第一章7 『未知の一面』
思いもしなかった。同じクラスの女の子にここまで好意の一点張りを貰うだなんて本当に思いもしなかった。
ここまで気が狂ったように一方的に愛を叫ばれる経験するなんて思いもしなかった。その対象がこの私である事も。香田麻由里との初縁はこの学園であることに疑いはない。彼女にとってはそれ以前に私と深い縁があるような関係がしてならなかったらしい。女の子が好きで、一度好きになれば自分の『モノ』にしたいという性がある。それは呪縛か彼女独自の愛情から派生したものか。1年から同じクラス、そこから彼女から熱烈な目線を感じることが多々とあった。どこに住んでいるのか、趣味はなにか、好きな『同性のタイプ』を訊いてくることだってあった。ストレートな黒髪と独特なバツ模様の右目の瞳孔、整った顔立ちを私の眼中から学園にいる間に消えることはほとんどないほどに彼女からアプローチは凄まじい。
「すみれちゃんはさ、私のことどう思ってるの?....」
わたしの愛おしい人、猫兎すみれ。あの娘がいつも私の空っぽの心を満たしてくれるような存在。初めて目にした時の心の鼓動は死んだとしても忘れる事はないって言える。どこかうつろげな表情とクセのある髪を靡かせて机に向かって学業に向き合っている姿だってわたしにとっての魅力そのものだったの。
あの娘と一緒にいたいって愛情はいつの間にかわたしのモノにしたいに変わってたの。すみれちゃんが魅力的なのがいけないんだ。度が過ぎてるかな.....
嫌われてないかな.....嫌われちゃったらどうしよう....
あの娘がわたしを遠ざけてきたら....本当に息をするのをやめたくなるかも。でもわたしの『still get chanel』.....あなたをまだ愛し足りない。これからも構ってほしい。お願いだから『好き』って言ってほしいの。
「あんたにそんなシュミがあるの知らなかった。ちょっとビックリした」
「わたし、すみれちゃんだけだよ?そーゆーシュミ」
「さっきも言ったけど、後輩を待たせてるんだって。今あんたに割ける暇がないってこと。」
「コーハイ コーハイって....すみれちゃん、わたし以外にまともお喋りするお相手いなかったよね...?いつ後輩と仲良くなったの?部活だって入ってないのに..?」
「出会ったから。それだけ。そうとしか言えない...だから私の足を返してくれる?...」
「.......ぃゃ」
すみれの右足は次第に石像のように凝り固まる。完全にすみれの意思から外れたようにただひっついてるだけの付属品となった。絶対にこの廊下から離さない彼女の異常な愛情がつたる。『細胞』がすみれの足を離さない。右足は真逆のゆみりの立つ方向に向かせる。ゆみりから静かな怒りが漂っていた。
「すみれちゃんって...わたししかお友達と呼べる子いないでしょ?......わたしのわがまま少しだけでいーからガマンしてよ...」
「あんたのわがまま、もう飽きちゃった」
「.......今の取り消して?」
静寂ながらも怒りを混じらせた声を漏らしたながら真っ白な目をすみれに晒して、自ら歩みよった。
すみれの頬、髪、腰に手を当てて「好き」だとか「かわいい」だとか「愛してるのに」と自分勝手な愛情を聞かせた。すみれは耐えるでも否定するでもなく、『わかったから』の一言を返した。
「ぇ?...今なん」
すみれは舌をだして唾液を少しづつ垂らしていた。その粘度のある唾液は無色透明とは程遠い青紫の色がかかっている。ゆみりの侵入させた『細胞』を吐き出す準備をしていた。
「わたしの細胞...が?」
―バチャン!
