第41話 ”虹の錬金術師” の事情
「ソイツらは、ヴィオンド帝国の機密特殊部隊 ”影狼” だ」
突然現れた男とスライムは、まるで気配が無かった。それこそ、この ”影狼” とか言う連中がお遊びに思えるくらいの、凄い隠蔽能力だ。
「とりあえず、まずはコイツらを始末しよう」
「あ?」
男が指を鳴らすと、”影狼” のメンバーが虹色の紐で縛り上げられる。すると紐から虹色の炎が吹き出して、”影狼” は全員塵も残さず消えてしまった。
「”虹光結界”」
もう一度男が指を鳴らす。今度は虹色のドームが形成され、我々を包み込んだ。
「これで、話を聞かれる心配は無ぇな」
「……容赦が無いな」
「アイツらは命を狙って来たんだ。当然だろう?」
「確かにそうだな。ところで、あなたは ”虹の錬金術師” で間違いないか?」
「っ! 俺の事を知ってるのか?」
「あぁ、自己紹介が遅れたな。私は桃華。あなたの噂を聞いて、あなたを探していたんだ」
「そうか。名乗ってもらっておいて申し訳ないが、訳合って名前は明かせない。”虹の錬金術師” 、だと長いな。”イリゼ” とでも呼んでくれ」
「承知した、イリゼ殿。それから、あなたの左肩に乗っているのは、スライムのスララ殿で間違いないか?」
「良く知ってるな。まぁ、あんだけ派手にやれば噂も広がるか。アンタの言う通り、コイツはスララ。正確にはミラクルスライムだがな」
「初めましてっす! イリゼさんの相棒のスララっす! よろしくっす!」
「よろしく、スララ殿」
「それで、俺に何の用だ?」
「単刀直入に言うと、我々の村へ来て、その力を貸してほしい」
そして桃華は、ここまでの経緯をイリゼに語る。村周辺の森が魔土で汚染されてしまった事。魔土の浄化の為に、錬金術師の力が必要である事。その錬金術師を探す為に街まで来た事を、順を追って話した。
「―――成程、事情は分かった。だが、簡単には了承できない」
まぁ、そう簡単に話が進むわけは無いか……。
「まず、俺はアンタを信用できない。なんせアンタは、街に向かって覇気を放出してるんだからな。何故あんな事をした?」
「あなたは神出鬼没と聞いていたからな。探して見つかるとは思えなかったし、待っていても出会える保証は無い。ならばいっそ、そちらから出向いてもらおうと思ってな。警戒されるようにわざと覇気を放った。あなたは強いと聞いたから、もしかしたらこれで反応して森へ来てくれるんじゃないかと、そう望みを掛けてな」
「面白い事を考えるじゃないか。つまり俺がここに来た時点で、俺はまんまとアンタの策略に乗っちまってたってわけだ」
「有体に言えばな。ともかく、別に敵意があってやったわけでは無いんだ。それだけは信じて欲しい」
「まぁ、悪意は無いみたいだし信じるが、今後はあんな賭けは止めておけ。強ぇ奴がいきなり覇気を放ったら、その気じゃなくてもこっちは警戒する。俺だって下手をすると、アンタを殺してたかもしれない。アンタ、見た所 ”霊鬼” だろ? それも相当強いし、間違いなく権能持ちだ。手心を加えたらこっちが殺られるからな」
「『手心が無ければ確実に勝てる』とでも言いたげだな。私がそう簡単に倒れるとでも?」
「お前じゃ俺に勝てない」
「「……………」」
2人の間に緊張が走る。一触即発かと思われたが、そこでスララが割って入った。
「やめるっす、2人共。今は喧嘩じゃなくて、話し合いの時間っす」
「……そうだったな。悪いな、ムキになっちまって」
「いや、こちらこそすまない。それで、どうすれば村に来てもらえるんだ?」
「とりあえずまずは………アンタの中にいる人とも、話をさせてもらおうか」
「「っ!!!!?」」
バ、バレていたのか!? いったいどうやって!?
