13.女の闘い
手紙に書いてあったとおり、侑家の紗南はほどなくして、王太子宮に現れた――――客人として。
「お初にお目にかかります。侑 紗南と申します。お見知りおきくださいませ、鈴音様」
「―――――初めまして、紗南様。李 鈴音にございます。どうぞ、お見知りおきくださいまし」
完璧といっていいほどの、淑女の礼であった。なるほど、これがうわさの侑家の息女なのか。鈴音は失礼にならぬように、紗南を観察した。意図をくみ取ってか、目が合うとくすり、と微笑む紗南。少女の年齢でありながら、その微笑みは年齢よりも上にみえた。
貴族たちが後押ししている、侑家。我が娘を正妃に。どこの家とて望むことは同じ。この娘も、紫蘭を好きなわけではなく、正妃の座が欲しいだけなのだろう。鈴音はそう踏んだ。その心を読んだのか、紗南は鈴音を静かな瞳でみつめた。
「鈴音様。先に申しておきますね。わたくし、正妃の座を狙ってきているのではありませんわ」
「それは――――本当に、ですか?本意と受け取っても、構わないと?」
「ええ。わたくしは、紫蘭様をお慕い申し上げているだけにございます。・・・まあ、そうは申しても、すぐには信じてはいただけませんね。そうでございましょう?」
「ありていにいえば、信じられませんね。何を狙ってるんです?あなたがたは」
「あらこわい。そのようなお顔で見られなくても、わたくし、逃げも隠れもいたしませんわ」
ばちばちっ、と二人の間を火花が飛んだ――――しぶとそうだ、この女。お互いの表情からわずかに、その感情がみてとれた。そこで、いったん女と女の闘いは第一ラウンドをおえ、紗南は客室へと案内されていった。これから、どのように王太子宮は様変わりをしていくのか、考えるだけで鈴音はどっと疲れてしまった。自室にもどってから、ぽふっと寝転がる。琉香がはしたのうございますよ、といったが気にしているまもなく、鈴音の意識は闇へと落ちていった――――
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