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期日指定郵便  作者: 遊星族
第1章 神が振ったサイコロ
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大家さんを大切に

 闇バーベキュー大会には僕達を含めて、およそ40人が参加する。そのため僕らは、バーベキューコンロを4台庭に設置した。

 3棟がコの字を描くような形で立ち並んでいるこのアパートの、真中の1棟の反対側に、両サイドの2棟に挟まれるような形で大家さんの自宅は建っている。もっとも、実際は大家さんの自宅をコの字で取り囲むように、アパートの方が建ったわけだが。

 こんな風に、元々大家さんの自宅の広い敷地に建てられたこのアパートは、どこまでが大家さんの自宅の庭で、どこまでがアパートの庭なのかはっきりしない、広い中庭があるような作りになっていた。

 以前は大家さんに遠慮していた事と、庭を使う用事など特に無い、一人暮らしの連中がこのアパートの住人だった事から、アパートの住人にとって、この中庭は通路としての用途しかなかった。

 しかし新しい大家さんは、この中庭をどんちゃん騒ぎの会場にする事に、どうやら熱心なようだ。

 コンロの周囲にテーブルを設置し、食材と粉飾ディナー以外の必要な品を揃えた僕らは、一旦僕の部屋に戻って時間が来るのを待った。一応オーバーテクノロジーである粉飾ディナーは、一旦僕の部屋に置いておき、闇バーベキュー大会開始時に参加者に手渡す事にした。



 闇バーベキュー大会は夜7時半開始予定なので、僕らはその1時間前から準備に取り掛かる事にした。時間を待つ間、僕は闇バーベキュー大会のルールをもう一度確認した。

 食べられる物で、尚且つバーベキューコンロで焼いても無くならない物なら、どんな物でも良い。

 粉飾ディナーを掛けてスイッチをオンにし、暗い場所で持ち寄った食材をシャッフルし、その後バーベキューコンロで焼き始める。

 十分に焼けた物の中から各々が適当に選び取る。

 食べる直前に粉飾ディナーのスイッチをオフにする。

 選んだ食材は必ず食べる。

 以上がルールである。当然激辛の食材を持って来る者がいるであろう事は、容易に想像がつく。そして困った事に、僕は辛いものが苦手だった。



 時刻が6時半を回り、僕達が準備に取り掛かるために中庭に出た時、既に数名の人達がバーベキューコンロの周囲に集まっていた。この人達はバーベキューに慣れているらしく、木炭への着火を手伝ってくれた。バーベキューほぼ初心者の僕では、着火に相当手間取ったに違いないから、闇バーベーキュー大会のスタートは相当遅れたはずだ。

 いよいよ7時半になった。総勢39人が集まった中庭では、4台のバーベキューコンロから聞こえて来る木炭の燃える音が、腹を空かせたつわものどもの食欲を誘っていた。

 粉飾ディナーを掛けた僕らは、持ち寄った食材をテーブルの上でシャッフルした。既に日も落ち辺りは暗くなっていた。僕らには皿の上の食材が本当は何なのか、見当もつかない有様だった。



 やがて辺りに香ばしい匂いが漂い、スリルとサスペンスを思う存分味わう時が来た。僕の隣では上様が、例の如くよだれを垂らしていた。こころなしか僕は、自分の舌が武者震いをしているように感じた。

 この粉飾ディナーは、料理の姿形は粉飾するものの、十分火が通ったかどうかは、赤外線センサーで判別出来るようになっている。おかげで得体の知れない物を、少なくとも生焼けで食べる事態は避けられた。

 勿論、避けられるリスクはせいぜいそれくらいだ。僕の嫌な予感は的中し、見事に大当たりを引いてしまった。僕は物凄い勢いで、用意してあるココナッツジュースの所までダッシュした。

 闇バーベキュー大会用に、彼女がバーベキューセットと共に予め買い揃えていたココナッツジュースの所へ。そう、つまり、誰かが激辛食材の大当たりを引いてしまう事を、彼女は予測してたわけだ。

 何とか一息ついた僕は、上様が涙をポロポロ流しながら、バーベキューを頬張っている姿を目にした。

「おいじいでずぅ」

 鼻水まで垂らしながら尚も食べ続ける彼女に、僕はココナッツジュースを手渡した。



「夫婦揃って大当たりを引くとは流石だなあ」

 こんな言葉が笑い声と共に聞こえて来ると、場は更に賑やかになった。

 言わせて貰えば夫婦では無いんですが。

 そう言いたかったものの、それはそれで話がややこしくなりそうだから、この場はあえてスルーした。



「違うよ。夫婦じゃないよ。ひもだよ」

 突然少女の声が響いた。ほろ酔い気分の大人達も、この台詞にはいくらか顔を引きつらせた。

 彼女と出会ってから3週間。僕がこの猫耳メイドの新しい大家さんのひもだと言う噂は、既にこの界隈に鳴り響いていた。そして彼女が宇宙人である事をカモフラージュする必要上、僕らはこの誤解をあえて否定しなかった。

 それでも、小学校3年生の少女の耳にまで届いていたのかと思うと、やはり戸惑いを隠せない。

 しかしそう思っていたのは僕だけだったようで、当の彼女ときたら、僕の腕にその腕をからませ、僕に寄り掛かるように頭を傾け

「ひもだっていいんですよっ。幸せなら」

 ココナッツジュースを飲みながら、少女に向けてにっこり微笑んだ。

「ひもの中のひも!」

 途端にそう叫び声が聞こえて来た。

「ミスターひも!」

「いや、英語でひもはストリングなんだから、ミスターストリングだろっ?」

「ミスターストリング!」

 大勢の酔っ払いが一斉に叫んだ。

「大家さんを大切にしろよ! ミスターストリング!」

「こんないい大家さん他にはいないぞ!」

 みんな誤解している。色んな意味で。

 そして彼女は誤解に拍車をかける行動を、僕の隣でしまくっていた。

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