第14話:四つの呼吸
夜は、少し静かになっていた。泣き声は止んでいない。でも、もう重ならない。手前に一組。奥にもう一組。四人の呼吸が、それぞれ違う速さで続いている。ハワーは布を整えながら、四人を同じ距離で見る。
アダムは少し後ろで腰を下ろし、順番なく視線を走らせる。一つ、止まる。次。また一つ。アダムが、息を吐く。
「……前は一組で限界だったよな。でも今は違う。見る場所も気にするところも増えたのに、落としてない。きついけど、四人ともちゃんと回ってるな」
ハワーは手を止めない。
「……うん。多いけど崩れてないわね。今はそれでいい。どこが動いてて、どこが静かか、ちゃんと見えてる」
そのとき、手前が短く鳴く。奥が、遅れて動く。二人とも動かない。アダムが低く。
「……今の、触らなくてよかったな。前なら絶対抱いてた。でも今は違う。放っても戻る。全部じゃないけど、自分で落ち着くのもいる」
ハワーがすぐ重ねる。
「……うん。全部拾わなくていいのよね。どれが上がって、どれがそのまま下がるか、それを見てからでいい」
視線が奥に刺さる。
「……ね。奥、分かれてる。こっちは男の子。こっちは女の子。動きも違うし、泣き方も違う。もう同じじゃない」
アダムが、すぐ見る。迷わない。
「……そうか。じゃあ決めるぞ」
一拍。
「……こっちがハービルだな」
男の子を見る。すぐ、もう一人へ。
「……こっちがレイユダ」
名前が、落ちる。空気が、わずかに締まる。ハワーが、短くうなずく。
「……うん。それでいい。今、ちゃんと分かれた」
アダムが息を吐く。
「……さっきは四人同時で何も見えなかった。でも静かになると見えるな。手前もそうだったけど、同じ日に生まれても、最初から揃ってないな」
「……うん。だから今は無理に揃えない。名前だけ置いて、それぞれの場所を作る。それで十分よね」
アダムがすぐ動く。
「……カービル」
反応。小さい。
「……アクリーマ」
もう一つ、指が動く。間を空けない。
「……ハービル」
奥が反応する。
「……レイユダ」
もう一つが動く。アダムが、小さく笑う。
「……ちゃんと拾ってるな。意味はまだでも、呼ばれた音は入ってる」
ハワーも、わずかに笑う。
「……うん。呼ばれたってことは分かってる。だからそのうち、ちゃんと分かれていく」
アダムが、少しだけ強く言う。
「……間違えたくはないけどな。でも混ざっても消えない。呼び直せばいい。何回でも呼べば、そのぶん残る。ここに、ちゃんと残っていく」
ハワーが四人を見る。
「……うん。呼ぶたびに場所ができていくわね。まだ揺れてるけど、もうただの音じゃない」
また一つ、動く。でも大きくはならない。アダムが、息を落とす。
「……今日は、最後まで持たせたな。全部は無理でも、切らさず回せた」
ハワーが、前を見たまま。
「……うん。崩さなかったわね。四人とも途中で切れなかった」
アダムが、四人を見る。
「……明日も来るな、これ」
「……来るわね」
短い。奥が、小さく鳴く。すぐ収まる。二人とも見る。でも、もう動かない。アダムが、少しだけ笑う。
「……今は呼ばなくていいな。もう落ち着いてる」
ハワーがうなずく。
「……うん。聞こえてるもの」
二人は黙る。四人の呼吸だけが続く。速さも、間も、全部違う。でも、止まっていない。このまま、次に繋がっていく。そう分かる形で、夜は続いていた。




