一章 4話 門番の彼
弘安11年(1288) 3月 一色太郎
本格的に宿場町も稼働し始めたが、やはり鎌倉時代には少し広すぎる規模だったようで、さっそく経営危機が起きている。どうやら、江戸の宿場町を意識して作ってみたものの、そのころほどの商売の活発さはなく、商人の出入りは少ない。
だがサービス面では利用客から高い評価をいただいており、口コミで少しずつリピート客を増やしていくつもりだ。
皮なめしのほうは、まだ作業が始まったばかりで商品になるのはいましばらくかかりそうだ。
ちょうどその日は雨だったポツリポツリと雨の音がした
いつも通りのサーキットメニューをこなして市場に出かけようと門を出ると突然足が動かなくなり、ドカンッ、と派手にこけた。
「いたた、いったいなんだよ」
足のほうを見ると、幽霊のような恰好で必死に迫ってくるそれを見ると、顔に血の気が引くのを感じ、足を振り回し言葉にもならない声で悲鳴を上げると、
「いやっ、やめて食べ物食べ物をくれ、じゃないと死んじまう」
「ひぃぃ、死人が死人がしゃべった」
「まってくれ、話を聞いてくれ」
そこで、私はこれいや、こいつが人だというのに気が付いた。
ポツリポツリと雨の音がザーザーという音に代わっていく。
「とりあえず、家の中に入れ風邪をひいちまう」
「ありがとうございます」
「いったいどうしてお前はこんなことをしたんだ?」
「ハフハフほーうとです」
「食い終わってから喋れよ」
「すみません、私は伴野盛時と申します。もともと弘安7年の霜月の騒動にうちの家が巻き込まれ、戦に行ったんですが、自分の家の軍とはぐれてしまい、家に戻ろうとしていたところ敗戦を知り各地を流浪してきたところです」
「その霜月の何たらとは何なんだ?」
「それは北条と御家人の政治闘争のようなもので、うちはそこの首謀者とたまたま縁があったので参戦せざる負えない状況だったんですよね。ところであなた様のお名前は?」
「おれか、おれは一色太郎っていう、お前が言ってた御家人の家だと思うぞ」
「一色、一色どこかで聞いたような?」
「うちは、足利の庶流だけど分かるか?」
「あぁ、足利殿の」
盛時は急に姿勢を正してこういった。
「どうかわたしを雇ってくださいませんか?私の故郷はすでになく、このままでは飢え死にしてしまいます」
「えぇ俺はまだただのガキだからどうしようもないって」
「それならば、あなたのお父様に会わせてください」
「う~んう~ん、仕方ない紹介だけだぞ、そういえばお前は何歳くらいなのだ?」
「一応、9歳で元服し戦に参加したので、あれから四年おそらく13ほどかと」
「へっ?」
こいつ、大人じゃなかったの?
夕食前
「よいぞ」
その一言が出るまでわずか、10分
身の上話と特技などを少し話すだけであっさり採用された。
確かに6尺(180cm)という、この時代にしても大きすぎる背丈は、あまりにも魅力的だし、やはり、この当時の必須技能の馬術と弓術もできるという点はすばらしい。
これがどのくらいすごいかというと東大卒で地元ではそこそこ名の知られた家の出で、TOIEC満点、ガクチカで、留学経験ありくらいの化け物スペックということだ
どうやら、勤務先は屋敷の門番らしいが、まだ幼いため俺と一緒に鍛錬させて、ゆくゆくは俺の近習にするつもりのようだ。
翌日
「本日から鍛錬に参加することになった守時君です。みんな仲良くしてあげてね、席は太郎君のとなりね」
きもちわるい転校生の紹介を聞いてから、今日も鍛錬が始まる。
守時は戦に何度か参加したことがあるので筋トレはいらないだろうということで、早速武芸を始めることになった。
やはり元が武家の子、その長身を生かして長弓をめいいっぱい引き、轟音を鳴り響きかせ、的に当たり軽く貫通し後ろの土手に深々と刺さる
次は馬術をする...はずだった。
残念ながら、六尺の80キロに耐えられる鐙がなかったので、できなかった。どうやら、9歳のころはまだ160cmほどでまだサイズがあう鐙があったが今はでかすぎて、さすがにうちにはなかった。




