盟への純粋な嫌がらせでしかなかったようだ。
しかし、呼び出しを受けたのだから出席をせねばならず、その出席には差配人であるエレノーラこそダグドの代理として相応しいだろうが、エレノーラがどうにかなるとダグド領が大変なので私がエレノーラの代理として出席している。
私がダグドから言い渡されたことは、喧嘩を売って来てもいいよ、それだけである。
他の子だったら「何かあったら逃げておいで。」なのに、私はダグドにそんな血気盛んな人と思われていたのだろうか。
確かに、フェレッカで通商の騎士に襲われた時に、顔面膝蹴りに踵落としで急所潰しという暴れ方をしたが、一緒に襲われたモニークも同じ行為をしていたし、この技こそエレノーラ直伝なのである。
全く、カイユーも私を姐さん呼びするし、私はそんなに可愛くない女なのであろうか。
ダグドが私の勝負服をピンク色のスーツにしたのは、少しでも女らしくあって欲しいという父親としての希望なのだろうか。
「ダグドさん。父は元気でやっていますでしょうか。」
さらっとした好ましい男性の声で私は会議中だったと意識を取り戻し、私に声をかけて来た男性を見返した。
生成りの綿入れの帽子のようなものを被り、帽子と同じような生成りのローブを羽織った男はダグド領の隣と言っても過言じゃない場所にある王国、コポポル国の王である。
三十代ぐらいにしか見えない若々しい彼だが、実に二百年以上は生きているらしく、それは、王族の人々がコポポという妖精が集まって人間化しているからだということだ。
さて、私に好ましい笑顔を振り撒いている健康そうな褐色の肌に黒い髪と黒い瞳の彼は、アール・アスラン・アールという名で、彼の口にした父とは彼の父で前王のアスラン・アール・アリのことだ。
コポポル国では、アスランとアールとアリが人気の名前であるらしく、同じ名前ばかりで混乱するからと自分・父親・祖父と名前を三つ並べて名乗るらしいが、どいつもこいつもスリーAでしかないとダグドが騒ぐ通り、私は彼に会って彼のお付きの人達と紹介しあう度にスリーAに混乱させられている。
「アスランさんは元気ですよ。ダグドの良いお友達になっていただけたと、私達は喜んでおりますよ。」
「ありがたいが、父は普通の人間になってしまった。結局ダグド様を悲しませてしまうのでしょうね。」
「では、アール様、あなたもお友達になって下さいな。」
「アールと。美しい人。」
私が彼の一言に真っ赤になると、彼はとても心地の良い笑い声を立てた。
「そうですね、私にはまだまだ余計な命が沢山ある。彼と長い付き合いが出来そうですね。ですが、父のように人間になれたらと羨ましくも思います。」
アスランは自分が持つ再生できる命を、殺されてしまった哀れな若い夫婦の蘇生に使ってしまったというのである。
そして、そのことで彼は限りのある命しか持たないただのアスランとなり、また、蘇生させた夫婦から離れては生きてはいけないという枷もついてしまった。
あの若夫婦にとってはアスランこそ邪魔な枷かもしれないが。
「ダグドはそれを含めて受け入れています。彼はアスランの人柄がただ好きなのだと思いますよ。」
「そうですね。あの老獪爺が、と、ダグド様は憎まれ口を叩きながらも我が国に太陽電池というプレゼントを下さいましたしね。」
私達はふふふと笑いあったそこで、誰かがこの魔女めと大声を上げた。
普通に冒険者が司祭と魔女という組み合わせでパーティを組む世界なのだ。
魔女と敢えて叫ばれるほどの人はどんな人なんだろうと大声の方を見返すと、なんと、教会の教皇の代理らしき赤と金で紡がれた法衣を纏った男が、うわ、「私」を指さしているのである。
「そこの女は男の世界に土足で踏み込む、ダグドという悪竜に身も心も売った淫売である。世界を滅ぼす魔族へ忠誠を誓った人類の裏切り者だ!」
何を言っているのだと思考が停止している中で、なんと、周囲の、会議室内を警護している白チュニックに白タイツ、そして大きな羽のついた帽子に紺色のローブという罰ゲームのような衣装の通商の騎士達が私に一斉に向かって来た。
私はスカートに手を入れると、カイユーが靴下止めに差し込んで来た小さなナイフを取り出して、親切なコポポル王に突き付けた。
「えぇと、私がこの会場から出ることを邪魔されるのなら、こちらの方を傷つけてしまいますわよ。」
私の腕の中の男は、「素晴らしい。」と喜びの声を上げた。




