表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/36

第3話:地上の冷たさ

夜が、落ちる。一瞬だった。アダムの足が、わずかにずれる。

「……なんだ、これ……いきなり来たな……さっきまで普通に見えてただろ……支えが抜けた感じだ……立ってるのに、立ててる気がしない」

足裏で地面を押し直す。

「……地面、同じはずだろ……なのに信用できない……重さだけ、下に引かれるな」


ハワーも、遅れて足を動かす。指先が、少しだけ土を探る。

「うん……分かるわ……さっきまでは乗ってるだけでよかったのに……今は、自分で立ってる感じが強い……ちゃんと支えないと崩れそう」


アダムが、前を睨む。

「……暗いな……これ、続くのか?それとも戻るのか?時間の感じも、さっきと違うな」

口を開くが、音が途中で落ちる。

「……届いてないな……声も、途中で消える……遠くまで行かない」


ハワーが、顎を上げる。目が、空をなぞる。

「……上、見て……星、多すぎない?近いわ……落ちてきそう……園の空と全然違う……あれ、こんな距離じゃなかったよね?」


アダムも、目を細める。

「……距離が分からないな……遠いのか近いのか、どっちにも見える……決まらない」


ハワーの耳が、わずかに傾く。

「……ねえ……音、増えてるわ……さっきより、ずっと……」


アダムの視線が止まる。

「……ああ……止まらないな……一つじゃない……重なってる……」

首だけを、わずかに動かす。

「……右だな……奥……いや……」

足が、半歩だけずれる。

「……違う……草じゃない……擦れる音だ……細いのが、いくつも動いてる……地面の上、何か走ってる」


ハワーの指が、わずかに震える。空気を測るように止まる。

「……違う、もっと近いわ……右じゃなくて……こっち……足元のほう……見えないけど……地面のすぐ上を、何かが滑ってる感じ……」


アダムが、息を止める。

「……近いな……これ……数も多い……一つじゃない」

少し間。

「……測れないな……方向も距離も、はっきり決まらない……」


ハワーの肩が、わずかに強張る。

「……でも、消えない……ずっといる……途切れない……」

指先が、胸元で止まる。

「……聞こえてる……全部……」


音が、重なる。アダムが、目を凝らす。闇を押し返すように。

「……右の奥……いや……違うな……あれ……地面が少し動いてる……黒い影みたいなのが、波みたいに寄ってくる……形は分からない……でも、まとまって動いてる……こっちに来てるな」


ハワーの視線が、同じ位置で止まる。

「うん……寄ってきてる……でも、形にならない……見えないまま近づいてくるのが、一番分からないわ……」


アダムが、歯を食いしばる。

「……見えないな……輪郭が出ない……聞くしかないな……」


ハワーの息が、少し浅くなる。

「……見えない……でも近い……それが……ちょっと怖いわ……」


アダムが、低く落とす。

「……何かいるな……確実に動いてる……数も形も分からないのに、近づいてくる……」


ハワーが、小さく頷く。視線は外さない。

「……うん……分からないまま来る……止まらない……」


アダムの喉が動く。

「……見えないな……」

ハワーの指が、わずかに握られる。

「……見えないわ……」

二人とも、動かない。ハワーの視線が、わずかに落ちる。

「……園の夜は……包まれてる感じだったわ……目を閉じても、何も来なかった……」

視線を上げる。

「……でも、これは違う……押してくる……前からも、後ろからも……」


アダムが、短く吐く。

「……ああ……来てるな……夜って、こんなもんか……だいぶ違うな」


ハワーが、一歩だけ近づく。触れない。だが距離が縮まる。

「……眠れない……目、閉じるのちょっと無理……怖いっていうのとも違うけど……閉じたあと、どうなるか分かんない感じがする……」

少し間。

「……さっきまで普通にいられたのに……今は、閉じたら何か置いてくる気がするの……」


アダムが、息を一つ落とす。胸の上下を確かめる。

「……俺もだ……眠れる感じしないな……目閉じたら、そのまま戻れない気がする……なんでか分からないけどな」

そのまま腰を下ろす。地面に体重を預ける。すぐに眉がわずかに動く。

「……これ、横にならないほうがいいな……」


ハワーが、少し顔を傾ける。

「どうして? 疲れてるのに……寝たほうが楽じゃない?」


アダムが、すぐに首を振る。

「……分からない……でもな……起きてたほうがいい気がする……横になったら、何か見えなくなる気がする……それが何かは分からないけど……今は、見えてないのに、見えてないままにしちゃいけない感じがする」