「気配が揺らいだな。同様してるのがバレバレだぞ、中の人」
「………っ!」
ここまでハッキリと捕捉されているとは………仕方ない、”霊魂人形” を表に出すしかないか。
「バレてしまっては仕方ありません」
「ミカエル様!」
「ここは、隠れずお話する方が得策でしょう」
ワタシは桃華から分離し、イリゼの前に姿を見せた。
「うぉ!? 桃華さんの中からもう1人女の子が出て来たっす!?」
「何だお前、気付かなかったのか?」
「………まったく気付かなかったっす」
「やれやれ、隠れるのが上手い奴だな。で、アンタは?」
「ミカエルと申します。桃華共々、いと ”尊きお方” にお仕えしている者です」
「その ”尊きお方” ってのは?」
「申し訳ありませんが、初対面の方に明かす事は出来ません」
「へぇ、訳ありか」
カルメラ様の正体については、慎重に取り扱う必要がある。今はまだ、名前すら教えるわけにはいかない。
「アンタ、桃華さんよりずっと強いな。その上、あんたら2人が揃って仕えている存在がいると………それ、本当に村か?」
「ゆくゆくは自治領として発展させていくつもりです。ですがその為には、まずは村の開拓です。正直言って、魔土如きに足踏みしている場合ではありません。お願いです。どうか、その力をお貸しいただけませんか?」
「………だったらまずは、アンタらが仕える ”尊きお方” と話をさせて欲しい。錬金術師を欲してるのはその人なんだろ? 人探しを仲間にやらせるまでは良いが、そっからの交渉はその人自らやるべきだ。それに、ここで俺達だけで話を進めても、その人が是としなきゃ意味無いだろ? だから、まずはその人と話をさせてくれ。もっとも、それすら出来ないってんなら話は別だが」
「いえ、それは問題ありません。では、一旦 ”念話” で繋いでもよろしいですか?」
「分かった」
「ありがとうございます。では―――」
了承を得て、ワタシはこの場の全員を ”念話” で繋ぎ、カルメラ様とも個人的に ”念話” を繋いだ。
《カルメラ様、今よろしいですか?》
《あれ、ミカエル? 今日は早いね》
《いえ、定時連絡ではありません》
これまでの8日間、我々は毎晩 ”念話” で連絡を取り合っていた。カルメラ様はその定時連絡と勘違いしたようだ。
《昨日お話しした、”虹の錬金術師” と接触しました》
《早っ! もう見つけたの!?》
《見つけたと言うより、向こうから来てもらったという感じだがな》
《ともかく、お陰で無事に彼と話せる状態になりました。それで今、彼がカルメラ様と話したいと言うので、こうして連絡させていただいたのです》
《ってことは、今 ”虹の錬金術師” さんと繋がってるのこれ?》
《まだ彼には声を聞かせていません》
《じゃあ、声が聞こえるようにしてもらっても良い? 僕も直接話したい。なんなら、今すぐそっちに行って―――》
《ダメです。まだ声だけで我慢してください》
《ムゥッ、ケチ!》
《どうせ頬を膨らませてるのでしょうが、ダメな物はダメです》
《はぁ……しょうがないな。じゃあ声だけね。でも名前は言わせて! これだけは絶対に譲れない》
《………仕方ないですね。分かりました》
ワタシは渋々了承して、カルメラ様とイリゼのことも ”念話” で繋いだ。
《あ~、あ~……… ”虹の錬金術師” さん、聞こえますか?》
《あぁ、聞こえてる。それと、俺の事はイリゼと呼んでくれ。敬語も使わないで良い》
《そう? じゃあ、お言葉に甘えて。初めましてイリゼさん! 僕はカルメラ。よろしくね!》
《よろしく頼む》
《それと、お隣のスライムさんは、スララさんかな?》
《そうっす! ミラクルスライムのスララっす! よろしくっす!》
《よろしく!》
《それで、早速本題に入ろうか。アンタらの村の事情は聞いた。魔土を浄化するため、俺の力を借りたいんだってな。確かに俺なら、魔土を浄化できる。引き受けるのは構わないぜ》
《ほんと!? やった~! 新しい仲間だ!》
《待て、アンタらに手を貸すのは良いが、仲間になると決めた訳じゃない》
《え~~~~、何で?》
《さっきこの人達にも話したが、俺はアンタらを信用できない。それに、俺は自由に生きたいんだ。縛られるのはゴメンだ》
《そう、ですか………》
本当は仲間としてスカウトしたかったのだが、残念ながら今回だけの関係になりそうだ。
――――そう思った時だった。
《………嘘だよね?》
《っ!!?》
《カルメラ様?》
