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蛭のムサシ

 はちのムサシならぬ、ひるのムサシは、この不浄の極みであるグロテスクなんてもんじゃない、本当にゲロゲロな世界の中に生まれ出た。


 熾烈な餌の争奪戦のさなか、比較的競争の少ない排泄物から栄養を取って、ひっそりと生き延びてきたある平凡な宇宙蛭が、部屋の隅で分裂した事により生まれたのだ。


 生存競争は厳しく、栄養元はこのあたりでは、もっぱら共食いだ。

 弱い奴、弱った奴を見つけると、躊躇せずに食ってしまう。

 貴族蛭の住み付く〝宿主の肉体〟なんて、夢のまた夢なのだ。


 貴族社会で脱落した奴が、未練たらしく、まだ水気たっぷりの触手をたなびかせながら、ゆっくりと落ちてくる。

 ムサシはさっそく出かけて行き、他の平民蛭共とこれを取り囲み、そして貧り食ってしまう。


 飢えが続くと、何となく気の合うダチの蛭と誘い合って、通りすがりの蛭を襲って食ってしまう。

 これはいい。強そうな大きな蛭でも、若くて元気な蛭でも、仲間と力を合わせて襲いかかると案外楽勝じゃないか。

 こうしてムサシは、このあたりの蛭のアニキ格となった。


「おい、野郎共、宿主に寄生している貴族の奴らな、おら達と同じ蛭のくせに贅沢しやがって、憎ったらしいだ。おらは死ぬ前にいっぺん、宿主から栄養を取る為に、思いっきり触手を延ばしてみたかっただ」


「アニキ、おら達もお供しやすぜ」


 こうして上昇思考が芽生えた蛭のムサシと舎弟共は、宿主である〝禿げゾンビ〟の、ふくらはぎ及び太ももに巣くう貴族蛭に、殴り込みをかけたのであったが、あっさりと蹴散らされてしまった。


 舎弟共はほとんど、貴族蛭の宿主である〝禿ゾンビ〟に、踏み潰されてしまった。

 無惨に殺された舎弟蛭共を、他の平民蛭と一緒に貧り食いながら、

「いつの日か必ず復讐してやるぞ!」

 と蛭のムサシが思ったかどうかは、定かでない。


 ともあれ、その後暫くして、変化が起こったのだ。

 本来ならとっくに分裂を始める程、大きくなっていた蛭のムサシであったが、何故だか分裂を始めない。

 そのかわり、粘膜質の皮膚が妙にだぶついてきた。

 そして触手は骨組みのようなものに変化してきて、だぶついた皮膚がぴんと貼り付き、見事な羽が出来上がったのである。


 ぷるぷると身体を震わせて、最初の「飛び蛭」である蛭のムサシは飛びたった。

 そして初飛行を終えたこの変異体である蛭のムサシは、遅ればせながら、分裂を始めたのであった。


 蛭のムサシの分裂はそれっきりだったのだが、その時生まれたムサシの片割れであるコジローは、同じ特質を受けつぐ「飛び蛭」だったのだが、よく食い、よく分裂した。


 コジローから分裂した子供の「飛び蛭」たちも、よく食い、よく分裂した。

 こうして「飛び蛭」の一族は、その数を増やしていった。


 そろそろ寿命が近づいてきた蛭のムサシは、気まぐれによく飛んでいたのだが、宿主に巣くう貴族蛭共は、さして気にとめる様子もなかった。


 そして、その時がきた。

 蛭のコジローが子供達、孫達、ひ孫達を前に言う。

「今日は蛭のムサシのじっちゃまから、皆に大事な話があるだ。皆よく聞いてけろ」


 蛭のムサシが言う。

「おらあは、そろそろ寿命だ。もうすぐおっ死ぬだ。おら、いっつも飛びながら貴族の宿主さ見てただども、一番旨そうな場所がガラ空きになってるだ。いっつもいっつも考えてたんだけんど、年取ってやっと、その意味が解っただ」


 若い飛び蛭がじれったそうに言った。

「じっちゃま、じらさないで、さっさと教えてけんろ」


 そこで蛭のムサシは高らかに宣言したのだ。

「孫共、ひ孫共、よおく聞け! 貴族の宿主の一番いいとこ(頭部)は、おら達飛び蛭一族の物だって事だ。遠慮はいらねえ。皆で食っちまえ! おらあに続け!」


「そうだったのか!」

「じっちゃまに続け!」

 プルプル! プルプル! と、「飛び蛭」たちの羽が震える。


「ピュー」「ピュー」「ピュー」「ピュー」「ピュー」「ピュー」「ピュー」


 「飛び蛭」たちは、いっせいに飛び立った。

 目指すは貴族蛭共の宿主であるゾンビ女の、ゾンビ男の、そして、かつて舎弟共を踏み潰した〝禿げゾンビ〟の頭部であった。






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