第72話、古い家、尋ねてみたら王がいた。1
冒険者組合から乗り継ぎを重ねて二時間強、寮へ到着する。送迎馬車を降りたところ、建物は夕焼けに照らされていた。
「疲れたあ」
フラフラで限界。明日に備え、横になりたい気持ちが私を襲う。しかし、為さねばならぬことが残っていた。休むことなく身体に鞭を打つ。
部屋へ戻って荷物を置いた私は、返す刀でシエンに知恵を借りるべく王立図書館へ急ぐ。そして館内で姿を見つけ、すぐに声をかけた。
「シエン様、お願いしたい事がございます!」
シエンは腕を組んで顎に手を当てた後、ため息をつく。
「また、無理難題ではないでしょうね」
「大森林に生息している猫ちゃんたちを保護したいのです」
「大森林ってまた……アカリ様、以前申し上げたように……」
予期せず苦言を呈され、撃沈されそうになる。
普段であればおとなしく聞いていたものの、体調が優れぬゆえ今は御免こうむりたい。勢いで誤魔化そうと、拳を作り、身体の横で小刻みに上下に振りながら、早口でまくし立てた。
「説教なら後で聞きます。と、に、か、く、急いでいるんです!」
「ううんと、猫ですか」
話題が戻ったため、落ち着いたふりをして言葉を返す。
「はい」
「でしたら街中にでも……」
「んーと、そうではなくてですね……すごく役に立つんです」
「仰っている意味が理解できかねます。猫も役に立ちますよ?」
「でも、体格はこれより少し大きいんです。街中には離せません」
そう言って、私は両腕を目一杯広げた。
「ほう、それは大きいですね」
「これは小さい方なんです」
「では、大きい方は?」
「先ほどの二倍くらいです」
「結論を申しますと、その大きさの猛獣を……」
心優しく害のない猫ちゃんたちを否定されたように感じ、声を荒げて言い返す。
「猛獣ではありません!」
「失礼しました。王都のどこに保護しろと仰るのでしょうか?」
「それが分からないから相談しに来ているのです」
「ちなみに、それはどのようなものでしょうか」
シエンにそう問われ、ふと悩む。結局のところ、私には分からぬまま。仕方なく、ありのまま答えた。
「犬というか猫というか……」
「それで……猫ちゃんですか?」
安易に名付けたゆえ、真面目に聞かれると、恥ずかしさが湧いてくる。顔が熱い。耐えきれず、俯き加減でぼそっと告げた。
「はい……」
「役に立つと言っても、あそこは弱肉強食の世界ですからね」
全く気に留めない様子にほっと胸を撫で下ろしながら、反論を述べる。
「いえ、人間によって危害を加えられているのです」
「では、人の手から守れればよろしいということでしょうか?」
「はい」
「それでしたら、冒険者組合を管轄している開拓特区の領主、ユウコ様に依頼の差し止めをして頂くのが手っ取り早いと思われますが」
「差し止め……シエン様、それを守らない人がいた場合のことを想定しておられますか?」
「王都の外へ出られるのは商人か冒険者ですからね。討伐したところで報酬を受け取れないとなると、手を出す人はまずいないでしょう」
「例えばですね、動物ということで革を素材にされたり、不意に遭遇して、攻撃してしまうとか……どうでしょう?」
「そこまでは面倒見切れません」
それでは確実性に欠けるであろう。とはいえ、興味なさげのシエンとこれ以上話をしたところで、解決策は見いだせない感じ――私はあの子たちを確実に守れる方法を得たい。
ひとまず寮へ戻り、考えることとした。
「ありがとうございました。いい案がないか、もう少し探してみます」
そう告げて、シエンに軽くお辞儀をする。そして説教を回避するべく、急ぎ足で王立図書館を飛び出した。
自室に戻った後、思案するためベッドに飛び込む。すると、違うことに意識を奪われる。
「このふっかふか感はたまらないな……」
やはり、ここのベッドは最高であった。程なく、睡魔に襲われてしまう。頭を働かせねばと、必死で耐えてみるものの、抗えるはずもなく――
「うーん」
目を覚ましたところ、翌日の朝であった。
起き上がり、体調を確認する。よく寝たとはいえ、身体はだるい。やはり魔力を使いすぎたことによる反動は、一晩では回復しない模様。
いつものように身体の周りを飛び回っている精霊たちも心なしか弱っているような気がした。
「精霊さん、おはよう。今日はうまくいくかな……」
声をかけた後、差し出した掌に消えていく姿を見届ける。そして、パジャマから学生服に着替えて寮を出た。
「どっちから行こうかな……回るより突っ切ったほうが近いよね……」
裏門から学園内へ立ち入ると真っすぐ進み、グラウンドを抜けて正門を通過する。すると、大通りの遥か先に、かすかに建物の上部が見えた。国王が政務を行う王宮である。
「あれだよね……」
本日土曜日は一限に魔導鍛冶科、二限に医療健康科の授業があったものの、両方とも欠席し、猫ちゃんの件を直訴するべく、あそこへ向かうこととした。
単純な話、領主のお触れが使えないなら、国王により強力な施策を立ててもらえるよう交渉する方が手っ取り早い。
養女とはいえ、私は領主の娘。謁見できる確率は高いはずである。善は急げということもあり、無理を承知で押しかけてやろうと思い立ったのだ。
――勉強が大切なのは重々承知している。
しかし、生きていれば学べる学問と、放っておけば今にでも殺されてしまう可能性がある猫ちゃんたちを天秤にかけ、どちらが重要かと問われれば、無論後者であった。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は十二月十九日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