ハワーが、そのまま地面に手をつく。指先で硬さを確かめる。

「……分かるわ……体が先に動く感じ……考える前に、なんか反応してる……園では、こんなことなかったよね……起きてなくてもよかったし……気にしなくても、そのままいられた……」


アダムが、少しだけ前かがみになる。

「……ここは違うな……何が違うか、分かるか?」


ハワーが、少しだけ迷う。

「……うまく言えないけど……」

胸に手を当てる。

「……先に来るの……考える前に、体が重くなる……決めてないのに、下に引っ張られる感じ……」


アダムが、すぐに重ねる。

「……ああ、それだ……考える前に来る……決めてないのに動く……動けって言われてないのにな……」


言葉が、そこで止まる。ハワーは否定しない。ただアダムを見る。背中が、少し丸くなっている。

「……姿も変わってるね……さっきと違う……」


アダムが、わずかに息を止める。

「……気づいてなかったな……」


そのとき、闇の奥から、低い音が伸びる。引きずるように、長く続く。ただの風ではない。地面に触れた何かが、湿ったものを擦るような、重い音。間に、短く途切れる息のようなものが混じる。吸うのか、吐くのか分からない、だが確かに“呼吸している音”。


ハワーの肩が、わずかに揺れる。

「……今の……聞こえたよね……さっきより長い……消えなかった……それに……ただの音じゃない……なんか……息みたいなの、混ざってる……」


アダムが、すぐに応じる。視線は闇のまま。

「聞いた……地面、擦ってるな……何か重いものが動いてる……止まってない……」

少し間。

「……近くじゃない……たぶんな……でも、遠くでもない……間にいる感じだ……ゆっくり、こっちに寄ってきてる……」


ハワーが、すぐに重ねる。

「……うん……近い……距離が、縮んでる感じ……でも、見えない……形が出てこない……見えないまま近づいてくるのが、一番分からない……」


アダムが、わずかに息を止める。

「……足音じゃないな……一歩ずつじゃない……ずっと滑ってるみたいに来る……四つで動いてる感じだ……」


ハワーが、小さく首を振る。

「……分からない……でも、人じゃない……同じじゃない……息が、違う……」


アダムが、低く重ねる。

「……ああ……人の音じゃないな……」

わずかに息を抜く。

「……まあ、俺たち以外に人はいないはずだけどな……この世で最初の人間だろ、俺たち……」

すぐに視線を戻す。

「……それでも違う……これは……人じゃない……いるな……確実に……」


ハワーが、足の位置をほんの少し寄せる。

「……離れないで……ここ……この場所、ずれたくない……あれに、気づかれたくない……」


アダムが、即座に返す。

「離れない……ここにいる……勝手に動かない……」


沈黙。だが、前の沈黙とは違う。ハワーが、小さく息を吐く。

「……さっきの静けさじゃないね……何も起きない静けさじゃない……何かが、もう来てる静けさ……」


アダムが、低く重ねる。

「……ああ……止まってるんじゃないな……来る前じゃない……もう……来てる」


ハワーが、横目でアダムを見る。肩が、少し落ちている。呼吸も、深くなっている。

「……ねえ……さっきより、重くなってる……肩、落ちてるわ……息も深い……無理してる感じする……疲れてるんじゃない?」


アダムが、わずかに眉を動かす。自分の胸に意識を落とす。腕、背中、足。

「……そうか?……分かんねえな……これが疲れかどうか、まだはっきりしない……でも、軽くはないな」

足を少し踏み直す。

「……園では、こんな感じにならなかっただろ……立ってるだけで、勝手に整ってた」


ハワーが、小さく頷く。

「うん……そのままでよかった……崩れる感じもなかった……」


アダムが、前を見たまま。

「……ここは違うな。休まないと、進めない感じがする……そのままだと、崩れる」


ハワーが、すぐに拾う。

「進むって……どういうこと?」


アダムが、少しだけ言葉を探す。

「……生きるってことだな。立つだけじゃなくて、続ける感じだ……止まったら、そのまま落ちる」


ハワーの呼吸が、少しだけ浅くなる。

「……じゃあ……休まないと、続けられないってこと?」


アダムが、わずかにうなずく。

「……たぶんな……ずっとそのままじゃいられない」


ハワーが、視線を落とす。

「……眠る?」


問いは静か。押さない。アダムが、すぐに返す。

「……怖いな。目閉じたら、そのまま戻れない感じがする……何か見逃す気もする……今は、閉じないほうがいい気がする」


ハワーが、少しだけ近づく。

「……じゃあ……どうする?」


アダムが、息を一つ落とす。

「……俺が起きてる……お前は休め……全部じゃなくていい……少しでもいいから」


ハワーが、すぐに首を振る。

「一人にしないわ……それは違う……でも……少しだけなら……目を閉じてもいいかもしれない……完全にじゃなくて」


アダムが、低く返す。

「……ああ……それでいい」


ハワーが、アダムを見る。

「……無理しないで……さっきより、重くなってるの分かるから……」


アダムが、わずかに息を吐く。

「……分かってる……できるところまでだな……無理はしない……でも、今は起きてる」


