第73話、古い家、尋ねてみたら王がいた。2
中央行政区には乗合馬車がなく、王宮までの道のりはすべて徒歩。疲れていたこともあり、大通りを進み始めて早々、不満が自然と口から出る。
「しんどい……くらくらする」
日差しがきつい。
五月下旬ともなると、太陽が昇ればかなり暑かった。傘があればと思ったものの、公園での戦闘でぶん殴って壊れたまま。
「暇なときに買いに行っておけばよかったな……」
後悔したところでなんとかなるはずもなく、とりあえず手をかざし、日除けにしてみる――気休めにすらならない。諦めて、淡々と足を運ぶ。
ここは貴族が主に住む区ということもあり、通りには屋敷が立ち並んでいた。そのため、馬車の往来も多く、至る所から馬の足音や嘶きが聞こえてくる。轢かれないように注意しつつ、先へ進む。
三十分ほど経った頃、一際大きな屋敷が視野に入った。
「うわーすごいな……」
これはかなり地位の高い人物の住居であろう。ふと興味が湧く。
生垣の隙間から中を覗いてみると、キラキラと輝く大きな馬車があった。客車の上に男女一対の人型の装飾が取りつけられているのを目にして思わず呟く。
「げっ……ここ、ハクの家だ……」
それにしても、全てにおいて無駄にお金をかけている。こいつのせいで潰れた帽子や、折れた傘の請求書を真剣に送りつけたくなった。
続いて、気になる点を見つける。
「ん? あそこはどうしたんだろう」
建物の一部に場違いな木材が無数に打ちつけられていた。どう見ても壊れたため、応急処置をしている模様。
「大きいな……なにしたらああなるんだろう……」
じっと眺めて考えていたところ、横から怒鳴り声が聞こえてくる。
「貴様、そこでなにをしておる」
顔を向けると、男性が私に木刀のようなものを突きつけていた。服装を見る限り、どうやらここの警備員のようである。
「ここは製造特区領主、イーサン様の屋敷であるぞ」
偉そうな態度。家人の立ち振る舞いが悪いと、配下もこうなるらしい。肝に銘じるとしよう。とはいえ、いらぬ争いは避け、無難に切り抜けたい。
警備員と相対した後、当たり障りのないことを告げてみる。
「へー、どうりで立派なお屋敷ですね」
「ん? ちっ、お前あそこの生徒か、厄介だな……もういい、さっさと向こうに行け!」
制服を着てきてよかった。真意は不明なものの、王立学園にかかわりたくないらしい。
「では、ごめんあそばせ」
そう言い残し、すたすたと足を進める。
歩いていった先には建物がなく、辺り一面、広大な広場となっていた。所々に木は植えられているものの、人工的な建物は一つもない。一転して寂しい風景。そして植物のおかげか、先ほどより少し涼しい気がする。
しかし、王宮までは、まだ遠い。
小鳥のさえずりを聞きながら、足を動かし続けたところ、しばらくして大きな橋に辿り着く。中ほどまで歩を進めると端に寄り、そこから下を覗いてみた。
「あれ? なにもないな……」
水すらない深い空堀。すぐに元に戻って橋を渡り切る。ここからは、少し登り坂となっていた。疲れている身体には、ややきつい。
「もう少し……」
呼吸を荒げつつ、上がっていく。
「つ、着いた……」
登りきった先は木すらない見通しの良い広場。王宮はこの真ん中にドンと建っていた。全容を見てふと呟く。
「なんか……想像と違うな……」
これは宮殿というよりも、砦や要塞といった感じである。飾り気一つなく、先ほどの屋敷とは大違い。
とはいえ、寮より一時間強。ようやく到着した。
呼吸を整えた後、歩を進める。そして、門に立つ警備隊らしき人物に、用件を伝えるべく話しかけた。
「国王陛下にお願いしたいことがございまして……」
同時に身分を証明するため、キラキラと光り輝く金色の王立図書館の入館証をそっと差し出す。警備隊らしき人物は即座に返答した。
「謁見のお約束の折はございますか」
「いえ」
「恐縮ではございますが、領主の御令嬢といえども、ご予約なきお目通りは叶いません」
有無を言わさぬ毅然とした対応で瞬殺される。考えが甘すぎたようであった。
「承知致しました。お手数をおかけして申し訳ございません」
そう述べて軽くお辞儀をし、踵を返す。
しかしこうなると、シエンが提案したものより、良い案は今のところ持ち合わせていない。失意の念に駆られながら呟く。
「どうしようかな……」
戻っていた最中、ふと眼下に広がる街並みを見て思い立つ。ここに初めて訪れたということもあり、周辺になにがあるのか興味が湧いた。
気分が変われば新しい案も思いつくかもしれない。ぐるり一回りしてみようと歩き始める。半周した東側、生垣に囲まれた建物が目に留まった。
「あれ、なんだろう」
広場にポツンと一軒。街中では見かけないほど年季が入っている。辺りの光景と合わさって、ここだけ時間が止まったかのようであった。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は十二月二十四日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