ステンドグラスを通した光の屈折が走る静寂な廊下で音が響き渡る。すみれの右手の平がゆみりの左頬に打ち付けられた音。それに困惑して漏れるゆみりの声、途切れに囀る野鳥。放課後の活動に励む人々の声。
「目覚めた?」
すみれがそう一言、唖然と放心するゆみりに放った。
ゆみりは悲しむでも怒るでも喋ることさえせず左頬を押さえる。
すみれちゃんにぶたれた?....これって彼女なりのアンサーなのかな...?私はよくママにもぶたれてた。好きって印を刻むために。その好きの印を...すみれちゃんに刻まれたの?...わたし、わたし........
やっぱすみれちゃんも同じ気持ちだったんだ。
すみれちゃんはだけは手を互いの手汗が混じるほどに握っても後ろから抱きついても頭のつむじの匂いを鼻をつけて嗅いでも...胸を揉んでも....他の娘と違って「キモい」とか「やめろ変態」とかドス効いた声で言ったり、嫌な顔?はしてたかもしれないけど受け入れてくれていた.....。
これってそういう事なんだよね......?
すみれちゃんも私のこと『好き』って捉えてもいいってことなんだよね?....
「すみれちゃん、わたし達リョーオモイ?ってやつだったんだ」
「...は?」
廊下にかかる光にも劣らぬほどの満面の笑顔をみせてそう呟いていた。思わぬ返信に助詞を単独で投げ込んでしまった。彼女の顔は今まで過ごして来て見た事ないほどのペカった笑顔を辞めず再び『細胞』を解く。
「あんた、気は確か?...さっきのが何を意味したか分かってない訳?...」
「ううん!分かってるよ、すみれちゃん。」
細胞がすみれとゆみりの周りを塀で囲うようにして渦巻く。準備をする暇もなく目を瞑るたびに2人きりの部屋を作り出した。
「何するつもり?....家に帰るためには待たせてる後輩達と会わないと帰れない。もう時間がないってこと、あんたの相手はしてられないって何回言えばわかんの?」
「ふぅん。その感じだとそのコーハイちゃん達も"持ってる"みたいだね。わたし達と同じようなヤツが」
「あんたの顔面凹ますしかないってこと?」
すみれの準備によって無から現れたような拳がゆみりの頬付近に位置していた。見越したように拳はゆみりの頬にめり込む寸前で止められた。
「2人きりだからジャマだって入らないよ....。わたしにとって不都合なことだって」
「...?」
「すみれちゃんにぶん殴られるのは好きだけど、今はだめだよ?逃げられちゃうから。たった今殴ろうとしたみたいだけど、周りを囲う細胞ちゃん達がそれを許すかなぁ」
「何が言いたいの?」
「すみれちゃんはコーハイちゃん達と会えずにわたしとここで一夜を共にするってこと。明日は休みだもん」
「ふざけんな....!なら私を家に帰してからにして...!」
「え、すみれちゃんのお家で...?!」
囲う細胞たちをえぐってもえぐっても次から次へと修復される。廊下にさす光さえも入ってこないほどに一定の空間を細胞を2人を囲っている。不確かな愛をゆみりの意思が強くさせた。それに続き細胞たちもすみれをモノにすることだけに集中するようにすみれを廊下へ続く外に出そうとしない。ゆみりから怒りは完全に消えて嬉々とした雰囲気を漂わせている。一方的に愛する女の子と二人きりの空間にいて、しようと思えば好き放題にできる状態をただ手と手を合わせて笑顔ですみれにだけ瞳を写す。
「わかった....こんなの苦手だけど」
「うんうん!私とイチャイ―」
「あんたをぶん殴ることにする」
「へ?...で、でもわたしのこと殴れないよ?今さっきわかったことでしょ?それなのに..」
「じゃあ殴れるまで殴り続ける。あんたは自分の細胞とやらに過剰な信頼があるみたいだけど、少しは疑うべきだよ」
「へぇ....?いいんだぁそんなこと言っちゃって。すみれちゃんこそ自分が置かれてる状況理解すべきだよぉ?」
すみれは少し細胞を摘み、手に包んでゆみりの方へ足を歩かせた。
すみれは自身の右手を少量の細胞で包み、ゆみりにとある『準備』を意識した。




