第59話 進化する力
時間を少し遡る――――
奈月が木片を取り出した瞬間、樹系魔族・草花魔族の王達は背筋が冷たくなるのを感じた。
《バカな、いつ手に入れたんだ!?》
《いったいどうやって!?》
2人が何故慌てているのか分からず、カルメラはオロオロしながらも2人に尋ねる。
《ちょ、ど、どうしたの2人共? 何をそんなに慌ててるの?》
《今ミカエルさんと戦ってる奴が、僕達の欠片を持ってるんだ》
《ううん、私達だけじゃない。進化後のヴェイルの欠片まで持ってる》
《か、欠片?》
《そう。僕達の体って、一部だけでもすっごいパワーを持ってるんだ》
《だから誰かに取り込まれでもしたら、とんでもない事になる!》
《ち、ちょっと待って! その欠片をミカエルの敵が持ってるって事は…………っ!!!!》
カルメラは真っ青になって、ミカエルに ”念話” を繋ぐ。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
油断した…………!
奈月に進化の猶予を与えてしまった!
「ウ、ウグッ、ウアァァァァアァァァァァァァ!!!!!」
奈月が苦しみ始め、霊魂の組成が変わっていく。これはマズい! さっさと止め――――
《離れてミカエル!》
《っ!!》
カルメラ様から指示が飛んできたため、反射的にその場を離れた。その直後、奈月を中心に膨大なエネルギーの大爆発が起きた。
…………危なかった。あれをまともに受けていたら、このゴーレムは消滅していただろう。下手をすると、ワタシの本体にも傷が付いていたかもしれない。
《ミカエル、大丈夫!?》
《問題ありません。助かりました。それよりもカルメラ様、状況はかなり悪いです》
《だね。こっちからでも分かる位、もんの凄いエネルギーを感じる。ソイツ今どんな感じ?》
《少々お待ちを》
まずは毎度お馴染みの『解析鑑定』だ。
名前:東条 奈月
種族:妖森霊王
ランク:SSS+
称号:『ベルゼブブ』
特記事項:異世界転移者
権能:喰武神
【神速思考・体術超強化・神力・気配察知・万喰・喰在顕現】
権能:幻神
【幻想世界・幻影生成・幻影化・幻夢之波動】
種族スキル:『森林創造』
『怨獄創造』
『樹霊召喚』
『花霊召喚』
権能の方はほぼ変化が無いようだが、種族は霊人から妖森霊王へと進化して、種族スキルが4つ追加されている。権能の力も相まって、相当な強敵になっているようだ。
《かなりの強化が施されているようです。下手をすると勇華やアルトさんにも匹敵するかもしれません》
《やっぱり…………! ミカエル、いけそう?》
《ふっ、やってやりますよ。この程度の敵に勝てないようでは、カルメラ様の相棒は務まりません》
《っ! ………へぇ、言うじゃんミカエル。じゃあ、そっちは任せるよ》
《そっちこそ、油断してやられる事の無いように》
《あはは、合点!》
そこでカルメラ様からの ”念話” が途切れ、同時に奈月の声が聞こえてくる。
「あ~あ、だから嫌だったのよ。こんな形で人を捨てる事になるなんて…………」
何やら愚痴を述べる奈月の姿は、先程までのキメラとは異なり、どこからどう見ても人間の美少女にしか見えないものになっていた。変身好きだなコイツ。
「キメラはもういいんですか?」
「必要ないわよ。そんな事より覚悟しなさい。この私にここまでやらせたんだから。来い、眷属共!」
奈月が右手を振り上げると、億を超えるイナゴの大群が湧きだす。その内3分の2が合体を始め、残りはワタシに襲い掛かって来た。一方はワタシを足止めし、その隙にもう一方が進化するつもりなのだろう。
「また時間稼ぎですか? 乗りませんよ、その手には」
1つの事に集中しすぎると全体が見えなくなる。その事はさっきの失敗で学習したのだ。ここは一気に、全てのイナゴに対処しよう。
「『虹炎』展開、”飛龍黒虹酒”!」
『グルォォォォォ!!』
「あのイナゴ共を消し炭にしなさい!」
『グルォ!』
勇華の ”飛龍黒酒” に、アルトさんの『虹炎』も混ぜた ”飛龍黒虹酒”。コイツらを10体も放てばイナゴの殲滅など造作も無い事で、イナゴは何も出来ずに焼滅した。
「まだまだ! 精霊召喚!」
今度は『樹霊召喚』と『花霊召喚』で、草花と樹の精霊が呼び出される。数百万を超える大群で、しかも1人1人が上級精霊だ。
「ま、関係ありませんね。邪魔するなら全員始末して――――」
「”眷属生成”!」
「っ!」
イナゴまで召喚した? 何をする気だ?
