第64話、爺様を、助けに向かい死にかける。2
現時点で報酬を受け取れるものは、巨大なカエルの舌先しかないとはいえ、命あっての物種である。
王都に戻るべく足を進めると、白い蛇の立派な牙が目に留まり、ふと閃く。
「これ、報酬になるかな?」
そして、眺めているうちに気がついた。
「カエルは蛇に襲われたのか……」
身体に開いた穴の大きさや並びが、牙と一致している。
二本あるため、順番に魔法を放って切り落とす。しかし、普段花を入れている袋に入らない。片方ずつ手に持つことにした。そして作業を終え、帰ろうと向き直った直後、ふと長い胴体の動物が前を横切る。
「か、かわいい……あれ、イタチかな?」
思わず言葉が出た。愛くるしい姿を目にして、敵のように思えず眺めていたところ、突如声を上げる。
「ガーッ」
牙を剥いた姿は、先程までとは打って変わって、悪魔の表情。たじろぎながら呟く。
「怖っ!」
言っている間に、こちらに飛びかかってきた。
「速っ!」
とっさに手に持っていた蛇の牙を突き立てる。すると、返り血とともに、獣の悲鳴が森に響き渡った。
「キッ、キッ」
続けて、地面でのたうち回っていた長い胴体の動物の息の根を止めるべく、即座に行動に移る。
「単式魔法陣、風」
魔法を放ち、胴体を両断した。動かなくなったのを確認した後、無意識に声が出る。
「あーあ、最低……」
そこいら中、血まみれ。ローブが樹液で汚れぬよう網を使っていたというのに、台無しであった。そして、終わったと思ったのも束の間。前からもう一匹――
「また出た!」
すでに牙を剥いているため、襲ってくることは確実。距離を取ろうと、ゆっくり後退する。その最中、木に足を軽く取られ、やや焦ってしまう。とはいえ、これで良いことを閃いた。
「そうだ!」
ブーツの魔石を発動させて飛び上がり、大きな木の枝に着地する。
「よし、これで安心ね!」
枝の上といえば、初めて依頼を受けた際、犬に似た一本角の魔物と遭遇して、付き添いのジンが避難させた場所。しかし、今でも思い出すと恥ずかしい。成り行きとはいうものの、あの時は二回もお姫様抱っこされてしまった。
下を眺めると、奴はうろうろしている。そして時折、ガリッ、ガリッと木を引っ掻く音が響く。おそらく登ってこれないのであろう。
してやったり。仮面をつけていなければ、べーと挑発してやりたい心境である。代わりに休息がてら枝に腰かけ、鼻歌を口ずさみ、足を交互に動かしてやった。
「ふんふんふんふんふーん」
程なく音がしなくなり、ふと視線を落とす。諦めたのであろうか、ゆっくり離れていく。その姿を見て、ほっと安堵した。そして、勝ち誇ったように声を上げる。
「やったね!」
とはいえ、喜びも束の間。
「ガーッ」
一声上げると反転し、すごい勢いで木に飛びついてきた。
「うそっ!」
そのままの勢いで駆け上がってくる。それを目にして、慌てて飛び降りた。
着地の衝撃をブーツの魔石で和らげた後、即座に全速力で駆ける。油断しすぎた。あの状態であったなら、魔法を放つ準備をしておけば仕留められたはず。しかしそう後悔したところで、すでに手遅れである。
振り向くと、予想していたとはいえ、やはり追いかけてきていた。
「もう、しつこい!」
迎撃するべく、走りながら精霊を顕現させ、魔力を供給する。そして、立ち止まり、振り返った瞬間、狙いを定めて魔法を放つ。
「単式魔法陣、風」
ぴょんと跳ねて避けられた。速いし、すばしっこい。なんて厄介な奴であろう。このまま逃げ続けたところで、いずれ追いつかれる。こうなれば、ガントレットの魔石で切り刻んでやろうと、待ち構えることにした。
「さあ、来なさいよ!」
叫んだものの、先ほどの魔法で警戒したのか、襲ってこない。にらみ合いが続く中、遠くから別の鳴き声が聞こえてくる。
「ケケッ、ケケッ、ケケケッケケ」
キョロキョロと首をせわしなく振った長い胴体の動物は、程なく走っていった。
「助かった……」
呟き、へなへなと座り込む。すぐにこの場を離れ、帰ろうと思ったものの、そいつが向かった先が妙に気になった。
警戒しつつ立ち去った方へ、足を進める。すると、無数の長い胴体の動物に囲まれた人らしき姿が目に留まった。
「いけない、助けなきゃ」
そう思うとはいえ、あの数では、向かったところで共倒れするのは確実。なにか妙案がないものかと、考えていた最中、ふと声が耳に届く。
「うむ、少々増えすぎたようじゃの」
言っている意味は分からないものの、声を聞いて、そこにいたのは男性と知る。声がしわがれており、歳を召しているようであった。老人であれば、逃げ足にも期待できそうにない。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は十一月九日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