《カルメラ様?》
突然、カルメラ様がイリゼを嘘つきだと言い始めた。
《本当は、何かを恐れてるんでしょ?》
《な、何を根拠に?》
《何となく。強いて言うなら、勘かな》
《一緒じゃねーか》
《でも、怖がってるのは間違いないよね?》
《それは………》
フードを被っていても分かるくらいに、明らかに動揺している。どうやら図星のようだ。彼が恐れている何かがあるとすれば………。
《ヴィオンド帝国、でしょうか?》
《…………》
《沈黙は是と取ってよろしいですね?》
《それは、その………》
《イリゼさん。こっちは巻き込んじまった側っす。帝国がオイラ達を狙う理由だけでも話した方が良いんじゃないっすか?》
《………そうだな。アンタらは既に巻き込んじまったし、ちゃんと話そうか。ただし、この事はくれぐれも、他にバラさないようにしてくれ》
《オッケー!》
《分かりました》
《心得た》
《助かる。………数年前まで、俺はヴィオンド帝国に将軍として在籍してた。だがあそこの皇帝はどうしようもない奴でな。実力主義故に、実力さえあれば誰でものし上がれるのは良いが、実力の無い奴からは根こそぎ搾取するし、ちょっとした失敗で厳罰に処すし、挙句の果てには身勝手な理由で他国に戦争吹っ掛けるしよ。その横暴さに嫌気が指して、逃げ出してきたんだ》
《そしたら帝国の奴等、従わないなら殺すまでと、イリゼさんを殺す為に刺客を放って来やがったっす》
《それが、”影狼” って事?》
《そうだ。奴らは今も俺の命を狙ってる》
《ほんっと身勝手な連中っす! 散々利用しておいて、自分らにとって都合が悪くなった途端、相手を殺そうとするなんて!》
《俺がアンタらに関わったと帝国にバレたら、奴等は口封じにアンタらの命も狙ってくるだろう。だからこれ以上、俺に関わらない方が良い》
成程、そういう事だったのか。”影狼” がイリゼを狙っていたのも、彼が ”影狼” について知っていたのも、それなら全て説明が付く。そして彼は、我々が彼らの争いに巻き込まれる事を心配して、自ら身を引こうとしている訳だ。
《それなら大丈夫! 僕達強いから!》
《帝国はな、俺が開発した魔道具を悪用してるんだよ。ほとんどは量産品だが、中には俺が手塩に掛けて作った物もある。ソイツらはマジでヤバい。素人でもBランクの魔物の軍勢を滅ぼせるような品って言えば、どんだけヤバいか分かるだろ?》
《生憎ですが、こちらにも同等の武具がありますよ?》
《もっと言えば、我々の村に戦えない奴は1人もいない。全員がCランク以上の実力と魔導武具を持っている》
《そ、そうなのか。ヤベぇな………。けど、やっぱりダメだ。俺がアンタらの村に居続けたら、いずれ奴等に村の事がバレる。そうなったら、アイツらは村に軍隊を嗾けてくる!》
《………じゃあ何? そうやってずっと、たった2人で世界中を逃げ回るつもり?》
《っ!!》
《イリゼさんはさ、何か悪い事したの? 違うでしょ。悪いのは全部、身勝手な帝国の方でしょ? なのに何でイリゼさんが責任を感じて、わざわざ逃げ隠れしなきゃいけない訳? 理不尽すぎるでしょ!!》
《………その理不尽が横行するのが、この世界だろ》
《だったら、そんな理不尽僕が、いや、僕らがぶっ壊してやる!》
《アンタらに何が出来るってんだよ? ただ帝国ぶっ潰しゃ良いってもんじゃねーんだぞ?》
《確かに僕1人じゃ無理だけど、僕には仲間がいる。特に僕の相棒は凄いよ? もしかしたら、既に解決方法を思いついてたりして》
《何?》
《ふふ、読まれてましたか。流石ですね》
《な、本当なのか!?》
《マジっすか!?》
《えぇ、帝国があなたを気軽に襲えなくなる方法を思いつきました。ただ、その前に確認しておきたい事があります。イリゼさん、あなたの ”本当の名前” は、世界各国に知れ渡っていますか?》
《まぁな。それなりに暴れたんで、割と各国に知れ渡っている。それがどうかしたのか?》
《この作戦は、あなたの名前が売れている事が前提条件だったので、それを確認しておきたかったのです》
《……?》
《あなた方にやってもらいたい事は1つ。我々と共に、強力且つ凶悪な存在を討伐して欲しいのです》
《アンタ達と一緒に?》
《オイラ達だけじゃダメなんすか?》
《はい。そこがミソなんです》
