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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
五章、けもの編

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第71話、忘れ物、取りに行ったらなにか出た。6




 ――瞼を開くと眩しい。


 日が昇り、日光が燦々と降り注いでいた。


 どうやら再び、気を失った模様。慌てて小さな猫ちゃんの全身を確認したところ、怪我は残っているものの、出血は止まっている。


 急いで対処する問題はなくなった。できる限りのことはしたゆえ、後はこの子次第。


「生きるのよ」


 そう言って優しく撫でた後、王都へ戻るべく、立ち上がる。


 正直な気持ち、ここに留まり、見守りたい。しかし立場上、そうもいかなかった。領主の娘であるがゆえ、所在不明となれば間違いなく大問題。足取りを追えば、ここにきていることは分かるため、必ず捜索しに来るであろう。


 とはいえ、ここは魔物の生息する大森林である。心配をかけるだけならばまだしも、私のせいで他の人たちを命の危険にさらすなど、あってはならない事態。名残惜しい気持ちを抱えつつ、この場を去る決断を下したのであった。


 すぐに太陽の位置から王都の方角を確認し、足を進める。


「急がなくちゃ……」


 気持ちははやるものの一歩一歩が重い。


 この感じでは、普段依頼をこなしている付近にいたとしても、女性警備員に告げた帰寮時間には間に合わないであろう。


 ましてやここは、現在地すら分からぬ辺境の地。騒ぎになる前に、最悪でも外壁までは辿り着きたい。その気持ちを知ってか知らずか、猫ちゃんは私の前を塞ぐようにしゃがみ込んだ。


「アーッ」


 頭を抱える。どうやら帰らせてくれそうにない。言葉が通じぬ以上、小さな猫ちゃんの状態を説明する術は私には無く――ひとまず迂回して先へ進む。


 すると、猫ちゃんは再び同じ行動を取った。ため息をつき告げる。


「ごめんね、急いでるの」


 避けた途端、ローブのフードを勢いよく引っ張られた。高く飛ばされ、身体が宙に舞う。


 ブーツの魔石を使うことができたならば、いかようにもなったものの、魔力は限界。すでに声を上げる気力すらない。成り行きに身を任せたところ、程なくぽよんとした感触に襲われる。


 ――どうやら、落ちた場所は猫ちゃんの背中らしい。


「アーッ」


 直後、鳴き声を上げた猫ちゃんは立ち上がり、すぐに駆け出した。


 抗う術はない。どうにでもなれという心境に陥った私は、諦めて身をゆだねる。落ちぬようにしっかり毛を掴み、疲れを取るべく横になった。




「アーッ」


 ――不意に聞こえた鳴き声で身体を起こし、辺りを見回す。


「ここは……草原?」


 振り返り、後方に目を向ける。すると、木々が生い茂っていた。


「えっ、もしかして」


 背中より首元に移動して、前方に視線を送ったところ、王都の城壁が目に留まる。狐につままれたような気分。試しに頬をつねってみた。


「いたっ、現実……」


 魔法を使いすぎた影響で疲労困憊になり、幻でも目にしているのかと思ったものの、そうではないらしい。ふと、あの時、猫ちゃんがとった行動を思い浮かべてみる。


「送るから、背中に乗れってことだったのか……」


 遅まきながら意味を理解すると、勘違いした恥ずかしさのあまり、そっと顔をうずめた。


 言葉が通じぬゆえ、猫ちゃんの考えていることは分からないものの、本来であれば、容体が心配な小さな猫ちゃんの傍を離れたくないはずである。治療する場所まで運んだからとはいえ、それを押してまで私を送ってくれた。感謝の念に尽きない。


「義理堅いな……」


 ぽつり呟き、空を仰ぐ。日はまだ高い。これなら帰寮時間に間に合うであろう。


 しかし、安心したのも束の間。大森林と城壁の中間に差しかかった時、異変に気づく。王都の門が閉まり始めた。


「えっ?」


 なにが起こっているのか分からず、困惑する。続いて、外壁上部に設置されている巨大弩砲の穂先がこちらを向いた。


「まさか……」


 どうやら、王国騎士団員たちに魔物の襲撃と勘違いされたらしい。このままでは、私ともども攻撃されてしまう。


「猫ちゃん、ちょっと止まって」


 大声で叫ぶとともに、毛を引っ張り、合図を送る。とはいえ、走るのに夢中になっているのか、聞く耳を持ってくれない。


 そして、あちら側に伝えようにも、手段がなかった。


「こうなったら、えーい」


 共倒れするよりはマシであろうと、猫ちゃんの眼前に飛び降りる。


 元気な時ならいざ知らず、今は限界に近い。失敗すれば無事では済まないものの、もはやこの方法しか思いつかなかった。


「とまりなさーい」


 大声で叫んだ次の瞬間、猫ちゃんはびくっとなり、すぐさま地面を削りつつ、急停止する。


「よし」


 あとはブーツの魔石を制御して着地するのみ――しかし、魔力を込めた途端、意識がぶれた。ちっとも回復していなかったらしい。ともあれ、これで猫ちゃんは無事。諦めた私は目をつむり、衝撃に備える。


「ん?」


 落ちたわりにはさほど痛くない。


 訝しみながら、瞼を開く。すると目の前に、猫ちゃんの顔があった。足元を見たところ、うまいこと私を両手で受け止めている。思わず、笑みがこぼれた。


「ふふ、器用ね」


 ゆっくり立ち上がった私は、猫ちゃんに語りかける。


「ここからは危ないから、もうお帰り」

「アーッ」


 猫ちゃんは一鳴きした後、大森林の方へ駆けていった。


「気をつけてねー」


 手を振りつつ、姿が見えなくなるまで見送ると、踵を返し王都へ足を進める。


 外壁に到着した際、周囲は騒がしかったものの、我関せずとばかり、いつもの如く無言でやり過ごす。


 そして、無事であると伝えるため、冒険者組合に立ち寄り、寮へ戻るのであった。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十二月十四日となっております。


12月8日、先週投稿した短編小説の種明かし創作論エッセイを https://ncode.syosetu.com/n6150ll/ 小説家になろうに投稿しました。よろしければみてね。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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