ハワーが、静かにうなずく。

「……うん……」


二人が、そのまま座る。同じ方向。少しだけ距離を保って。沈黙。風が抜ける。肌を撫でない。奪うように通る。


ハワーの肩が、わずかにすぼまる。

「……寒い。さっきと違う……中から抜けてく感じ……」


アダムが、自分の腕を見る。

「……これが寒さ……そうか……外から来るっていうより……中が減ってる感じだな」


ハワーが、胸に手を当てる。

「うん……足りなくなる感じ……そのままだと、保てない……」


アダムが、低く落とす。

「……だから動くのか……止まってると、持ってかれる」


ハワーが、静かに重ねる。

「……だから、休んで、戻すのね……」

二人は、同じ闇を見る。アダムは、目を閉じない。ハワーは、ほんの一瞬だけ、まぶたを落とす。すぐに開く。

「……まだ、無理……」


アダムが、短く返す。

「……いい……無理するな」

風が、止まらない。夜は、まだ、長い。アダムが、周りを見る。木。枝。葉。近くの葉を、両手でまとめて掴む。

「……これ、使えそうか……」

何枚か重ねる。ハワーの肩に掛けようとする。ずれる。落ちる。風が間に入る。アダムの眉が、わずかに寄る。

「……軽すぎるな……止まらない……」

もう一度、重ねる。今度は腕で押さえる。

「……今は、役に立たないな……温かくもならない……重ねても、変わらない」

吐き出すように。


ハワーが、落ちた葉を拾う。縁が裂けている。それでも離さない。

「でも……」

少し間。指で薄さを確かめる。

「……何もないよりは、マシだよね……完全じゃなくても、少しでも遮れるなら、それでいいと思うわ……」


アダムが、その言葉を受け取る。少しだけ視線を落とす。

「……ゼロじゃない、か……全部じゃなくてもいいってことだな……少しでも残れば、それで違う」

もう一度、葉を集める。今度は、自分の肩にも掛ける。

「……俺も冷えるしな……一人だけじゃ意味ないだろ……同じにしといたほうがいい」

風が抜ける。葉が鳴る。アダムが、歯の奥で呟く。

「……冷たいな……中、持ってかれる感じだ……園では——」


止まる。ハワーが、静かに続ける。

「冷たくならなかった……そのままでよかった……」


アダムが、短く返す。

「……ああ……」


沈黙。一拍。ハワーが、自分の腕をさする。

「……こうすると……少し残る……全部じゃないけど、消えきらない感じ……」


アダムが、それを見る。すぐ真似る。

「……分からないけどな……でも、やらないよりいい……完全じゃなくても、減らせるなら、それでいい」

周りの風を感じる。肩の向きを変える。

「……こっち、来い」


ハワーが、顔を上げる。

「え?」


アダムが、位置を少しずらす。

「……この角度、風が抜けにくい……背中側、少しだけ弱い……」

足を一歩動かす。

「ここ……この位置……」


ハワーが、少し迷う。

「……本当に?」


アダムが、短く返す。

「……分からない……でも、さっきより当たりが弱い気がする……」


ハワーが、一歩近づく。触れない。だが、距離がほぼ消える。風の当たり方が、変わる。ハワーの呼吸が、わずかに止まる。

「……違う……さっきと……当たり方が変わった……直接じゃない……少しだけ、流れてる……」


アダムが、すぐに応じる。

「……ああ……抜け方が変わったな……正解じゃないけど、外れてもない」


葉が、二人の間で擦れる。ハワーが、小さく息を吐く。

「……これ、いいかも……完全じゃないけど……さっきより保てる……」


アダムが、低く続ける。

「……今は、動かないほうがいいな……」


ハワーが、すぐに聞く。

「どうして?」


アダムが、少し考える。

「……分からない……でもな……動くと、これ全部崩れる……風も、また当たり直す……今の感じ、切れる」


ハワーが、少しだけ頷く。

「……じゃあ……このまま……保ったほうがいいってことだよね……」


アダムが、短く返す。

「……ああ……今は、それしかない」


ハワーが、提案する。

「……座る?」


アダムが、すぐにうなずく。

「……うん、そのほうが安定する」


二人が、同時に腰を下ろす。地面が、はっきり冷たい。ハワーが、息を吸う。

「……下も、冷たい……」


アダムが、すぐに返す。

「……上だけじゃないな……下からも来る……」

葉を、地面に広げる。

「……敷く……これで少し切れるかもしれない……」


完全ではない。それでも、直接ではなくなる。ハワーが、その上に座り直す。

「……全部じゃないけど……直接じゃないだけで、違う……」


アダムが、小さく息を吐く。

「……全部は防げないな……でも、減らせる……それでいい」


ハワーが、葉の端を指で押さえる。ずれないように整える。少しだけ、手が止まる。

「……うん……一人じゃなくて、こうやって一緒にやると、形になるね……ありがとう」


アダムが、わずかに視線を落とす。

「……一人だと、足りないな……いや……一人じゃ思いつかなかったな……こうやってやるもんなんだな……」


風が、また抜ける。だが、さっきより弱い。二人は、そのまま動かない。アダムは、何も言わない。同じように、葉の上に、座る。肩が、近い。触れない。だが、間が、ない。ぽつりと落とす。

