焼き尽くす
落とし穴から這い上がってはレイガンに掃射され、命からがら黄色味がかった乳白色の蛭汁に、またぞろ飛び込むはめになる。
これを何度も繰り返して、友和達三人は、とうとう諦めてしまった。
精も魂も尽き果てたのだ。
だから、立方体の穴の隅に、蛭汁にどっぷり浸かりながら、座り込んでいる。
「友和さんテレキネシスは使えないの?」
「駄目だ。ムズムズが来ないんだ」
「役にたたん特異点だな!」
勝ち誇るゾンビ女がレイガンを手に覗き込んだ。ゾンビ男と禿げゾンビも、そのグロテスクな顔を穴のへりから出して、友和達を凝視する。
それからおもむろにレイガンの狙いを定める。
──鳴呼、人生よさらば! まあこれはこれで馬鹿馬鹿しくも楽しかったな。生まれ変わったら独立独歩の、親父以上の泥棒になろう。
──フェロモン号のみんな、コロニーのみんな、さようなら。欲を言えばきりがないわ。
──こん畜生! 冗談じゃない! こんな所で、臭い蛭汁まみれで、もううんざりだ! さっさと殺ってくれ! 馬鹿野郎! 阿呆ったれ! 糞ったれ! ボケナス! カボチャ! えーとそれから……
三者三様に死を覚悟したその瞬間であった。
「ぎゃひ~」
「ぐえ~」
「ぐひゃ~」
と、宿主達の声帯から、激しい悲鳴がほとばしった。
蛭のムサシを先頭に「飛び蛭」一族が、宿主達の顔面に猛然と襲いかかったのである。
蛭のムサシは〝禿げゾンビ〟の眼窩に深々と突き刺さった。
「ギエ~~~~」
叫び声をものともせずに、目指すは当然、最も旨そうな脳みそだ。
ゾンビ女もゾンビ男も、眼窩といわず口腔といわず「飛び蛭」が、突き刺さっている。
やがて首から上に次から次と、隙間なくへばり付いた飛び蛭共は、顔も頭も首筋も、貧り食ってゆく。
もんどりうって倒れる宿主達であった。
ここぞとばかり穴から飛び出した友和達のブラスターが、盛大に火を吹いた。
──ジュボボボボー
宿主も、貴族蛭も、平民蛭も、飛び蛭も、全てを焼き払ってやるのだ。
「ぎえぇぇぇ~~~~」
ゾンビ女の声帯から断末魔の叫びが絞り出される。
その時、友和は確かに聞いたのだった。
熱線銃でゾンビ女の残骸を焼き尽くしながら、エンタメが小さな声でつぶやいたのを。
「かおるちゃん。遅くなってごめんね」
エンタメの汚れ切った頬を、二筋の涙が伝い落ちる。
エンタメにとっては、長年に及ぶ好敵手であるモータウン田村の、「弔い合戦」だったのだ。
地球にいるときには、お互いに機密を隠しながらも、そこそこ仲の良い付き合いが続いていた。
エンタメとモータウン田村は、酒と女とスリルを愛するロマン派のスパイであった。
もっとも下戸の田村は、そのぶん女を愛したのだが。
友和とaタイプに話したモータウン田村の恋人の話は、本当の話であり、かおるちゃんはエンタメにとっても、大切な友人だったのだ。
だからこそ、この突入に参加したのである。
「撃ちかた止めーい」
エンタメが妙に堂々とした号令をかけた。
更にこう言った。
「ご苦労さん。あとは俺の仕事だ、安心して任してくれ」
aタイプは不満である。
「だってこの仕事は、私がコトミ艦長の命令で……」
「解ってるよaタイプ中尉。ここから先は情報部の仕事が優先だ。色々調べなきゃならん事があるんだ」
エンタメはポケットから、何やらカードを取り出してaタイプに見せた。
aタイプは、はじかれように、きおつけの姿勢をとって敬礼する。
「わっかりましたっ! 大佐殿」
エンタメは情報将校だったのだ。
「なんでえ軍人だったのかよ。しかも偉ぶつじゃねえか」
と、面白くない友和が毒づく。
「まあ怒るなよダンナ。OO7だって軍人なんだし、俺くらいの事情通になれば、秘密をいっぱい知ってるからな。適当に出世させておかなきゃ、お歴々も安心できないんだよ」
と、笑いながらエンタメが言った。




