探索
『折りたたまれた空間』の中での探索は続く。
「さて、ざっと見渡したところでゾンビの大部隊の気配は無しと……問題は、あの天井のダクトの先だな」
とエンタメ大佐。
友和はさっそく弱音を吐く。
「そろそろ俺、おいとましなくちゃな。今日は会社さぼっちゃったしな」
軍人二人は、かまわず探索を続ける。
「大佐、このハッチ、なんだか怪しいわ!」
「食糧庫だな。成る程、読めてきたぞ!」
「あ、急に用事、思い出しちゃった。悪いけど俺、先に帰るよ」
軍人二人は友和を完全に無視している。
「大佐、駄目です。磁気ロックです」
「わ! aタイプ、開けるなよ。開けなくていいよ。なあ、後は大佐殿にお任せして、帰ろうぜ」
エンタメが小道具を取り出した。
「よーし、何が出るかな? お楽しみだ。……ちょいちょいとね」
「あわわわっ! エンタメさん、やっぱり開けるの? やめといたほうが……」
ブラスターを手に身構えるaタイプと、へっぴり腰の友和の前で磁気ロックは外され、ハッチは静かに開いた。
「ブモオオーー」
牛が鳴いた。
確かに牛なのだ。
しかも、その牛は巨大な牛であった。
アフリカ象ほどはあろうか。
これが、だだっ広い食糧庫の中の金属の柵に、十頭も囲われているのだ。
「これが宇宙蛭の大部隊の宿主だったって訳なのね」
「そうだaタイプ。有名なデネブ牛だよ。銀河グルメ年鑑にも載ってる」
当然の事ながら、牛の身体は穴だらけであった。
まるで腐肉やチーズにたかる蛆虫のように、大部隊の出撃に参加しなかった留守番部隊の蛭共が這いずり廻っている。
「うわあっ、やっぱり穴ぼこだらけじゃないか! あーもう、何もかも気持ち悪い!」
と、とっくに腰を抜かしている友和が叫んだ。
「見ろよダンナ、床に穴が開いてるだろ? ここがダクトの入口だ。落とし穴のふたが開くと同時に、デネブ牛に電流が流れる仕組みなんだ」
「解った。すると蛭共はビックリして牛の身体から飛び出して、穴を目指してまっしぐらって? あははは、まるで小学校の理科の実験じゃないか。まったく、高脳な銀河連合の諜報員が、聞いてあきれるよ」
「だけど友和さん、結果は恐ろしいものだったわ」
「まあ、ダンナ、情報戦とか破壊工作ってのは、ふたを開けてみれば意外と単純なもんなんだよ」
三人のブラスターが火を噴いた。
牛も蛭も黒こげとなり、やがて真っ白な灰になった。
「匂いは旨そうな焼肉の匂いなんだけどな。そういえば腹減ったな」
と、友和は立ち直りが早い。
「そりゃそうさ、ダンナ。最高品種のシモフリデネブ牛なんだ。なにしろモータウン田村はグルメだったからな。子ノ渡市でかおるちゃんと、焼肉屋を始めるつもりだったかもしれんな」
やがて三人はコクピットにたどり着いた。
aタイプは宇宙蛭の残存勢力や、はぐれ蛭を見つけては焼き払っている。
「見てくれよ。泣けてくらあ」
エンタメがしめっぽい声を出す。
綺麗な女の立体写真が飾ってあった。
友和が尋ねる。
「エンタメさん、これが、あの?」
「そうだ、アレだ、あの化け物だ。やっぱり、かおるちゃんだったんだなあ。ちくしょうめ。おっダンナ、これ見てくれよ」
百円ライター程の大きさの、何かのソフトらしい。
エンタメがスロットに差し込み、再生した。
──遠藤為五郎著・高性能爆薬による『折りたたまれた空間の爆破方法』
やり損なったら水爆十発分の大爆発! ぜひ君も挑戦してみよう。──
「あの野郎。(モータウン田村)正気のうちは、この時空機の始末をつけようとしてたんだなあ。それにしても、俺の本を持ってるなんて、嬉しいじゃないか!」
aタイプが飛んできて、さっそくゴマをする。
「わあ~凄いですね大佐殿、本まで出してらっしゃるんですか~。さすがですう」
友和は面白くない。
「aタイプ、蛭だろ、蛭、しっかり見張って大佐殿をお守りするんだろ?」
「何よー。友和さん、ヤキモチ焼いてー」
「よーし、これだ。フライト・レコーダーだ。別名ブラック・ボックス。宇宙蛭が何処で付いたか解ればいいがな。再生してみよう」
固唾を飲んで見守る三人であった。