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第16話:名前の意味

朝の光が低い。影が長い。枝。石。水。土。四人は円の中。少しだけ間がある。アダムがしゃがむ。枝を置く。

「……これ、何にする」


カービルがすぐ前に出る。

「なげる。こうやって、バーンって。あっちまで飛ばす。すごい遠くまで行く」


手を振る。もう一度振る。体ごと前に出る。アクリーマが笑う。

「たたく!ドンって!音出る!いっぱいやると、もっと大きくなる!」


ハービルは枝を見ている。触らない。少しだけ並べる位置をずらす。倒れかけて、止まる場所を探す。

「……建てる。ここに置く。立つと倒れない。こうやって並べると、残る」

位置をまた直す。

「囲う。ここに入る。雨が来ても当たらない。隠れる場所になる」


指で枝を立てる。間を測る。レイユダがその横でしゃがむ。ハービルの手を見る。枝を見る。

「……こっちも置く。いっしょに。倒れないとこ、ここ。中できる」


触る。でも持ち上げない。そっと寄せる。アダムは何も言わない。石を置く。

「……これは」


カービルが手を振り下ろす。勢いがある。

「割る。ぶつける。強いから。ガンってやると、こわれる」


アクリーマが乗る。

「すごい!ガンってなる!音でわかる!」


ハービルは石に触れる。すぐ離す。もう一度、ゆっくり触る。縁をなぞる。

「……かたい。動かない。ここで止まる。立つためにある。これがあると沈まない。ここに立てる」


指を置く。石の上で止める。レイユダが近づく。同じところを指でなぞる。

「……ほんとだ。ここ沈まない。上に立てる」


アダムが水の器を置く。光が揺れる。

「……じゃあ、これは……何のためにある?」


カービルが即。

「飲む。のどかわくから。これ飲むと、また動ける」


アクリーマもすぐ。

「飲む!いっぱい!こぼしてもいい!」


ハービルは水を見る。顔を近づける。指でふちを押す。揺れる。光が動く。

「……映るため。ここにある。顔がここに出る。動く。さわると変わる。でも戻る」


レイユダがのぞく。水面をじっと見る。

「……ほんとだ。もう一人いる。こっち見ると、動く」


少し顔を動かす。水も動く。カービルが顔をしかめる。

「いないよ。それ水だよ。飲むやつだよ」


アクリーマも笑う。

「それ、うつってるだけ!本物じゃない!」


ハービルは首を振らない。ただ水を見る。

「……でも、ここにいる。消えない」


アダムは何も言わない。土を落とす。

「……じゃあ、これは」


カービルが手で押すまね。ぐっと下へ。

「うめる。かくす。見えなくする」


アクリーマがかぶせる。

「お山つくる!上に乗せる!」


ハービルは土をすくう。落とす。音を聞く。崩れるのを見る。

「……命を育てるために。ここから出る。木とか草とか、ここから出る。上にのびる。なくならない。下にある」


もう一度落とす。形が変わる。レイユダがその手を見る。

「……消えてない。ここから出る」


少しだけ、うなずく。アダムが四人を見る。

「……同じじゃないな。同じ物なのに、何かも、何に使うかも、答えが全部違う」


ハワーが横から。

「……うん、同じじゃない。同じ物なのに、見えてるものも、使い方もそれぞれ違うのよね」


四人はまた見る。枝。石。水。土。触り方が違う。止め方が違う。見る場所が違う。誰も直さない。 誰もまとめない。同じ問いだけが、別々の場所に残る。


しばらくして、声は止まる。でも手は動く。土が残る。線が残る。少し盛り上がる。アダムが上から見る。

「……そこ、やめろ。そこ空いてる。触ると崩れる。足乗せたらズルって落ちる」


カービルがすぐ引く。足も引く。

「……あ、落ちるやつだ。やめる」


アクリーマも下がる。

「……こわいとこ!ここ、ぺたってなるやつ!」


ハービルは動かない。 指だけで線をなぞる。アダムが呼ぶ。

「……ハービル。聞いてたよな。そこ、触ると崩れる。指も一緒に落ちるぞ。今はやめろ。崩れたら手も埋まる。抜けなくなる」


カービルがすぐに。

「……だからやめろって!落ちたらイヤだろ!」


アクリーマも前に出る。

「……ほら、カービルもうやめたよ!ハービルもやめて!」


ハービルは顔を上げない。でも指が止まる。レイユダが一歩寄る。

「……とまった。いま、やめた」


アダムが低く。

「……そう、それでいい。今は触らない。あとで固くなってからやる」


ハービルの手が離れる。体が半歩下がる。

「……うん。落ちるとこ見えた。だからやめた」


カービルがすぐ返す。

「……じゃあなんでさわってたの?言われたらすぐやめろよ」


