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99.失恋

 副官のブランは、今日も腐れ縁の隊長の為、隊長室の隣で、紅茶を入れていた。


「ブラン、いつまで、かかっているの? 早くしなさい。」

 珍しく、イラついた声に、ブランは溜息をつきながら、紅茶を持つと、うず高く積まれた書類に、埋もれるように、仕事をしているシルバーの所に、紅茶を持って行った。


 シルバーは、ブランから紅茶を受け取ると、一口飲んで咽た。

「ちょっと、ブラン。これ何も入っていない、じゃない。」


「砂糖とミルクなら、そこのテーブルに置いてありますよ。」

 ブランはそう言って、傍のテーブルを指差した。


 シルバーは、うんざり顔で、ブランを見ると、立ち上がって、自分の副官の前に座った。

「失恋して、辛いのはわかるけど、それを隊長に当たって、憂さ晴らしするのは、止めて頂戴。」


 ブランは、自分用に入れた紅茶を飲みながら、無表情で答えた。

「なんの話でしょうか?」


「あなたの話よ。チビッ子を宰相に盗られたからって、八つ当たりは、みっともないわよ。」

 シルバーは、手に持っている紅茶に砂糖とミルクをたっぷり入れて、ムスッとした顔で、自分の副官をジロリと睨んだ。


「私は別段、いつもと変わりませんよ。」

 ブランは、自分の上司の睨みをサラリとかわすと、そのまま紅茶のカップを口に運ぶ。


「はぁー、いつもと全然、違うじゃない。あの机に、積まれた書類の山を見なさいよ。」

 シルバーは、執務机に山と積まれた書類を、憎々しげに指差した。


「あれが何か?」

 ブランは、しれっと答える。


「今までは、ブランがやってくれてたじゃない。なんで、それを私が、やらなくっちゃ、ならないのよ?」

 シルバーは、紅茶を飲み干すと、腕組みして、もう一度、睨みつけた。


「あれは、元々隊長が片付ける仕事です。正常に戻っただけですよ。」

 ブランは、そう言うと、コクリと喉を鳴らして、自分が入れた紅茶を飲み干すと、カップをテーブルの上に置いて、立ち上がった。


「どこに行くの?」

 いきなり、立ち上がった副官に、びくりとして、顔を上げる。


「今日の仕事は、終わりましたので、家に帰ります。」

 ブランは、踵を返して、ドアに向かった。


「ちょっ・・・。」

 シルバーの声に、後ろを振り返ったブランは、ニッコリとほほ笑むと、


「その書類は明日までに必要ですので、後は宜しくお願いします。」

 ブランは、そう声をかけると、そのままドアを出て行った。


「うそでしょー、なんの冗談なのよ。お願い、手伝って頂戴、ブラン。」

 慌てて、ドアに手を掛けて、通路を見たシルバーは、誰もいない廊下で、呆然と立ちつくす羽目になった。


「これは、何・・・チビッ子の呪い? 私が何をしたっていうの。」

 シルバーは泣きながら、徹夜で書類を片付けた。


 次の日の朝、眠い目をこすりながら、何とか書類を片付けたシルバーは、いい匂いが漂ってきて、ふとドアに目を向けた。


 そこには、昨日無情にも、自分を置いて帰っていった副官が美味しそうな料理を手に持って、立っていた。

 いかん、疲れすぎて、幻覚が見えるようだ。


 幻覚は、傍のテーブルに料理を置くと、こちらに近づいてきた。

「やれば出来るじゃないですか。」


 幻覚がしゃべった!


