例え辺境の星だとて銀河を越えて会いにゆく
「オーバーテクノロジーも凄いと思うけど、地球のテクノロジーも捨てたものじゃないよね」
翌朝のラジオ体操後、由美ちゃんが帰った後の中庭で、僕ら三人は日課の井戸端会議を行っていた。
「まあ、確かに、私が作ったラジカセロボは地球製のテクノロジーですが、今更誉めたって何も出ませんよ?」
上様が頬を少しだけ赤く染めながら言った。
「いや、そうじゃなくてね……もちろんラジカセロボも凄いんだけどね……ほら、ニュースとかでもやってるじゃん。手で操作しなくても、頭の中で考えただけで操作出来る装置とかが開発されてるじゃん。オーバーテクノロジーってそんなの無いでしょ?」
「ありますよ、勿論」
「えっ? だって本物そっくりホログラムなんか、いちいち装置を手で操作してるじゃん」
「本物そっくりホログラムだけは特別なんだよ」
「本物そっくりホログラムだけは特別って? どういう事? ゲルさん」
「まず説明するとだな、本物そっくりホログラム以外のオーバーテクノロジーに関しては、手動操作モード以外にイメージ操作モードがある。つまり頭の中でイメージすると、その通りに操作出来るって寸法だ。ところが本物そっくりホログラムは微妙なんだよ、それが」
「微妙って?」
「本物そっくりホログラムにもイメージ操作モードはあるんですけどね、それを扱うには特別な資格が必要なんですよ、由宇作」
「何で?」
「良くあるだろ? 現実世界だと思っている事が、実は脳が作り出したイメージに過ぎないんじゃないかとか、過去に実体験したと思っている事が、実は偽りの記憶を埋め込まれただけじゃないかとか、そんな錯覚に陥る事。まあ、ある意味厨二病の一種だが」
「まあ、確かに」
「本物そっくりホログラムのイメージ操作モードの場合、頭の中でイメージした物がすぐさま目の前に現れる。何の前準備も無く、気付いた時にはもう目の前に現れてるって感じだ。そんな風にホログラムが現れる場合、すごく区別つきにくいんだよ。本当に目の前にホログラムが存在しているのか、それとも脳内イメージを目の前の存在と錯覚しているだけなのか」
「手動操作モードなら、ホログラム出すのにあれやこれや面倒な操作しますから、それがかえって好都合な事に、現実としての存在感を意識しやすくしてくれるんですが、イメージ操作モードだと、どうしても現実感が希薄になっちゃうんですよ。まるで白昼夢でも見ているような感覚に陥っちゃうんです」
「そうなると目の前の都合の悪い現実を、全て夢だと解釈しようとする心理が強く働いてしまうんだ。妄想の世界の方が居心地がいいからな。その結果、妄想がイメージ操作でホログラムとして実体化されてしまい、現実世界に悲惨な結果をもたらすわけだ。そうなると更に現実逃避したくなって……そんな悪循環に陥りやすいから、 本物そっくりホログラムのイメージ操作モードは、特別な資格を持った奴じゃないと使えないんだ。しかもこの資格がとてつもない難関資格で。私も何度も挑戦してるんだが……」
「ゲルさんほどの人が持ってないの?」
「当然ですよ。私ほどの人が持ってないんですから」
「……そんな超難関資格取れた人っているの?」
「まあ、由宇作君もご存知の通り、本物そっくりホログラム装置は高価だから、この超難関資格は取れたとしても、宇宙セレブ以外では宝の持ち腐れになってしまう。だからこの資格取得を目指しているのは、殆ど宇宙セレブなんだが、そんな宇宙セレブ連中の中でも、この資格を持っているのは二人だけだ」
「二人だけ?」
「しかも由宇作が良くご存知の二人です」
上様はそう言うと、意味深な笑みを浮かべた。
「それって麻布十番ロズウェル氏?」
「勿論!」
「二人目は?」
しかしその答えが告げられる前に、見覚えのある人物が僕らの前に姿を現した。
「バミューダ虎夫!」
