表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/34

第12話:もう二つ分

夕方の光が、ゆっくり落ちていく。昼の形を残したまま、夜に寄っていく色。子どもたちは眠っている。 二つの呼吸だけが、静かに続く。


ハワーは、手を見ている。それから、腹に触れる。動かさない。

「……ね。これ、前と同じだわ。気づく前にあったあれ。でも今回は早い。まだ何も起きてないのに、来る気配だけ先にある」


アダムが視線を戻す。

「……似てるけど同じじゃないのか。早く分かるの、いいのか怖いのか分かんねえな」


ハワーは、手を離さない。

「……似てる。でも同じじゃない。前は分からなかったから怖くなかった。でも今は知ってるから、先に怖い。まだ小さいのに、もう次が来るかもしれないって思う」


子どもが寝返りを打つ。遅れて、もう一つも布を鳴らす。アダムが、二つを見る。

「……まだ決まってない。でも来る気配はあるな」


「……うん」


アダムが息を吐く。

「……口に出すか?」


「……まだ。前より、慎重にいく」


アダムが小さく笑う。

「……前、俺何もできなかったな。ただ一緒にいるだけだった」


ハワーがすぐ返す。

「……それで足りてた」


アダムがうなずく。

「……じゃあ今回も同じだな。俺は先を見る。何が来るか、どこで変わるか、そこ考える」


「……お願い」


「……そっちは中だな」


「……今どうなってるか、この中で何が起きるか、そこ見る」

ハワーが、もう一度腹に触れる。

「……今は、まだ何もない。でも、何か始まりかけてる気配はある」


アダムが低く重ねる。

「……ああ。動いてはないけど、止まってもない」


外の光が、さらに落ちる。二つの呼吸が、少し深くなる。


アダムが近づく。手を伸ばす。触れない。

「……今は動かないほうがいいな。変えずに、そのまま見る」


ハワーが小さくうなずく。

「……うん。それでいい」


「……前より、分かるようになってきたな」


「……うん。言わなくても」


アダムが、短く笑う。

「……楽だな、それ」


「……遅いよりいいでしょ」


小さな気配だけ、笑う。子どもたちが、またわずかに動く。 二人とも、同時に視線を向ける。何も起きない。アダムが息を吐く。

「……今はいいな」


「……うん」


それだけで足りる。言葉は続かない。でも、止まってもいない。二人の呼吸が、二つの眠りに引き寄せられるように、同じ速さに揃っていく。


夜が重なる。外の音が少し近づく。子どもたちは眠ったまま。腕の中の重みだけが、はっきり増えている。


アダムが、自分の手とハワーの手を見比べる。

「……なあ。前と同じやり方してるのに、同じ感じじゃないな。前はこれで回ってたのに、今はどこか余るどころか、少しずつ足りなくなる。抱き方も、食べさせ方も、置く場所も変えてないのに、手だけが追いつかない」


ハワーは視線を落としたまま。

「……うん。さっきも持ち直してたでしょ。前は首だけ見てればよかったけど、今は背中まで支えないと頭が傾くし、すぐぐずる。手の使い方が一つ増えてるのに、手は増えてない」


アダムが、子どもたちを見る。

「……足りないの、分かりやすいな。量も場所も足りなくなるけど、一番先に来るのは手だな。持つ、支える、動かす、この三つを同時にやると、どれかが遅れて泣かせる」


ハワーが静かにうなずく。

「……だから順番じゃなくて役割ね。どっちが今どこを見るか決めないと回らない。前みたいに一人で両方拾うやり方は、もう間に合わない」


アダムが息を吐く。

「……分かってる。順番で回すと遅れるし、同時にやると手が足りない。じゃあ分けるしかないな。俺は外と先を見る。食べ物と場所、どこまで増やせるか、そこを先に用意する」


ハワーがすぐ返す。

「……お願い。私は中見る。今どっちが動き出しそうか、どこで乱れそうかじゃなくて、どこで泣き出しそうかを見る。先に拾えば、乱れない」


アダムが低く。

「……食べ物、すぐ足りなくなるな。このまま増えたら、今の倍は要る。後からじゃ追いつかない」


「……うん。でも一気には来ない。今はまだ回ってる。だから足りなくなる前に、少しずつ増やすの」


アダムがうなずく。

「……増えるほうが怖いな。減るなら削ればいいけど、増えると手が回らなくなって、どっちか待たせることになる」


ハワーが視線を上げる。

「……でも一人じゃない。あなたが先を広げて、私は今を拾う。それで両方遅れない。今はそれで足りる」


アダムが、小さく笑う。

「……一人だったらもっと速く動けたけどな。でも今は、それやるとどっちか泣かせる」


「……泣かせないでしょ」


「……泣かせない」

子どもたちが、ずれて動く。二人とも同時に視線を向ける。何も起きない。アダムが、息を落とす。

「……増えたな。重さだけじゃなくて、やることも。抱くだけじゃ足りなくなって、見る場所も順番も増えてる」


ハワーが小さくうなずく。

「……うん。でも、ちゃんと回せてるところも増えてる。さっきみたいに、二つともすぐ落ち着いたでしょ」


アダムが息を吐く。

「……ああ。だからまだ持ててる」


夜は静かだった。一人分で足りていたやり方は、もうそのままでは続かない。だから二人で分ける。先と、今。どっちも見て、どっちも遅らせない。それで、なんとか回っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