私、という女
真っ直ぐなだけの茶色の髪に、緑がかっているだけの茶色の瞳。
鏡の中の自分はいつもとかわらず無個性だ。
親友のモニークのように真っ赤な髪の毛、それもふわふわとした巻き毛に、空の雫のような水色の瞳をしていたならばと、私は何度彼女を羨んだ事か。
エレノーラのように、輝ける金色の髪にどこまでも真っ青な瞳が欲しいなどと、そこまで欲を持っていないのにと、私は恨めしい気持ちでつまらない外見の自分に溜息を吐いた。
もう少し茶色の髪が明るい色合いになって、目の色ももう少しだけ緑だと言い切れる緑であって欲しいだけなのだ。
「姐さん。トイレが長いよ。」
私は化粧室のドアを叩いた青年に肘鉄を喰らわしてやりたいと思いながら、乱暴に化粧室のドアを開けた。
「わぉ。今俺をそのドアで潰そうとしましたね。」
薄茶色の髪を丸いシルエットの短髪にした長身だが細身の青年は、髪色と同じ薄茶色の瞳をぐるりと回して大げさにおどけてみせた。
私は彼に時々小石をぶつけたくなると、ダグドの言う通りだと、頭の中で彼に石をぶつけていた。
「姐さん!今心の中で俺に石をぶつけましたね!」
「いいえ。岩をぶつけてやったわ。よくも恥ずかしい言葉を大声で叫んでくれたわね!」
「えぇ。本当におっきいのをしていたんだ!」
私はカイユーを突き飛ばしていた。
彼は嬉しそうに突き飛ばされると、もう一人の私のボディガードとなる年上の青年に抱き止められていた。
「カイユー、ふざけすぎでしょう。」
「ははは。だって。」
カイユーと同じぐらいに長身の彼は、エラン・ヴイタールという貴族的な名に負けないくらいに整った外見をしている人だ。
彼の瞳なんか緑がかった青という、これはまた宝石のようだと、私の茶色の気持ちだけ緑と違うと、羨ましく思える程の素晴らしさなのだ。
短く刈られた髪が金髪でもなくよくある焦げ茶色でも、同じ色の眉とその青い瞳の組み合わせで、その髪色でなければ彼の素晴らしい外見は際立たないと言ってしまえるほどに彼は完璧な美青年だ。
勿論、おちゃらけ者でしかないカイユーも外見は整っている。
黙っていれば、彼は王子様と呼んでもいいような、可愛らしさもあるのである。
何しろ、ダグドが彼等の外見が素晴らしいからと、ダグド領に侵攻してきた教会の騎士団であった彼らを、教会を裏切っての竜騎士への転職の勧めをしてしまうほどであるのだ。
彼らを結婚相手にどうだと、酔っ払い親父のような事をほざいたダグドは、当たり前だが私達生贄娘全員からスポイルされた。
でも、本当は、ダグドは遊び友達が欲しかったのかもしれない。
彼はカイユーやエラン達を領土に招いてから、彼等が住み着いた城壁にある見張り台を秘密基地のようにして籠り、次々とおもちゃを作っては彼らを喜ばせることに腐心しているのだ。
彼らが来てから私達は彼らを追い出そうと嫌がらせもしたが、彼等の頭領であるアルバートルはエレノーラの死んだはずの兄だったし、ティターヌという青年は話してみると普通にお姉さんのようで楽しい人なので、まぁいいかと、私達は認めている。
重たい荷物を率先して持ってくれ、危険極まりない屋根の修理もやってくれるのであれば、追い出すよりも受け入れた方が良いとの判断だ。
「ねぇ、姐さん。通商の会議室は俺達が入れないから一人になるよ。怖くないの?大丈夫?」
「大丈夫よ。大丈夫じゃ無いのは、あんたに姐さんと呼ばれる事よ。どうして姐さんかな。モニークには、もにーくさぁん!って呼んでいるじゃ無いの。」
「もにーくさぁん、なんて言い方なんてしていませんよ。普通にモニークさん、ですって。モニークさんは年上でも妹みたいに可愛いし、優しいし。あ、そっか、妹みたいだったら、モニークちゃんでいっか。」
「よく無いわよ。」
私はカイユーの脛を蹴っていた。
彼は大げさに痛がりながら腰をかがめ、なんと、私のスカートに、それも靴下止めのある腿へと手を入れて来た。
すぐに手を引いたので、誰にも見咎められなかっただろうが、訂正、エランはしっかりとカイユーの動きを見ていたようだ。
私はこれ以上の不逞が働けないようにカイユーに小声で叱りつけた。
「あんたは!」
「大丈夫なおまじない。」
彼は軽く片眼を瞑ると、何事も無いようにひょいっと立ち上がり、立ち上がった今では無表情の護衛官の顔つきとなった。
「では、会場の戸口までご案内します。」
彼は慇懃に自分の左腕を私に差し出してきたので、私はぱしんと叩くようにしてカイユーの左腕に右手を添えた。
「ありがとう。我が弟よ。」
彼はちぃっとボディーガードらしくない舌打ちをした。