確かにこの2人がタッグを組めば、恐らく倒せない相手はワタシとカルメラ様のタッグ以外いないだろう。しかし、2人だけで討伐しても意味は無い。その場合、その全ての功績は2人だけの物になってしまう。しかし我々が手を貸せば、その功績は我々の物でもあると堂々と言える。この功績こそが、ワタシの作戦のキーアイテムなのだ。
《成程、そうして村は凶悪な存在を倒した功績を手に入れると。だが、その後はどうするんだ?》
《その時点で我々は国として完全に独立し、我々の国の名でこの功績を世界中に公表します。その際、討伐に関わった者達の中で主だった者の名も公表し、その中にあなたの本当の名前も入れるのです》
《ちょっと待って!! そんな事したら、イリゼさんの居場所が帝国にバレちゃうよ!! そうなったらイリゼさんが――――》
《いや、そうか。それなら確かにいける!》
《流石ミカエル様!》
《凄いっすね、ミカエルさん!》
《……え、どういう事なの?》
《つまり、こういう事です》
国の名前で功績を公表すれば、我々はその力を世界に誇示する事が出来る。強大な軍事力を持つと知られている国は、そう簡単に戦争を吹っ掛けられたりしない。それと同じで、我々の国が大きな力を持つと世界に示す事が出来れば、各国も安易に攻撃を仕掛けてこなくなるだろう。
何より大事なのは、国の功績として公表しつつ、その功労者の中に彼の真名を入れること。こうする事で、彼のバックに我々がいると暗に示す事が出来る。名も無き村のままならばともかく、その時点で村は強力な国として名が知れ渡っているのだ。そんな我々が彼を庇護していると知れば、流石の帝国も彼に手出し出来なくなるだろう。もしそんな事をすれば、我々と全面戦争する羽目になるのだから。
《成程ね。確かに戦争になったら、民を巻き込む事になっちゃうもんね。そうなったら、帝国はイリゼさんを追跡出来なくなる! さっすがミカエル!》
《このくらい当然です》
もっとも、帝国の場合は『民を巻き込む』というより、『軍隊に甚大な被害が出る』という理由で退きそうだが。ま、理由はどうあれ、帝国がイリゼに手を出しにくくなる理由にはなるだろう。
《問題は功績です。倒せば功績と成り得る強力且つ凶悪な存在が、今の所見当たらないのです》
《いや、1つ心当たりがある》
《っ! 本当ですか!?》
《イリゼ殿、その心当たりというのは?》
《例の古代魔樹だよ》
《古代魔樹ですか? あれは既に討伐したのでは?》
ワタシがそう言うと、カルメラ様が待ったを掛けて来た。
《この感じ………森の西の方角から、すっごく嫌な気配を感じる》
《っ!!?》
《確かにアンタの言う通り、俺も西に嫌な物を感じてるが………何でアンタが知ってるんだ?》
《桃華の体を通して、気配を探ってみたんだ》
《嘘だろ!? 他人の体で気配察知を!?》
《……まぁ、今回は裏技を使ってるからね》
裏技と言うのは恐らく、桃華に宿らせた ”霊魂人形” の事を言っているのだろう。それよりも、カルメラ様とイリゼが揃って警戒している事を考えると、西には何かあると見て間違いない。
《ともかく、古代魔樹の騒動はまだ終わっていない。いずれまた別の古代魔樹が来るだろう》
《では、ソイツが姿を現したタイミングで叩けば、大きな功績になりますね!》
《あぁ、ひとまずはそれでいくとしよう》
《う~ん………》
おや、カルメラ様の様子が………?
《どうしたっすか、カルメラさん? 何か気になる事でもあるっすか?》
《いや、実は古代魔樹なんだけどさ、村の近くにも来てたんだよね》
《えっ!?》
《あ、大丈夫。勇華が向かってくれたから、多分もうじき片付くよ》
《姉さんが? それなら安心だな》
《でもさ、こんな色んな所に古代魔樹が出現するとか、そんな事ある?》
《確かに………妙ですね》
《何か、もっと根深い物があるような気がするんだけど………ま、考えても分かんないし、今は良っか!》
《そうですね。今はとにかく、我々全員の力で古代魔樹を倒す事を考えましょう。お2人も、それで良いですか?》
《あぁ。俺達の為にここまでやってくれて、感謝するよ》
《この作戦が上手くいけば、オイラ達、もう隠れなくて良いんすね!》
《うん! 世界を旅するも良し! 僕の仲間になってくれるも良し! これで自由だね!》
《一応言っておくが、魔土の浄化だけは忘れないでくれよ?》
《任せておけ》
《それじゃあ皆! 僕達の未来の為、そしてイリゼさん達の自由の為、張り切っていくよ!》
《おーーーーーーー!!!!》
こうして今ここに、イリゼとスララを自由にする為、功績獲得計画が始動した。