「……こういう距離だと……風、分かれるな……そのまま胸に来ない……肩の外を抜けていく……」


ハワーが、首をわずかに傾ける。肩で、当たり方を確かめる。

「……うん……違うわ……さっきみたいに、正面から当たらない……一回ずれてから当たる……弱くなってる……一人のときより……当たったあと、そのまま抜けてくね……」


風が、また吹く。さっきより、わずかに弱い。アダムが、低く続ける。

「……寒さって……こうやって来るのか……当たって、そのまま中に入ってくる……来たあとで、どうするか決めるしかないな……そのままだと、持ってかれる……」


ハワーが、小さくうなずく。

「……うん……でも……そのまま当たり続ける感じじゃないね……さっきみたいに、全部受けるわけじゃない……」

指先で、葉の重なりを直す。

「……肩で少し止まるし……横に逃がせる……全部じゃないけど……」


アダムが、それを見ながら。

「……防げないけど、弱くできるってことか……」


ハワーが、すぐに重ねる。

「うん……なくせないけど……そのまま受け続けなくていい……一人じゃ、無理だったね……これ……全部、まともに受けてたと思う……」


アダムが、わずかに息を落とす。

「……ああ……一人だと、全部そのまま当たるな……逃がせない……二人だと、二人だと、当たり方が変わる……直で来ない……」

視線が、わずかに落ちる。

「……もう少し、寄れるか」


ハワーが、顔を上げる。

「え……?」


アダムが、短く続ける。

「……たぶんだが……近いほうが、逃がせる……それと……」

一瞬、言葉を探す。

「……体の熱も、残るかもしれない……分からないけどな……」


ハワーが、少し迷う。だが、止まる理由もない。

「……うん……やってみる……」

一歩、寄る。距離が、消える。肩が、触れる。そのまま、止まる。ハワーが、小さく落とす。

「……あれ……さっきより……冷えない……」

肩で確かめる。

「……ここ……違う……」


アダムが、わずかに息を止める。視線は動かさない。

「……ああ……風だけじゃないな……お前、あったかいな……これ、残るんだな……」


ハワーの呼吸が、わずかに変わる。

「……うん……ほんとだ……ここ……抜けていかない……」

指先が、止まる。

「……残る……」


アダムが、低く返す。

「……離さないほうがいいな……これ、離したらまた冷える……」


ハワーが、静かにうなずく。

「うん……このままでいい……一緒にいると……減るね……さっきより、ちゃんと違う……」


アダムが、息をひとつ落とす。

「……やってくしかないな……来るものを、そのまま受けるんじゃなくて……減らしていくしかないな……」


ハワーが、すぐに重ねる。

「うん……全部は無理でも……減らせるなら、それでいい……」


アダムが、少しだけ前を見る。

「……覚えること、多いな……」


ハワーが、間を置かず返す。

「……生きるなら、ね……何もしないっていうのは、もう無理でしょ……」


アダムが、低くうなずく。

「……ああ……来る以上、どうするか決めるしかないな……」


風が、抜ける。だが、さっきより弱い。二人は、動かない。葉は、完全ではない。身体も、慣れていない。それでも、離れない。


ハワーが、小さく落とす。

「……さっきより……冷え方、弱い……」


アダムが、短く返す。

「……ああ……当たり方が違う……」


ハワーが、静かに続ける。

「……こうやってやるのが……ここで生きるってことかもね……」


アダムが、少しだけ考えてから。

「……最初から揃ってるんじゃなくて……自分で調整していくってことだな……何もしないと、そのままだと、持ってかれるな……」


ハワーが、やわらかく重ねる。

「うん……だから、一緒にやるんだね……全部、一人で受けないために……」


沈黙。だが、前の沈黙とは違う。止まっていない。二人のあいだに、“どう受けるかを決め続ける”という向きだけが、静かに置かれている。時間だけが、静かに、先へ進む。光が、戻る。一瞬だった。


