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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
五章、けもの編

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第64話、爺様を、助けに向かい死にかける。2

 現時点で報酬を受け取れるものは、巨大なカエルの舌先しかないとはいえ、命あっての物種である。


 王都に戻るべく足を進めると、白い蛇の立派な牙が目に留まり、ふと閃く。


「これ、報酬になるかな?」


 そして、眺めているうちに気がついた。


「カエルは蛇に襲われたのか……」


 身体に開いた穴の大きさや並びが、牙と一致している。


 二本あるため、順番に魔法を放って切り落とす。しかし、普段花を入れている袋に入らない。片方ずつ手に持つことにした。そして作業を終え、帰ろうと向き直った直後、ふと長い胴体の動物が前を横切る。


「か、かわいい……あれ、イタチかな?」


 思わず言葉が出た。愛くるしい姿を目にして、敵のように思えず眺めていたところ、突如声を上げる。


「ガーッ」


 牙を剥いた姿は、先程までとは打って変わって、悪魔の表情。たじろぎながら呟く。


「怖っ!」


 言っている間に、こちらに飛びかかってきた。


「速っ!」


 とっさに手に持っていた蛇の牙を突き立てる。すると、返り血とともに、獣の悲鳴が森に響き渡った。


「キッ、キッ」


 続けて、地面でのたうち回っていた長い胴体の動物の息の根を止めるべく、即座に行動に移る。


「単式魔法陣、風」


 魔法を放ち、胴体を両断した。動かなくなったのを確認した後、無意識に声が出る。


「あーあ、最低……」


 そこいら中、血まみれ。ローブが樹液で汚れぬよう網を使っていたというのに、台無しであった。そして、終わったと思ったのも束の間。前からもう一匹――


「また出た!」


 すでに牙を剥いているため、襲ってくることは確実。距離を取ろうと、ゆっくり後退する。その最中、木に足を軽く取られ、やや焦ってしまう。とはいえ、これで良いことを閃いた。


「そうだ!」


 ブーツの魔石を発動させて飛び上がり、大きな木の枝に着地する。


「よし、これで安心ね!」


 枝の上といえば、初めて依頼を受けた際、犬に似た一本角の魔物と遭遇して、付き添いのジンが避難させた場所。しかし、今でも思い出すと恥ずかしい。成り行きとはいうものの、あの時は二回もお姫様抱っこされてしまった。


 下を眺めると、奴はうろうろしている。そして時折、ガリッ、ガリッと木を引っ掻く音が響く。おそらく登ってこれないのであろう。


 してやったり。仮面をつけていなければ、べーと挑発してやりたい心境である。代わりに休息がてら枝に腰かけ、鼻歌を口ずさみ、足を交互に動かしてやった。


「ふんふんふんふんふーん」


 程なく音がしなくなり、ふと視線を落とす。諦めたのであろうか、ゆっくり離れていく。その姿を見て、ほっと安堵した。そして、勝ち誇ったように声を上げる。


「やったね!」


 とはいえ、喜びも束の間。


「ガーッ」


 一声上げると反転し、すごい勢いで木に飛びついてきた。


「うそっ!」


 そのままの勢いで駆け上がってくる。それを目にして、慌てて飛び降りた。


 着地の衝撃をブーツの魔石で和らげた後、即座に全速力で駆ける。油断しすぎた。あの状態であったなら、魔法を放つ準備をしておけば仕留められたはず。しかしそう後悔したところで、すでに手遅れである。


 振り向くと、予想していたとはいえ、やはり追いかけてきていた。


「もう、しつこい!」


 迎撃するべく、走りながら精霊を顕現させ、魔力を供給する。そして、立ち止まり、振り返った瞬間、狙いを定めて魔法を放つ。


「単式魔法陣、風」


 ぴょんと跳ねて避けられた。速いし、すばしっこい。なんて厄介な奴であろう。このまま逃げ続けたところで、いずれ追いつかれる。こうなれば、ガントレットの魔石で切り刻んでやろうと、待ち構えることにした。


「さあ、来なさいよ!」


 叫んだものの、先ほどの魔法で警戒したのか、襲ってこない。にらみ合いが続く中、遠くから別の鳴き声が聞こえてくる。


「ケケッ、ケケッ、ケケケッケケ」


 キョロキョロと首をせわしなく振った長い胴体の動物は、程なく走っていった。


「助かった……」


 呟き、へなへなと座り込む。すぐにこの場を離れ、帰ろうと思ったものの、そいつが向かった先が妙に気になった。


 警戒しつつ立ち去った方へ、足を進める。すると、無数の長い胴体の動物に囲まれた人らしき姿が目に留まった。


「いけない、助けなきゃ」


 そう思うとはいえ、あの数では、向かったところで共倒れするのは確実。なにか妙案がないものかと、考えていた最中、ふと声が耳に届く。


「うむ、少々増えすぎたようじゃの」


 言っている意味は分からないものの、声を聞いて、そこにいたのは男性と知る。声がしわがれており、歳を召しているようであった。老人であれば、逃げ足にも期待できそうにない。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十一月九日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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