「ブラン!」

 思わず、本物だと思ったら、ブランの襟首を締め上げていた。


「ちょっと、昨日の態度は、どういう・・・。」


 キャー


 一際、大きな叫び声がした方を見ると、ドアの傍に人がいた。


 よく見ると、そこには、茶髪のメイドさんが、震える手でワゴンを押して立っていた。


「申し訳ありません。お邪魔するつもりは、なかったんです。」

 いきなり謝ると、彼女はスープをワゴンごと置き去りにして、何かブツブツ言いながら、いなくなった。


 すごい、やる寸前を目撃しちゃった。

 早く、リボン隊長に知らせなくっちゃ。

 でも、生で見られるなんて、私って、幸運な星のもとに生まれたんだわ。


 メイドさんは、自画自賛しながら、廊下の端に消えて行った。


「何あれ?」

 シルバーはブランの首を締め上げながら、呟いた。


「た・・・隊長、分かりましたから、手を離して下さい。いくら何でも、死にます。」

 シルバーは、ハッとして、力を弛めた。


「でも、ブランも昨日、私を置き去りにするから、悪いのよ。」

 シルバーはブランが持って来た、朝食を手に取ると食べ始めた。


「うん、美味い。」

 近衛隊の隊長やってて、得することって、王宮の美味い食事を食べられることくらいよね。


 しみじみ実感していると、ブランがいつの間にか、コーヒーを入れてくれた。


 一通り食べ終えてから、それを飲む。

 徹夜明けのコーヒーは、格別だ。


 それと、ブランの顔を見て、少し安心した。

 昨日よりは、だいぶましな顔になったようだ。

 どうやら、少しは復活したらしい。


 シルバーがそう安心した、数日後、王宮で変な噂が蔓延した。


 それを耳にしたブランに、今度はシルバーが首を絞められる。


「ちょっ・・・ちょっと、いきなり隊長の首を絞めるって、何の冗談よ?」

 シルバーが、襟首を締め上げる、ブランの手を抑えながら、呻いた。


「これが、締められずにいられるか。なんで俺が、隊長の恋人になってるんですか?あんたなにした・・・。」


 キャー


 いきなり、大きな叫び声がした。


 見るとドアの傍に、今度も茶髪のメイドさんが、震える手で書類を抱えて、立っていた。


「申し訳ありません。お邪魔するつもりは、なかったんです。」

 いきなり謝ると、彼女は書類を傍のテーブルに置くと、何かブツブツ言いながら、いなくなった。


 すごい、今度はブラン様がシルバー様を襲ってる場面を、目撃しちゃった。

 早く、リボン隊長に、知らせなくっちゃ。


 でも、生で二度も見られるなんて、私って、とーっても、最強な幸運を持っているんだわ。


 メイドさんは、自画自賛しながら、廊下の端に消えて行った。


「ちょ・・・ちょっと待って・・・。」

 シルバーの襟首から手を離すと、慌てて廊下に出て、メイドさんを捜すが、彼女はもうどこにもいなかった。


「なんで、こんなことに・・・。」

 床に項垂れるブランの姿があった。


「隊長の首なんか、絞めるからよ。」

 シルバーがそう呟くと、ブランはそのまま隊長室を出て行った。


「ちょっと、ブラン、どこ行くの? 今日の分の書類がまだよ。」

 シルバーの叫びをまるっと無視すると、ブランは噂を消すために、出て行ってしまった。


 しかし、ブランが否定すればするほど、周囲はそれを逆に信じなかった。


「なんで、俺がこんな目に・・・。」


「まあ、そう悲観しなくても。」

 シルバーの慰めは返って、ブランを落ち込ませた。


「もういっそ、私がブランの恋人になって、あげましょうか?」


「冗談じゃありません。俺は男に尻を掘られる趣味はありません。」

 ブランがきっぱり否定する。


「しょうがないわね。じゃ私が受けに・・・。」


 ドサッ


 シルバーの目の前に、書類の山が追加された。


「ちょっと、なんの真似よ、これは?」


「今まで、隊長の分も俺が片付けていたんですから、俺が隊長の恋人じゃないと、認定されるまで、隊長が俺の書類を片付けて下さい。」

 ブランはそう言うと、噂を否定するため、隊長室を出て行ってしまった。


「ちょっと、待ちなさい、ブラン!」

 隊長室に、シルバーの悲痛な叫び声が響いた。


 それがさらに、噂に信憑性を与えた。


 後日、あまりの書類の山に、リボンちゃんを呼びつけたシルバーが、彼女と裏取引をしたとか、しないとか・・・。

 そのせいか、それ以後からは、ブランの平穏な日々が戻ってきたようだ。


 ちなみに、黒子に失恋した痛手以上に、ブランの心を今回の件は、深く抉った。


 俺、一日でも早く、恋人を見つけよう。


 王宮の仕事帰りに、夜空を見上げながら、ブランは固く決心した。

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