アダムの目が、反射的に細くなる。

「……明るくなったな……」

そのまま顔を上げようとして、止まる。

「……いや……これ……痛いな……」

眉が寄る。目の奥が締まる。

「……見てると……押されるな……」


ハワーも顔を上げて、すぐに逸らす。

「……うん……これ……刺さるわ……」

手で頬を少し覆う。

「……当たってるところ……じんじんする……」


アダムが腕を上げる。光を遮る。

「……ああ……これだ……直接当たると、きついな……」

腕の影が顔に落ちる。一瞬、楽になる。

「……影あると違うな……当たりが弱くなる……」


ハワーがその動きを見る。同じように手を上げる。

「……ほんと……ここ……楽になる……さっきと全然違う……」

光がまた当たる。

「……でも……ずっとは無理ね……腕、持たないわ……」


アダムが低く吐く。

「……夜は冷えてたのに……今度はこれか……」

足元を見る。

「……下からも来てるな……」


ハワーがすぐ反応する。足を少し動かす。

「……ほんと……地面……あったかいっていうより……熱いわ……じっとしてると……足の裏から上がってくる……逃げ場ない感じ……」


アダムが短くうなずく。

「……上と下、両方から来るな……逃げ場ないな……」


ハワーが空を見ようとして、すぐやめる。

「……これ……ずっと続くの……?」


アダムも一瞬だけ空を見る。すぐ逸らす。

「……直で見るのは無理だな……目が持たない……」

腕の影を見ながら。

「……角度で変わるな……」

手を動かす。影がずれる。

「……ここだと楽だな……こっちだと一気に来る……」


ハワーが地面を見る。二人の足元。

「……影、動いてる……」


アダムがすぐ反応する。

「……ああ……さっきと位置違うな……」

一歩ずれる。影がずれる。

「……ついてくる……いや……違うな……俺たちが動いてるのか……?」


ハワーが首を振る。

「……違うと思うわ……」

地面を指で示す。

「……同じ場所にいるのに……影だけ動いてる……あれが動いてるのね……光のほう……」


アダムが低くまとめる。

「……じゃあ、あれが動くと影も動くってことか……使えるな……」


ハワーがすぐ拾う。

「うん……ここ、楽だもの……当たり方が全然違う……刺さらない……」

影の中に足を入れる。

「……直接来ない……一回弱くなってから当たる……」


アダムが周りを見る。木。岩。地形。

「……隠れる場所いるな……影が溜まるとこ」


ハワーがすぐ見つける。顎で示す。

「……あそこ……」

低い地形。岩の影が溜まっている。

「……濃いわ……あそこ……」


アダムがすぐ動く。

「……行くぞ」

二人が歩く。一歩。足裏に熱。

「……熱いな……踏むたび来る……」


ハワーも同じように。

「……うん……でも止まるよりいいわ……じっとしてるほうがきつい……」

影に入る。一瞬。空気が変わる。ハワーの息が落ちる。

「……あ……違う……ここ……全然違う……」

肩が少し下がる。

「……さっきより楽……ちゃんと抜ける……」


アダムも肩を落とす。

「……ああ……抜けたな……これだな……今はここだ」


ハワーが影の境目を見る。光と影の線。

「……でも……止まってないわ……」

指でなぞる。

「……少しずつ動いてる……逃げてるみたいに……」


アダムがすぐ理解する。

「……追えばいいな……動くなら、ついていけばいい……」


ハワーがうなずく。

「うん……完全じゃないけど……なくなるわけでもない……ちゃんと使えば、楽になるわ……」