「精霊! イナゴ共と融合しなさい!」
「っ!?」
奈月の指示が下った瞬間、イナゴ共が一斉に精霊達に集まって『合体進化』を始めた。成程、精霊を核にして合体させる事で、より強力な存在を生み出そうという魂胆か。そうと分かれば止めるのみ。
「黎明――――」
「”怨命獄殺波”」
「っ!!」
突然、強力な怨念の波動が迫ってきた。咄嗟に『喰武神』を付与した ”虹光黎明幻想盾” で受け止めると、難なく吸収する事が出来た。
「手下共の邪魔はさせない」
「くっ、行きなさいあなた達!」
『グルオォォォォ!!』
ワタシがやらずとも、龍達にやってもらえばいい。そう思って、龍達を差し向けたのだが――――
「やらせないわ」
「っ!」
奈月の指から緑色の光線が照射され、龍達が全滅させられてしまった。
「下手な妨害は無意味よ」
「ならば、直接あなたを倒すのみ!」
元より目的はそれだ。なのでワタシは、さっさと奈月を始末する事にした。
「はぁっ!」
「せいっ!」
ワタシがエクスカリバーで斬りかかると、奈月は拳で対応する。ワタシの剣術と奈月の武術は拮抗して、いまいち決め手に欠ける。
「くっ、やりますね」
「数百年の積み重ねを舐めんじゃないわよ!」
そう言って奈月の攻めが激しくなり、ワタシは押され気味になってしまう。カルメラ様ならば剣術で圧倒できるだろうが、使い手がワタシではカルメラ様の剣術も、本来の半分程度の力しか発揮できない。未だ力不足な自分が悔しくなる。
だが、今は泣き言を言っている場合ではない。そもそもワタシは『代行者』なのだから、専門はスキルによる戦闘だ。剣術のみがダメなら、スキルも一緒に使えばいい。
「”蝕魔剣”」
「っ!!」
再び奈月がエクスカリバーを受け止めた途端、奈月の顔色が変わる。ワタシがエクスカリバーに付与した『喰武神』が効いたようだ。
「忌々しい。真似しただけのくせに、私より出力が上だなんて!」
「まぁ、世の中色々ありますから」
「そんな話で済ませないで頂戴!」
お返しとばかりに、『喰武神』を纏った奈月の拳がワタシに直撃した――――と、奈月は思い込んだ。
「っ!?」
「残念。それは身代わりです」
奈月が殴ったのはただの幻影。ワタシ自身にダメージはない。奈月からコピーした『幻神』の力で、今その場にいる自分自身を幻影と化し、攻撃を回避したのだ。この勢いで、仕留める!
「”黎明終焉斬”!」
「ちぃっ!」
今の一撃で首を落とすつもりだったが、後一歩の所で避けられてしまった。そう簡単に事は運ばない。そして再び剣技と武技のぶつかり合いになってしまう。
「『幻神』まで真似されてたなんて…………! でもその技、それなり魔素を消費するでしょ? 後先考えずにその技を使うなんて、案外バカなのね」
「良く回る口ですね。口よりもっと手を動かした方が良いんじゃないですか?」
「お互い様でしょうが!」
色々言いつつも、奈月は攻撃の手を一切緩めない。しかも『喰武神』に加え、幻影対策の『幻神』と、先程の ”怨命獄殺波” までもが拳に付与されている。一撃一撃が重くて、裁ききれない。
「ぐっ、あぁ…………!」
怨念と化した生命力に『喰武神』の力も相まって、人形はあっという間にズタズタにされていく。
「アッハッハッハ! どうしたの? もう終わりかしら?」
「まだ、です! ”乱照虹線”!」
「っ!? ぐぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」
ワタシの合図に合わせて、奈月の内部から虹色の光線が何百発も、放射状に打ち出される。内部から光線に貫かれて、奈月は全身穴だらけになりながら悲鳴を上げた。
「ぐ、このタヌキめ! 最初からやられるのは織り込み済みだったのね!?」
「あなたに勝てればタヌキで結構です」
近接戦闘で勝てない事は分かっていた。だから人形の中に、ミクロサイズの ”虹光黎明幻想剣” を仕込んでおいたのだ。相手が『喰武神』で、ワタシの体を喰う事は自明の理だったから。
結果、奴はまんまと罠に掛かって、人形を吸収してダメージを受けた。自らの体に毒を取り込む形になったわけだ。
「でも、私の勝利は揺るがないわ。見なさい」
「っ!」
イナゴ達と融合していた精霊達が光り始める。
――――時間切れだ。
「出でよ! 霊魔達!」
精霊達が一際眩く輝いたかと思うと――――そこには、数百万の霊魔の軍団の姿があった。
「お前達、半分は私のサポートを。残りはこの辺りの魔族共を皆殺しにしなさい。特に、ヴェイルと金髪の鬼は逃がすんじゃないわよ? 邪魔する奴らは皆殺しにして」
『はっ!』
今のワタシの顔は、恐らく今までで一番真っ青になっている。精霊へと進化した魔族、或いは魔族の力を得た精霊が霊魔と呼ばれるが、より強い力を持つのは後者の方。今回はもちろん後者の方だ。それも、数百万人全員がだ。流石にカルメラ様や勇華、アルトさんの脅威となる程ではないが、他の者達ではこの数に対処しきれないだろう。ただでさえ、未だに樹系魔族・草花魔族が湧き続けているというのに、この霊魔共まで加勢してきたら、終わる!
