はじまり
高校二年生の十二月。それはなかなかに微妙な時期だ。新入生の頃の緊張感はなくなって高校生活にも慣れ、さりとて大学受験に向けた逼迫感もなく、本来であれば世間でいうところの「高校生」というイメージを体現するように、活発に活動しているのだろう。
運動部の二年生は三年生なき後のチームを引っ張るように練習に熱を一層込めているだろうし、帰宅部の連中は年末に控えるクリスマスとお正月に向けて一緒に過ごす人との距離感を測り、あるいはそのようなお相手を物色しているのかもしれない。
僕の所属する文芸部はというと、三年生が引退したのちに残された三人の二年生と、二人の一年生で文芸熱を盛り上げるべく活動していた。
今は新年号の部誌の特集である推理小説の準備をしている。結局のところは個々に執筆するのではあるが、トリックやネタが被ってもよくないし、一人で始めから終わりまで考えると行き詰まる可能性があるので、こうして部室に集まって、「ネタ出し」という名のブレインソーミングをしている。ブレインストーミングで色々なアイデアを出し合うと、一人で頭をひねっている時には気がつかなかった突破口や、新しい展開が見つかることもある。そうやって自分の中で方向性がしっかりと固まれば、それから先は孤独な個人作業となる。
ブレインストーミング、それはいい。大いにやるべきだとは思う。ただ、僕はあまりこの特集自体に乗り気ではなかった。
この特集は部長、一ノ瀬薫の発案だった。彼女が「純文学もいいけどさ、違う土俵で腕試しをしてみるのも自分の可能性を広げるのにいいと思うのよね」と主張して、やや強引にこの企画を通したのだ。
とはいえ、僕たちは「文芸部」だ。
確かに時代が変われば小説も変わる。それは認める、認めざるをえない。とは言っても夏目漱石先生や川端康成先生が推理小説を書こうと思うことはなかったと思うのだが。
「ホントに意味あんのかなあ」とつい口に出た。
一ノ瀬さんが聞きのがさなかった。
「赤間っち、副部長がそんなこと言っちゃダメじゃない」とやんわり嗜められた。
「赤間っちて呼ぶな、って何度も言ってるよね。せめて赤間くん、とか名前呼び捨てでもいいから勇気、とか」
一ノ瀬さんは、人に注意するときにはこんな風に勝手に作ったニックネームで呼びかける。多分少しでも緊張感を和らげようとする彼女なりの気配りなのだろうとは思うのだが、今の発言は別に失言じゃないし。
僕の表情から気持ちを汲み取ったらしく、一ノ瀬さんが付け加えた。
「文字を書く、文章を書く、っていうのは誰でもできることで、だからこそ、それに何かを伝えるという付加価値を付けようとしたら、それを使いこなすことが大事なのよ。武器を持つだけじゃダメで、自分の体の一部になるほど馴染ませなきゃだめでしょ? 赤間っ」
そこまで言うと一ノ瀬さんは言葉を切り、咳払いをして言い直した。
「勇気の好きな純文学だけでなくて、ラノベだって推理小説だって立派に一ジャンルなんだから。そういうものは全て文学の水平線を広げているのよ。言葉だけを使ってそんなにいろいろなことができるなんて素敵じゃない。だから目に付く扉はかたっぱしから開いてみるのがいいと思うの、冒険できる今のうちに。何かが起こるかもしれないでしょ」
もう一人の二年生の野中瞳、それに田崎ゆみこと牛田実の二人の一年生が、一ノ瀬さんの演説に感心したような声をあげた。
確かにそうだ、一ノ瀬さんの言うことには説得力があった。
僕は片手を上げて恭順の意を示し、「ごもっとも」と言った。




