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第34話 フラルジークの街

 アーデルの街を出発して二ヶ月と一五日が過ぎ、街道を進む俺達の周りにも別の商人が隊を作り並走してくる様になって来たりもする。

 街に近づくにつれ自然と人が集まってきている、そんな感じがしていた。

 だから街は近いのかもしれない。

 移動速度は商人の馬車の方が早いのであっという間に俺達を抜いて行くが、すれ違いざまに挨拶をしてみると手綱を持つ男性は手を上げて応えてくれた。


 その後数時間程進んだ所で、俺とリディアは遂に目的地フラルジークの街へ到着する。

 街に入る為の入場門口には既にアーデルの時の倍以上に長い列が出来ており、俺達は列に並び順番を待つ。

 だが今回は前回と違って冒険者となっている。

 俺達の番になると門兵にギルドプレートを見せるだけで簡単に中へと入る許可が降りた。

 フムフムは街が管理する厩舎に硬貨を納める事で利用出るみたいだ。

 俺は早速手続きを済ませ、フムフムを預けると街の中へ足を踏み入れた。


「此処がフラルジークか…… 建物や人の数もアーデルとは段違いだな」


「うん。凄いいっぱい人がいる」


 俺とリディアはしっかりと手を繋ぎ、離れ離れにならない様に注意する。

 先ずはフラルジークのギルド会館を目指す。

 道行く人に道を尋ねながら一時間程度掛けて、何とか冒険者ギルドに到着する事が出来た。


 【初めての街で誰を信じたら良いか解らない時はギルド職員に聞けばいい】そう教えてくれたのはアーデルのギルド職員のマリアだ。 

 今回は安全な宿とラフテルの情報収集を得るために、立寄りたい寺院などの場所を教えてもらう目的でギルド会館へ来た。

 そのついでにギルドの雰囲気も見ておこうと言う一石二鳥の行動である。


 ギルド会館の大きさはアーデルの二倍は在ると思われた。

 どの支部も同じ作りなのだろうか?

 一階部分は広いロビーとカウンターがあり、アーデルの冒険者ギルドと余り変わらない。

 ただ、冒険者の数はアーデルの倍を軽く超えている。


「流石は大都市と呼ばれるだけあるな…… 噂によればこの街の近くにダンジョンも在るらしいぞ」


 最初はキョロキョロと周りを見渡していたが、いつまでもこの会館に居る訳にも行かない。

 早急に泊まる宿を見つけなければ野宿の可能性が出てくる。

 俺はギルド職員と話をする為に列の最後尾へ並んだ。




★   ★   ★




「えっ! マリアさん!? 何故この街に?」


「クラウスさん!! お久しぶりです無事にフラルジークへ辿り着けたのですね。安心しました。実はクラウスさん達が旅立った翌日にギルド本部から姉に辞令が降りたのです。姉が以前より研究していた事を書いた論文が評価されて、今後はフラルジーク支部で本格的な研究をするようにと…… ですが姉は炊事洗濯など出来ないので私も連れて行くと強引に……」


 頬を指で掻きながら困った顔でそう呟いたマリアさんを、俺は同情の眼差しで見つめる。

 マリアさん達はギルドが用意した高価な移動獣でフラルジークに着たらしく、俺達の半分以下の日数だ。


「それは…… ご愁傷……いえ、おめでとう御座います。ですが俺はハンナさんに感謝しないと行けませんね。このギルドに信頼できるマリアさんが居るのはハンナさんのおかげですから。実は今日着いたばかりでどの宿がいいのか教えて貰おうと、それに寺院の場所も聞きたくて教えて貰えますか?」


「そういう事ですか! それならちょっと待ってて下さいね」


 しばらくすると一枚の大きな紙を持ってマリアさんが戻ってきた。


「これは私が使っていたこの街の地図です。もし良かったら使って下さい。寺院の場所も書いてありますよ」


 地図には寺院とオススメの宿に丸印が書かれているが、それ以外にも色々と情報が書かれている。

 つい最近まで自分が使って書き込んでいたのだろう。

 流石はマリアだ。


「この地図を貰っていいんですか? マリアさんも使うんじゃ?」


「私は大丈夫です。この街に来たのは一ヶ月前なので、今は大体覚えましたから」


「それじゃ、遠慮無く…… ありがとうございます」


 俺がマリアと仲良く話していると、周囲から幾つもの視線を感じる。

 俺は気付かれない様にその方へ意識を向けてみると、苛立ちの表情を見せる冒険者の姿があった。

 初めてこのギルドに来たばかりで、誰にも迷惑は掛けてない筈なのにと不思議に思っていると、マリアが手を差し出してくる。


「クラウスさん。これからもよろしくお願いしますね」


 どうやら握手を求めて来たようだ。

 俺もマリアには今後も世話になる事が多くなりそうなので、笑顔で手を握り返す。

 その瞬間に俺へ向けられていた視線が敵意へと変わる。


(もしかして俺がマリアさんと仲良く話しているから? マリアさん綺麗だもんな。一ヶ月間の間でアーデルと同じようにファンを作っていたのか!)


