第36話 喧嘩
地図上の印が入っている場所を目指して俺とリディアは進んでいくと、街の外へ出た後は景色は森へと変わっていた。
周囲には他の冒険者は見当たらない。
人気がない場所なのか?
ただ魔物が出現しそうな薄暗い森である事は確かだ。
冒険者ギルドで調べた所、街の東側の森に生息している魔物の適正レベルは30前後、アーデルの街よりも高い。
西や南側は平原の地形で出てくる魔物の適正レベルは15前後なので、商人や旅人は安全な平原地域を通過している。
俺のレベルはまだ11。
一方リディアは確か24位だった筈だ。
俺の成長速度は相変わらずと言う他ない。
けれど自分の適性レベルよりもレベルの高い魔物を倒し続けているので、一体倒した時に減少する討伐数も多いので満足はしている。
今は隣を歩く銀髪の少女が無事にラフテルに辿り着ける様に全力を注ぎ、自分のレベル上げはその後だと考えていた。
「リディア、森の中では魔物も出てくる筈だ。気をつけて行こう」
「うん。おじ様、近くに魔物がいる」
リディアが弓を構えると、早速茂みの中から魔物が現れ襲ってきた。
襲ってくる魔物は、適正レベル28のナイトバットと言うコウモリの姿をした空を飛ぶ魔物だ。
以前戦った事があるスカイバットの上位互換の魔物に当たる。
初見の魔物と出会った時、俺は必ず迂闊に攻め込まず敵の動きを観察する事にしている。
俺のスキル【魔物討伐者】の効果は、魔物の特長や弱点、動きを瞬時に把握し魔物の行動を予測できる。
更に戦闘時に能力値が1.5倍となる超チートスキル。
スキル効果が発揮され、俺が数回交戦を繰り返している内にナイトバットの癖が見えてきた。
ナイトバットは羽に付いた鋭い爪か、口から生えている獰猛な牙で直接攻撃をしてくる。
動きは素早いが魔物の狙いが絞りやすく引き付ければ剣でも倒せるだろう。
俺は空中高くから急降下しながら突撃してくるナイトバットを体を横に移動しながら避け、水平に突っ込んできた方の魔物へと剣を振るう。
羽を切られたナイトバットは地面にバサッと落ち、痙攣する様に蠢きながら倒された。
「やはり空を飛ぶ魔物は射程の短い剣では戦い辛い。徒党を組まれると厄介な魔物かもな」
四匹の魔物を倒した俺はリディアの様子を伺う。
リディアは何も無い空間に青の破魔矢を打ち込んでいるだけだが、ナイトバットの方が放たれた矢に突っ込み、自ら貫かれて倒れて行く。
リディアの周りではナイトバットがバタバタと撃ち落とされている状況が出来上がっていた。
倒した数で言えば俺よりもリディアの方が断然多い。
「可哀想に…… 魔物が的にしかなっていない」
ナイトバットにとって先読みの力を持つリディアは天敵なのかもしれない。
「んふ。またレベルが上がった」
リディアは余裕の表情でピースサインを俺に向ける。
この調子ならリディアのレベル上げは、この森でやるのがいいかもしれない。
その後も魔物を倒しながら森の奥へと進んで行くと森を抜けた。
森の先は平地となっていたがその先には十メートルを超える絶壁が行く手を阻んでいた。
左右を見渡しても絶壁は続いている様でこれ以上奥には進めそうもない。
「やっぱりこの地図は俺達を誘い込む為の物だったみたいだ! 敵も集まってきているかも知れないから、リディアも何か気付いたら教えてくれ」
「……任せて」
二人が森へ戻ろうとしたとき魔物の断末魔が聞こえて来た。
敵の動きは速いらしく、どうやら俺達の近くまで迫ってきている。
なら死角の多い森よりもこの平地で迎えた方がいいと判断する。
まずはリディアの安全を確保しないといけない。
俺はリディアに声をかける。
「リディア、どうやら敵は近いみたいだ。お前は俺の後ろまで下がっていてくれ」
「……」
しかしリディアは俺の横から動こうとしなかった。
「リディア?」
「私も戦う!」
「ダメだ!! お前はまだレベル30にも達していないんだぞ。この森に出る魔物の適正レベルは30。ならこの森を自由に移動できる敵のレベルは30を超えていると言う事になる。危険過ぎる。」
「それなら、無色プレートのおじ様も私と同じ……」
俺の場合はスキル【逆転】の効果で、成長具合が普通の物差しでは測れない。
だか敵が迫ってきているこの状況で、そんな事を説明している時間の猶予も時間も無い。
時間が経つにつれて、リディアの危険も大きくなってくる。
そんな状況下で俺は柄にもなく苛立ち怒号をあげる。
「お前がいたら足手まといになるって言ってるんだ!! 速く後ろへ下がれ」
その瞬間言い過ぎた言葉にハッ我に返る。
リディアを見ると瞳いっぱいに涙を浮かべて震えていた。
「リディア……」
リディアはしばらくの間、震えを堪えていたがそれが決壊したと同時に森へ向かって走り出した。
「おじ様の馬鹿!! 私だって戦える! おじ様の力になれる」
「リディアー、待つんだ!!」
俺はリディアの後を追うように森へと入る。
だが障害物の多い森の中では、視界が悪くリディアをすぐに見失ってしまった。
俺は焦りながら必死で森の中を走り回る。
「どこだ? リディア、何処にいるんだ?」
「うぁああ~!!」
草木を掻き分けながら進んでいると、数十メートル先で男の叫び声が鳴り響いた。
(まさか!? リディアが戦っているのか?)
俺は全速力で声が聞こえた方へと駆け出して行く。
「頼む!!! 間に合ってくれ!」
その間にも多くの男達の悲鳴が響き続けた。
だが俺がその場所に到着する少し前に悲鳴は聴こえなくなってしまう。
「リディア!!」
「なんだ? こいつが話に聞いていた爺さんか? 何故、今頃出てきたんだ? 子供だけ戦わせて逃げたんじゃないのか? それにしてもこのガキ、奇妙なスキルを持っているだろう。チョロチョロと動き回りやがって! だが囲んで守りを固めりゃどうって事ない」
目の前には気絶したリディアを肩に乗せた一人の巨漢の男が立っていた。
その周りには冒険者の格好をした者達が何名もいる。
「おい!リディアを離せ」
「何をバカな事を言っているんだ? 折角、捉えた獲物を離す訳が無いだろう。依頼主が待ちわびている。俺は戻るがこの爺さんの相手はお前たちが相手してやれ」
そうそう言って巨漢の男が立ち去ろうとした瞬間に俺はありったけの力で声を張り上げる!
「お前達は全員逃がさない。覚悟しろ変身!!」
俺の顔に仮面が覆いかぶさる。
その瞬間、その場にいる全ての者が俺から目を離せなくなっていた。




