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期日指定郵便  作者: 遊星族
第1章 神が振ったサイコロ
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異文化交流の基本

 その日の夕食後、僕らは缶ビールっぽいアルコール飲料を片手に、ベランダから星を眺めていた。これから1ヶ月は、少ない定期預金を取り崩して食べて行かなければならない。だから贅沢は出来なかったが、それでも今手に持っているアルコール飲料を、時々飲むくらいの余裕は何とかあった。

「じゃあさっさと寝ちゃうよ。真夜中にまた起きて、幽霊騒動演出しなきゃいけないから」

「あっ、それはもういいですよ」

「えっ、何で? 訳ありの新住人が十分集まったから?」

「幽霊騒動はまだずっと続けますよ。ただ由宇作がやる必要が無くなっただけです。本物そっくりホログラムを自律モードにしますから」

「自律モード? って、自律モードで使えたの?」

「お茶の子さいさいですよ。ただ由宇作には、オーバーテクノロジーの事知って貰いたいから、今まで操作して貰ってたんです。でも、もう余分な労働はしなくていいですから。まあその分、給料は減らしますが」

 ここ3週間程の間、本物そっくりホログラムによる幽霊騒動の演出は、僕がただ一人でオーバーテクノロジーを操作する唯一の機会だった。シュヴァルツシールドの操作も少しだけ教わったが、その時は隣で上様が付きっきりだった。

 僕が昼間あんな事を言ったから、彼女は警戒したのかも知れない。そんな思いに囚われながら隣の彼女をチラッと見ると、相変わらずビール風のアルコール飲料を美味そうに飲んでいた。



「第一回闇バーベキュー大会始めますよ!」

 翌日、彼女はいきなりこんな事を言い出した。勿論、彼女がいきなり何かを言い出すのは、もう慣れっこだったが。

 ファーストコンタクトから3週間、僕の中で何かが変わり始めていた。彼女の唐突な言動に、落着いて対処出来るようになった反面、彼女の手の上で踊らされる事に、不満を覚えるようにもなった。無論不満は以前からあったが。しかし今の不満はその頃のものと違い、もっと冷静で冷徹なものになっていた。彼女の隙を突いて、オーバーテクノロジーを自分の支配下に置きたい。そんな願望が膨らんでいた。



「ちょっと聞いてます? 第一回闇バーベキュー大会、始めるんですってば」

 相変わらず僕の頬を摘んで引っ張りながら、彼女は耳元でまくし立てた。

「ててっ、き、聞いてるよ……でも闇バーベキュー大会って何?」

 僕の頬から指を放すと、満面の笑みで彼女は説明を始めた。

「良くぞ聞いてくれました。バーベキュー版ですよ。闇鍋の。このアパートの住人みんなに参加して貰います。食材持ち寄って貰って」

「なるほど。でも実際どうやってやるの? 闇鍋と違ってバーベキューだと、暗くしても中身分かりやすいと思うんだけど」

「これを付けて食べるんですよ」

 彼女は特殊なゴーグルっぽい物を僕に見せた。

「これは粉飾ディナーという、料理を粉飾して見せる、オーバーテクノロジー製の特殊なゴーグルです。かつて宇宙で、生活習慣病の予防の為に開発された物なんですが、今じゃ主にパーティーグッズとして使用されてます。この横にあるスイッチで、機能をオン‐オフ出来るようになってて、オフにすれば普通のゴーグルと変らなくなるので、食べる直前にスイッチをオフにするんですよ。それまでは料理を粉飾しててくれますから」

「それでバーベキューを闇鍋みたいに出来ると……でも僕以外の人達に、オーバーテクノロジー使わせちゃって大丈夫なの?」

「それは大丈夫ですよ。似たような物は既に地球でも開発されてますから。ばれそうになったら地球製だと言って誤魔化せば、何の問題も無いですから」



 こうして、闇バーベキュー大会をする事になった僕らは、アパートの人達に説明して回った。最初は怪訝そうにしていた人達も、例の粉飾ディナーとか言うゴーグルを試しに掛けて貰うと、たちまち興味を示し始めた。

 日曜だった事もあり、何とか住人全員から参加を承諾して貰った僕らは、参加者分の粉飾ディナーを用意すべく大家さんの自宅へ向かった。粉飾ディナーはこの家の旧浴室に格納してある、彼女の宇宙船の中にあった。

 この3週間、格納状態のこの宇宙船を何度か見せて貰っていたから、特に驚くような事はもう無いと思っていたが、大量のパーティーグッズを、宇宙船の中に溜め込んでいる彼女の神経には、改めて驚かされた。

「だってこれ郵便配達用の宇宙船ですよ。今回は任務が任務ですから、郵便物は由宇作に届けた手紙だけだったんですが、そうすると荷物室のバランス取る必要上、何か積み込んでおいた方がいいですからね。で、手近なところでパーティーグッズになっちゃったわけですよ」



 粉飾ディナーを一旦僕の部屋へ運び入れた後、バーベキューコンロを設置する為に、大家さんの自宅の物置に向かった。物置には10人用のコンロが6台も置いてあった。その他にもテーブルや大量の木炭等、バーベキューに必要な品が揃っていた。更に、半分に割られ節を削り取られた長い竹を、何本も見かけた。

「まさかこれ……」

「気付いちゃいましたか……実は闇流しそうめん大会も、いずれやろうと思ってまして、てへへ」

「……てか、これだけのアイテム揃えられるんだったら、僕の給料払えたよね?」

「だって仕方ないじゃないですか。はるばる宇宙の彼方から折角持って来たんですよ、パーティーグッズ。使わなかったら超勿体と思いませんか?」

「……まあ、確かに飲み食いどんちゃん騒ぎは、異文化交流の基本だからね」

 この際恨みがましい事を言っても仕方ないので、僕はどんちゃん騒ぎを楽しもうと決心した。

「流石由宇作、物分りがいいですね」

 そう言った途端、突然僕の頬にキスをして

「ほっぺたへのキスは、異文化交流の基本ですからっ」

 はずんだ声で、そうのたまった。

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