目の前に出現した人物に向かって思わず叫んだ僕に、上様が淡々と述べた。
「正解です、由宇作。彼こそが二人目の有資格者です」
「よりによって!」
そう叫んだ僕に対し、 バミューダ虎夫氏がいやらしい笑顔で口を開いた。
「お前さんら、我輩の持つ資格がそんなにうらやましいのか? まあ羨望の眼差しを向けて来るのは構わんが、嫉妬にかられては我輩としても少しばかり迷惑だな。まあ有名税と思えば耐えられん事もないが」
今この手にハリセンを持っていたなら、僕は目の前の人物に向けて思いっ切り振り下ろしていたに違いない。しかしそんな僕の思いなどよそに、バミューダ虎夫氏は上様に向かって
「山田ツングースカ。お前さんが麻布十番ロズウェルの姉だったとは、流石の我輩も想像すらしなかったぞ。まあ我輩としては、何もお前さんと事を荒立てるつもりはない。しかしお前さんの妹は別だ。あいつは宇宙セレブの何たるかがまるで分かってない。どうやら我輩が身をもって教えてやらねばならんようだ」
こう言い放つと、再びいやらしく笑った。
「でもロズウェルは厨二病の何たるかは分かってるみたいですよ」
「ほう、流石麻布十番ロズウェルの姉だけあって、妹同様口数が減らんようだな」
バミューダ虎夫氏は更にいやらしい笑顔を見せた。
「キモッ! 由宇作、私この人苦手ですぅ」
上様は急いで僕の後ろに隠れた。
「それはそうと佐藤由宇作。我輩常々地球人には感謝しているのだよ。我輩の素晴らしい趣向の数々は、地球の文化をヒントにしている物も多いからな。そこで日頃の感謝を込め、お前さんを地球人代表として、我輩の趣向に特別に招待しようではないか」
「だが断る」
僕は即決した。
「面白い! ますます気に入った。何がどうでもお前さんには参加して貰おう」
「あのー、私に断りも無く勝手に決めないで貰えます?」
僕の後ろに隠れている上様が、バミューダ虎夫氏に向けて僕の耳のすぐ後ろから言い放った。僕の耳がキンキンするのもお構いなしに。
「何だ? 山田ツングースカ。お前さん佐藤由宇作の保護者なのか? そうでなければ余計な口出しはしないで貰いたいんだが」
この時ばかりは、上様に余計な口出しをどんどんして欲しいと思った。
「のようなものですよ。だって由宇作は私のひもなんですからっ」
とは言え、もうちょっと言い様があるだろうと思ったのは言うまでもない。
「しかし何とも惜しいな。他の連中なら、我輩のこの招待、飛び上がって喜ぶのにな。何しろユニバーサルランドの開園式だからな」
「ユニバーサルランド!」
僕ら三人は揃って大声を上げた。今、世間を賑わせているテーマパークの名前が、ついさっき地球にやって来たと思しき、目の前の厨二病宇宙セレブの口から出て来たからだ。
ユニバーサルランド。海上に浮かぶメガフロート上に建設された巨大テーマパーク。それは着工が始まった3年前から、たびたびニュースを賑わせていた。
「まさかあれが本物そっくりホログラムだとは、誰も気付いてないようだな」
バミューダ虎夫氏は、いやらしい程の不敵な笑みを満面に湛えていた。
「本物そっくりホログラム! まさか? あれが?」
「そのまさかだよ、佐藤由宇作。本当は1日もかからずに作れたんだが、流石にそれだとオーバーテクノロジーだとばれるだろう? だからわざわざ3年もかけて作ったわけだ」
「でも色んな業者が建設に関わってたんじゃ?」
「それは勿論、実際に地球の業者に作って貰ってはいたがな。地球の業者が作った部分を、後で本物そっくりホログラムに置き換えて行ったのだよ」
「でも地球の業者に支払う資金は? 宇宙セレブでも地球のお金は持ってないんじゃ?」
「それは何の問題もない。宇宙セレブの我輩にとって、炭酸ガスをダイヤモンドに変える事などお茶の子さいさいだからな。もっとも地球温暖化問題を我輩が解決してしまわないよう、相当苦労はしたが」
厨二病宇宙セレブは、嫌味たっぷりの笑顔を見せた。