ハービルが少しだけ顔を上げる。

「……見てた。どこが落ちるか見てた。ここで切れるって分かった」


カービルが眉を寄せる。

「……落ちるって言ってるのに、なんでさわるんだよ!」


ハービルはそのまま。

「……さわってない。なぞってただけ。ここ、もう落ちる線だった」


アクリーマが間に入る。

「……でもあぶないよ!手も一緒にいくよ!」


ハービルが小さく。

「……うん。でも落ちる前で止めた」


カービルが息を吐く。

「……おそいんだよ。先にやめろよ」


ハービルは視線を落とす。

「……先に見てた。でも、止まるとこ見てからやめた」


アダムが口を開く。

「……だから——」


ハワーの声が入る。

「……今はそれでいい。ちゃんと止まったでしょ。それでいいの。やり方が違うだけ」


場が止まる。カービルが土を見る。

「……ちがうな。おれはすぐやめる。ハービルは見てからやめる」


アクリーマがうなずく。

「……うん。カービルすぐ。ハービルちょっとあと」


レイユダが小さく。

「……でもどっちも、とまった」


ハービルは何も言わない。ただ線のあとを見る。アダムが息を吐く。

「……同じ“やめろ”でも、やり方は同じじゃないな。すぐ止まるやつと、見てから止まるやつがいる」


ハワーが続ける。

「……うん。でもどっちも、最後は止まってる。それでいいのよ」


沈黙。誰も叱られていない。誰も勝っていない。ただ、同じ言葉でも、動き方は同じじゃない。その違いだけが、 床に残る。


しばらくして、土はならされている。線は消えている。端に、小さな山だけ残る。カービルがすぐ近づく。


アダムが手を払う。粉が落ちる。

「……今日はここまで」


カービルが顔を上げる。すぐ前に出る。

「……え、まだできるじゃん。ここまだあるし、今ならもっと固くできる。さっきよりちゃんと残る形にできるし、このままやれば崩れない。今やらないと変わっちゃうよ」


指が土の手前で止まる。アダムは同じ高さで。

「……今はやめる。続きは夜。手を洗ってからやる。今さわるとまた崩れる。まだやわらかい。今は見る時間だ」


カービルの眉が寄る。

「……夜まで待つの?でもこれ、今の形は今だけだよ。ほっといたらぐしゃってなる。ちゃんと残したいなら今やるでしょ」


アクリーマが横から入る。

「……だいじょうぶだよ。ちゃんと固めたらなくならない。夜でもできるよ。今じゃなくても同じになる」


カービルは土を見たまま。

「……逃げるんだよ。こういうの、さわらないと逃げる。さっきも変わっただろ」

横を見る。

「……ハービルは?今やるの?」


ハービルは顔を上げない。指は土の上で止まる。

「……ぼくはあとでやる。今さわると崩れる。中まだやわらかい。待ったら固くなる。そうしたら形、ちゃんと残る」


カービルがすぐ返す。

「……でも今も固いとこあるじゃん。ここ押したら残るよ」


ハービルはそのまま。

「……そこだけ固い。でも全部はまだ動く。今押すと形ずれる。止まるとこ決まってからやる」


アクリーマが少し前に出る。

「……じゃあ、ちょっとだけやる?ここだけとか」


アダムが静かに切る。

「……今日はやめる」


カービルが口を開きかけて閉じる。

「……ふーん」


納得じゃない。でも手を引く。ハービルの指も離れる。

「……あとでやる」


誰にも向けない。アダムが短くうなずく。

「……よし」


カービルはまだ土を見ている。

「……ほんとにやらないの?」


アダムは返さない。

「……夜だ」


カービルは土を見たまま。

「……夜まで残ってろよ。なくなるなよ」


夜。火が小さい。影が揺れる。ハービルは入口でしゃがむ。外を見る。

「……あとでやる」


火がぱちっと鳴る。奥から声。

「……それおれの!」

「……取れるなら取ってみろ!」


走る音。笑い。ぶつかる。ハービルは顔だけ向ける。一瞬。レイユダが横で。

「……今やらないの?なくなっちゃうかもよ」


ハービルは動かない。

「……あとでやる。今やると急ぐ。ぐちゃってなる。ちゃんと見てからやる」


レイユダが小さく。

「……忘れない?」


ハービルは少しだけ目を上げる。

「……だいじょうぶ。まだある。見てれば分かる。なくなってない」


火が揺れる。奥ではまだ走っている。

「……ほら、早く!」

「……負けるぞ!」


笑い声が続く。入口では動かない影が一つ。同じ夜。同じ言葉。でも、一つは、今を取りに行く。一つは、まだ待っている。

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