それを確かめる方法
「上様?」
僕が目覚めた時、僕の顔を覗き込んでいた人物にそう言った途端
「たわけ!」
こんな言葉が返って来た。確かにその人物は上様に良く似てはいたが、良く見ると眼鏡を掛けていた。
「東方不敗」
目の前の人物のエプロンに書かれた標語を、僕は思わず口にした。目の前の人物は、見覚えのあるツインテールの猫耳メイドだった。
「ふっ、私としては、赤方偏移をお勧めしたのですが」
もうひとりの見覚えのある無駄にイケメンな人物が、不敵な笑みを湛えながら述べた。
「エクスカリバー、それを言うならドップラー効果だろう」
ツインテールの猫耳メイド、麻布十番ロズウェル氏が威風堂々たる態度で言い返した。
「ロズウェルさん達も、バミューダ虎夫に招待されたの?」
「たわけ」
「え?」
「果たし状が送られて来たのでございますよ、由宇作様」
「本来、あの厨二病男の余興に付き合う筋合いなど無いのだが、ここで黙らせとおかないと後々ウザくて仕方がないのでな」
「左様な事情でございますので、今回は由宇作様御一行とは、一時休戦とさせて頂きます。勿論、ツングースカ様にも了解は取ってあります。先程メールにて、由宇作様の事よろしく頼むと連絡を受けました故」
「まっ、そういう事だ。貴様もせいぜい大船に乗ったつもりでいるが良い」
こんなに愉快な事はないとでも言いたげな笑顔が、麻布十番ロズウェル氏の満面に広がっていた。
「ところで……ここはどこなんですか?」
「聞いてないのか? ツングースカから。あの厨二病男が、ログアウト不能なゲームにやたらはまっているという話を」
「あっ! MMORPG! 本物そっくりホログラム使った!」
「ふんっ、やはり聞いているではないか」
「バミューダ虎夫様は宇宙のいたるところに、このような施設を作っているのでございます。そして各々の施設に宇宙セレブを招待しては、MMORPGに興じているのでございますよ」
「それぞれの施設がネットで繋がってるって事?」
「左様でございます、由宇作様」
「でもそれじゃあ超光速通信になっちゃうと思うんだけど。超銀河郵便連盟に検閲されて通信切られちゃわないの?」
「超銀河郵便連盟が通信を切るのは、あくまで因果律を崩壊させる恐れのある情報が、光速を超える場合のみだ。そしてバミューダ虎夫はウザいくらい、そんなヘマはしない男だ」
ロズウェル氏は忌々しそうに述べた。ロズウェル氏らの説明によると、バミューダ虎夫は本物そっくりホログラムで出来たこれらの施設内部を、あたかも仮想空間のようにシミュレートし、ネットで繋がった各々の施設を、ひとつの仮想空間として共有しているとの事だった。
「要するに別の施設にいる連中は、本物そっくりホログラム製のアバターで、こちらの施設に出現するという寸法でございますよ」
「勿論逆もまた然りだ。おかげで遠く宇宙に散らばっている連中が、あたかもひとつの世界で冒険をしているような気分を味わえる。多忙な宇宙セレブにはうってつけの娯楽だ」
この説明を聞いて、僕は頭の中にある疑問が浮かんだ。
「もしかして……今、目の前に見えているロズウェルさん達もアバターなの?」
「ふんっ。それを確かめる方法は簡単だ」
そう言った途端、ロズウェル氏は僕の頬を摘んで引っ張った。
「ててっ!」
僕は思わず叫び声をあげた。
「やはりな! 佐藤由宇作、どうやら貴様と我々は同じ施設にいるようだ」
ロズウェル氏は不敵な笑顔で僕の頬から指を放した。
ユニバーサルランドで突如黒服にサングラスの男達に囲まれた僕は、睡眠光線で眠らされてこの場所まで運び込まれたようだ。しかし……
「睡眠光線って、感情的になってる相手じゃないと効果ないんじゃ? 僕はあの時、怒りに震えてたわけじゃなかったけど」
「より正確に言えば、パニクってる相手に効果があるのでございますよ、由宇作様。故に怒りに震えている者以外にも、突如、驚きと恐怖の入り混じった状態に陥ってしまった者にも、効果があります。先日のパーティーの時の宇宙セレブの方々が、良い例でございます」
言われてみればそうだった。あの時、上様がステージに上がってしまい、一人取り残された僕をいきなり怪しげな男達が取り囲んだ。確かにあの瞬間の不安と驚きは、睡眠光線に効果をもたらすには十分だっだ。
しかしそうだとすると……
「ここって地球のユニバーサルランドの中なんですか?」
「残念ながら、ここは地球ではございません、由宇作様。地球から75万光年程離れた、バミューダ虎夫様所有の施設のひとつでございます」
「……」
僕は絶句した。
「まあ、今回はツングースカの奴とは休戦中だから、貴様を地球に無事送り届けてやっても良いのだがな。だがしかし、ひとつ厄介な問題があってな」
「厄介な問題って?」
「ご存知だとは思われますが、由宇作様、我々この世界からログアウト出来ないのでございますよ」