「でも何で?」
「地球に別荘を持ちたかったからに決まっているではないか。それ以外の理由があるか? 我輩がオーバーテクノロジーを使って地球を征服するとでも? 生憎我輩、そんな暇人ではないのだよ。お分かりかな?」
どう考えても暇人だろう、こんな真似をするのは! 僕は心の中で叫びまくった。
「でも、オーバーテクノロジーで地球人のプライバシーに干渉しちゃいけないんじゃ?」
「だからこそ、こんな回りくどいやり方をしたわけだが。佐藤由宇作、お前さん人の話を聞くのがどうも苦手なようだな」
僕は今、この手にハリセンが無い事を呪った。
「さて、大事な事だから二度言うが、お前さん達、我輩の招待を受ける気はないのか?」
再びいやらしい笑顔を僕達に向けた。
「食事付なら構いませんよ」
しかし上様は、僕の後ろに隠れながらこんな事をのたまった。
こうして僕らは、話題のテーマパーク、ユニバーサルランドの開園式にやって来た。
「ゲル、あれに乗ろうよ」
由美ちゃんがジェットコースターを指差して言った。ここには僕ら三人の他に、由美ちゃんも来ていた。バミューダ虎夫氏曰く、粋な計らいとの事だったが、何か魂胆がある事は見え見えだった。
「まさか! ロリコンって事はないよね? あのバミューダ虎夫氏って」
バミューダ虎夫氏が僕らに招待状を手渡して帰った後、僕はゲルさんに尋ねた。
「ゴスロリ好きなのは確かだが、あくまでファッションの方だし。むしろ好みなのはロズウェルみたいなタイプだよ」
「キモッ!」
そう叫んだ後、上様は震えていた。
しかし僕らのそんな思いをよそに
「せっかく開園式に来たんだからさあ、大家さんと由宇作お兄ちゃん、二人っきりにしてあげないと可哀想でしょ!」
そう言い放ってゲルさんの手を引っ張ると、由美ちゃんは一路ジェットコースターの搭乗口へと、邁進して行った。
「レディース・アンド・ジェントルメーン! ユニバーサルランドの開園式へようこそ! 我輩、この夢と魔法の世界の管理人たる中の人、バミューダ虎夫である!」
バミューダ虎夫氏が開園式のステージ上でそう告げると、軽快な音楽が流れ、赤、青、黄色、緑、ピンクの五色のコスチュームを着た、見覚えのあるような人達がやって来て、バミューダ虎夫氏の前に立ち、ポーズをとった。
「これはこれは、なんと! ユニバーサルランドの開園式に、かの有名な、遊星戦隊U・レンジャーが駆け付けてくれたではないか!」
バミューダ虎夫氏がそう大仰に言うと、音楽のボリュームが更に上がった。そしてこんな歌声が聞こえて来た。
ユニバーサル~ ユニバーサル~
サービスしちゃうぞユニバーサル~
しかし
「例え辺境の星だとて~ 銀河を越えて会いにゆく~」
ステージから聞こえてくる歌とピッタリ同じタイミングで、隣の上様が同じ歌詞を口ずさんでいた。勿論、音程はいくらかずれていたが。
「知ってるの? 上様」
「知ってますよ。当然じゃないですか……」
しかし上様はそう言った後、はっとした表情を浮べ口篭もった。
ユニバーサル~ ユニバーサル~
誰でもどこでもユニバーサル~
しかし歌が二番に入ると
「勝利のVのその前に~ あるのさユーとの友情が~」
いつの間にか再び口ずさんでいた。
「おーっと! そこの猫耳メイドのお嬢さん! いいノリではないか! ここへ来てこの魂に熱く響く歌を、我々と一緒に歌ってくれんかね? この会場中のちびっこ諸君も、お嬢さんの登場を待ち望んでおるぞ!」
バミューダ虎夫氏はお祭り騒ぎが大好きな上様に、このようにとても抗い難い提案を持ち掛けた。
「お姉さん! お姉さん!」
そんな会場中のちびっこ諸君の声援の後押しもあって、上様は熱い血をたぎらせ、ステージへ上がって行った。
と、その途端、どこからともなく黒服にサングラスの男達が現れた。その手に見覚えのある武器を持って。
男達は僕に向け、睡眠光線を発射した。