「ワタシが何とかしなければ…………!」
「”生誕爆覇”」
緑色の極大エネルギーの奔流が、奈月の手から放たれる。回避は出来たが、その間に霊魔達が各地へ飛んで行く。
「ま、待て――――」
「待つわけ無いでしょ? はぁっ!」
「がはっ!」
霊魔達に気を取られて、油断した所に蹴りを叩き込まれてしまった。ワタシは吹っ飛ばされ、そのまま地面に激突しクレーターが出来た。
「ぐっ。みん、な………!」
「何か伝える気? させないわよ」
「っ!」
”念話” を使おうとした途端、再びエネルギー波が迫って来て回避を余儀なくされ、中断させられてしまう。
「行きなさい、”光魔人形”!」
エクスカリバーの『無限滅光』を使って ”光魔人形” を100体生み出した。ワタシがダメなら、この子達に任せれば良い。
「皆に危機を伝えて――――」
「一斉射撃」
「っ!!」
ワタシに差し向けられた霊魔達が、エネルギー波で ”光魔人形” 達を貫いていく。生みの親のワタシが人形だからか、”光魔人形” 達は通常よりも脆く、皆一撃でやられてしまった。
「あなたも、連れの魔族共も、皆殺しよ。大人しく私の糧になりなさい」
霊魔達は次々と仲間達の元へと飛び去って行く。せめて状況を伝えるか、森の敵軍をどうにかしないと………! でも、どうすれば良い? 今のワタシは目の前の敵に手一杯で、仲間に危機を知らせる事も出来ない。
「詰んでる………! どうすれば………!」
その時だった。
「止ぉまぁれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「っ!?」
「カルメラ様!?」
突然、カルメラ様の声が帝国中に響き渡り、樹系魔族・草花魔族達が一斉に動きを止めた。
「な、ちょっ、どういう事よ!?」
奈月が動きを止めた! 今がチャンス!
「”虹光五月雨”!」
「っ! しまっ――――」
天から ”虹光黎明幻想剣” の雨を降らせる殲滅攻撃。これによって、霊魔を全滅させる事が出来た。もちろん奈月もただでは済まず、剣に貫かれ全身傷だらけになった。
「な、何で! ヴェイルの眷属共が、別の奴の言う事聞くのよ!?」
「意味が分かりませんよね。まぁ、その気持ちは分かりますよ。ただ、そこはカルメラ様ですからね。何でもありですよ、あの人は」
「それで済む話じゃない! 今の力は間違いなく『ユグドラシル』と『ヘルヘイム』だった。でも、やったのはヴェイルじゃない! 別の奴だった! あなたの言う ”ますたー” とやらは、何でヴェイルとガキ共が生きてる状態で『ユグドラシル』と『ヘルヘイム』を使えるのよ!?」
「流石にそれは企業秘密です」
恐らくだが、我々の新たな称号『カオス』を使ったのだろう。この称号は他のスキルや権能、さらには他者の称号までも完全にコピーして、その力を使う事が出来る。とは言え、流石に称号となるとコピーに時間が掛かり、『ユグドラシル』と『ヘルヘイム』は先程ようやくコピーが完了したばかりだ。それをこの短時間でここまで使いこなすとは、やはりカルメラ様は天才だ。
《カルメラ様、ありがとうございます!》
《ぶっつけ本番だったけど、何とか上手くいったね。後は霊魔達がヤバいんでしょ? そっちは僕達で何とかするよ!》
《しかし、奴らは強いですよ? 羅剛や桃華ですら、囲まれたらどうなるか…………》
《大丈夫! 一ヶ所に集まって、皆で戦えばどうにかなるよ!》
《しかし、中にはSSSランクの霊魔もいますよ?》
《ソイツらは僕が――――》
《それはダメです。カルメラ様は引き続きヴェイルの見張りを続けてください。今の話で1つ疑惑が生じました。下手をするとあの少年少女の身も危ぶまれます。勇華とアルトさんに任せましょう》
《オッケー。じゃあこっちは何とかするから、ミカエルはそっちをお願いね!》
《お任せを!》
周りを気にする必要も無くなり、これで完全な1対1だ。ここから反撃開始だ。




