言うまでもない
僕と彼女が出会ってから2週間が過ぎた。そう、全ての始まりの、あのファーストコンタクトから。5月も終わりに近づいていた。
先週末までに、このアパートは新しい入居者達で満室になった。幽霊騒動で入居者が増えないのではと僕は危惧したが、結局杞憂に終わった。彼女のにらんだ通り、世の中には訳ありの人達が大勢いるらしい。
出て行くのかと思ったあの初老のおっさんも、結局この訳ありアパートに残った。
もっともこのおっさん、アパートの住民達には好かれていないようだった。
何しろこのおっさん、自分の立場が弱い時には、平身低頭でやたらおべっかを使うが、優位に立つと分かった途端、急に強気に出る。がめつく要領がいい。他人にやたら干渉し、自分の存在感をアピールしたがる。
そんなわけでこのおっさんは、すぐに隣人達に敬遠され始めた。
するとこのおっさん、このアパートの他の住人達の事など相手にせず、この近辺の人達に、この訳ありアパートの新住人達の悪口を言いふらし始めた。兎に角要領のいいこのおっさんは、同じアパートの住人達を生贄にする事で、近辺の人々の懐に入り込もうとする魂胆のようだった。
もっともこの界隈の人達が、僕らの住むアパートの事で一番関心を抱いていたのは、僕と上様との関係だったし、その辺りの事情は、このおっさん以外にも複数の筋からこの界隈に漏れ伝わっていた。結局この訳ありアパートで一番の生贄になっていたのは、どう考えても僕だった。
そんなこんなで、あのおっさんに不満を募らせていた僕は、上様に愚痴をこぼした。あんなにがめつく、要領よく、強きに弱く弱きに強い人間が、散々文句を言った挙句、いけしゃあしゃあとこのアパートで暮らしているのがどうしても気に食わなかった。
しかし彼女は
「確かに由宇作は要領良くないし、そのお陰で人生損してると思いますよ。でもいくらがめつくて要領良くたって、あのおじさん、結局この家賃1万5千円の訳ありアパート以外に、行く所が無いわけじゃないですか。要領良かろうが悪かろうが、訳あり人生は訳あり人生って事じゃないですかね」
そうのたまった。
彼女クラスの大魔王ともなれば、こんな訳あり程度じゃ動じないって事なのかな。
「それに、ああいう人もいた方が、訳ありバリアーを展開する上で都合がいいんですよね」
「どうして?」
「なるべく色んなタイプの訳ありの人達が揃ってる方が、訳ありバリアーは強固になるんですよ」
「好き嫌い言ってる場合じゃないって事か……」
「別に言ってもいいですよ。単に私が、聞く耳を持たないだけの話ですから」
「……まあ、よしとくよ」
「えっ、言わないんですか? それは残念ですね」
「うん、だからよしとく。だって残念がる上様見てるの楽しいし」
僕はにやりと笑った。
その直後、この大魔王にコブラツイストをかけられたのは、言うまでもない。
「太陽電池パネル設置しますよ、太陽電池パネル」
「またいきなり……どうして?」
「だって発電した電力、買い取って貰えるじゃないですか。うちのアパートなら、出力20kwはいけますからね」
「でも設置費用考えたら、元取れるのって、10年以上は先になると思うんだけど……まさか? オーバーテクノロジー製の太陽電池パネル設置するとか?」
「流石にそれはやりませんよ。色々問題ありますから。性能良すぎて。それに設置費用の事なら、心配しなくても大丈夫ですよ。本物そっくりの偽札を作っちゃえばいいんですから」
「はい? 今何と仰いました? 僕の聞き間違いでなければ、偽札作るとかって」
「そうですよ、何か問題でも?」
「大有りでしょう! そもそも偽札作るくらいなら、核融合炉でまた、プラチナでも金でも作ればいいじゃん!」
「分かってませんね、由宇作。元素の存在比を変えるのと本物そっくりの偽札作るのと、どっちが地球に悪影響を及ぼすと思ってるんですか!」
「はい???」
「だ・か・ら、同じくオーバーテクノロジーを使うんだったら、元素の存在比を変えるより本物そっくりの偽札を作る方が、遥かにマシって事ですよ。少なくとも地球にとっては」
言うまでもないことだが、少なくとも政府や日銀のお偉方にとっては、元素の存在比を変えてくれる方が遥かにマシだろう。