アダムが低く返す。

「……ああ……逃げるんじゃなくて、使う感じだな……」


空はもう完全に明るい。影はゆっくり動く。ハワーが小さく落とす。

「……優しくはないわね……でも、ちゃんと見れば避けられるところもある……全部じゃないけど……さっきより分かる……」


アダムが短く返す。

「……ああ……どうにもならないわけじゃないな……考えれば、少しは変えられる……そのまま受けるしかないってわけでもない……」


ハワーが静かに重ねる。

「うん……全部は無理でも……選べるところはある……それだけで、だいぶ違うわ……」


沈黙。だが、止まっていない。アダムが最後に落とす。

「……こうやって、生きていくんだな……」


ハワーの視線が、地面に落ちる。

「……あれ……」


少し近づく。白い布が、地面に落ちている。アダムも気づく。

「……なんだ、それ……」

拾い上げる。軽い。風に少し揺れる。

「……布、か……」

少し間。自分の身体を見る。

「……まあ……明るいしな……裸のままは、さすがに落ち着かないな……見えすぎる……」

そのまま肩にかける。巻く。少しずれる。直す。

「……こうか……いや……」

もう一度整える。腹のあたりを覆う。右肩は出る。左側だけ斜めにかかる。少し動いて、確かめる。

「……これでいいよな……全部じゃなくても、さっきよりマシだ……ちゃんと隠れてる感じはある……」


ハワーが、それを見る。少しだけ目を細める。

「……うん……違う……さっきより落ち着く……見られてる感じ、少し弱くなってるわ……」

自分も布を取る。少し迷う。

「……どう巻くの……?」


アダムが、そのまま答える。

「……分からないな……でも、さっきみたいに隠れればいいだろ……全部じゃなくてもいい……」


ハワーが、体に当てる。胸元。肩。少しずれる。

「……これで……いいのかな……ちょっと不安ね……」


アダムが見る。一瞬、考える。

「……いや……髪、隠したほうがいいな……そのままだと、そこだけ浮いてる……」


ハワーが、顔を上げる。

「……なんで?」


少し間。アダムが、そのまま返す。

「……分からないけどな……そのほうがまとまる感じがする……さっきみたいに全部出てるより……落ち着く……」


ハワーが、少しだけ考える。それから布を上げる。頭にかける。髪が、半分隠れる。少し整える。

「……こう……?」


アダムが、少しだけ見る。

「……いいな……それ、似合ってる……さっきよりちゃんと収まってる……見てて落ち着く……」


ハワーの手が、少し止まる。

「……そう……?……変じゃない……?」


アダムが、すぐに返す。

「……変じゃないな……むしろ、そのほうが自然だ……これで、人らしく見えるな……」


ハワーが、小さくうなずく。布を軽く押さえる。

「……うん……これでいい気がする……さっきより、ちゃんといられる……」

二人とも、自分の状態を確かめる。風が、抜ける。だが、違う。ハワーが、小さく落とす。

「……これも……同じね……」


アダムが、低く返す。

「……ああ……そのまま受けるんじゃなくて……こうやって変える……一つずつ、だな……」


ハワーが、静かに重ねる。

「うん……全部じゃなくても……少しずつ……」


沈黙。だが、今度は違う。整っている。アダムが、最後に落とす。

「……これで、少しは進めるな……このまま行けそうだ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