 そうと理解れば無理に敵を作ることもない。

 リディアの手を引き素早くギルド会館から去っていく。

 数名の冒険者達が俺を指さしながら何かを話し合っているのが聞こえた。




★   ★   ★




 マリアが紹介してくれた宿は個室を提供してくれる宿で、一日銅貨8枚。

 アーデルで利用していた宿より高いが、綺麗に掃除された部屋を見た瞬間に価格も納得する。

 そして心の中で俺はマリアさんに感謝を告げた。

 これからはこの部屋を拠点として行動していく事になるだろう。

 その為には依頼を受けながら少しづつやっていく必要がある。

 お金は無限ではないのだ。


「リディア、動くのは明日からで今から街でも見て回るか? ついでに夕食も外で取ろう」


「……ん。行きたい」


 俺とリディアは地図を片手に商店街がある通りを目指す。

 宿からそれ程離れておらず15分程度で辿り着いた。

 俺達は各商店や武器屋を見つけると中へ入り、陳列されている商品を見て回る。


「この防具なんか良さそうだな。軽くて硬そうだ。値段は幾らだろ…… 金貨5枚!! 高いなぁ……流石に手が出ない。それにしても流石は大都市、品揃えが凄い」


「おじ様はずっと、装備変えてないけど…… 新しくしないの?」


「う~ん。もう少しお金が貯まったら考えようかな」


「……ごめんなさい。私のせいで……」


 リディアは賢い子供の様で、自分をラフテルに連れて行く為に俺がお金を極力使わない事を何となく気づいていたようだ。

 反応に困った俺は、ションボリと肩を落としているリディアを宥めるのに何か気が紛れる物はないかと周囲に目を配る。

 するとある店舗が目に入った。

 これだと思い、俺はすかさずリディアの手を引いて店に入る。


「リディア、次はあの店に行こう」


 俺に引かれるがままリディアはその店に入って行く。

 そして店内の空いている席に座り近くにいる店員に合図を送る。


「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」


 合図に気づいた店員が俺達に言葉を掛けてきた。


「じゃぁ、冷たいアポの果実水を二つお願いします。それと甘い菓子を二つ下さい」


「畏まりました。銅貨2枚になります。お代は商品をお持ちした際にお支払い下さい」


 その後、すぐに商品が運ばれる。

 俺は銅貨を渡しリディアに食べるように声を掛けた。

 だがリディアはまだションボリしたままで、運ばれて来た飲み物にも食べ物にも手を付けていない。


「リディア、食べないのか? なら俺から先に食べるぞ! あーよく冷えている、旨い」


 リディアは俺の方へ視線を送ったがまだ手を付けない。

 そこで俺はこれ見よがしに言葉を放つ。


「食べないなら食べなくてもいいが、その飲み物とお菓子の代金は経費として、ちゃんとラフテルに着いた時に請求するからな」


「……えっ?」


 リディアが驚いた表情で俺を見つめる。


「リディアは思い出すのも辛いかもしれないが、俺はリディアのお母さんと契約したんだ。リディアをラフテルに送り届けるってな! 覚えているか?」


 リディアはウンウンと首を縦に振った。


「依頼報酬として、馬車にあった高価な品を俺は今も持っている。多分あれを売れば金貨数十枚にはなるだろうな。俺の分は報酬から引かれるとしてだ。リディアが使ったお金は後でしっかりと請求させてもらう。

 そして俺は記憶力がいい。アーデルの街で宿代が……全部で金貨4枚…… リディアの装備に金貨3枚…… 他にも色々あるが、それらの経費は別だ。後で請求するから覚悟しとけよ。そして俺が自分の分を節約すれば馬車から持ってきた品を売った時に多く儲かる。リディアなら解るだろ?」


(本当は違う。馬車の荷物は全部リディアに渡す予定だ。リディアが使った金も請求する気もない。なんでこんな事を言っているんだ俺は……)


 自分で言った言葉で自分の胸がチクチクと痛い。だがその位しか思いつかなかった。

 リディアは何も言わず、ジッと俺を見つめていた。そしてプッと吹き出して笑い出した。


「……おじ様。嘘が下手すぎ。顔に嘘って書いてあるよ。でも嬉しい…… うん、解った。お金は絶対に貰ってもらうから」


(バレてる。顔に出てる……のか)


 そう言ってリディアもゴクゴクと果実水を飲みだした。

 そして蕩けるような笑みを浮かべる。

 とにかくリディアが元気になって良かったと俺は胸を撫で下ろしていた。


 明日は寺院へ行き、ラフテルの情報を得るつもりだ。

 寺院が駄目なら冒険者達からでもいい。

 先は見えないが確実に近づいている筈だ。

 俺達はその後料理店で夕食を取り早めに休む事にした。

 宿に帰るとベッドは二つあったのだが、リディアは俺の布団に潜り込んでくる。

 まだまだ子供だなと俺が思っていると小さな声で【ありがとう】と呟いた。

 リディアがすぐに眠った為に何に対してのありがとうかは解らない。

 それでも俺の心は暖かい何かに包まれていた。

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