瑠璃の化身③
「ほいっと、大丈夫っす!」
まだ頬に髭柄のアイテムをくっつけたままの柴鴨thが目の前の大穴から突如現れる。結局この中で一番レベルが高く、不足の事態があっても適応出来そうだと生贄ならぬ鉄砲玉に選ばれたのだ。
その言葉通り本当に何も無かったようで、飛び込んでから1分も経たずに帰ってきた。しかし縦穴式の階層移動は先が見えない仕様で、自分から真っ暗闇に飛び込むのが怖いんだよなぁ。
「高さもそうでもないっす、足さえ下にしてれば落下ダメージも出ないくらいっすね……まっ白さん、もし怖かったら抱っこするっすよ?」
「え、でも……重いですよ」
柴鴨thの安全宣言からも浮かない顔をしていた御薬袋さんを見かねて、柴鴨thが極めて下心無く提案する。初めは遠慮していた御薬袋さんも、柴鴨thがふんっとあまり意味のない力瘤アピールする事で、わかりましたと観念していた。
まぁ現実ならともかく、ゲーム内で高レベルともなれば、細身の女性であってもバ怪力だったりもなんて事はザラにある。実際ATK特化で大型ハンマーやらをぶん回す、ロリ系アバターが昔流行っていた。結構配信とかで信者を稼いでいたなぁ。
その他、俺を含めたメンバーは問題ないだろうと穴の前に並ぶ。
「え、せーのでいくっすか?」
「いいな、それ!あの海辺で写真撮る感じでやろうぜ!」
「古っ」
ヂュンの世代でまだあの文化あるのか。俺達が高校生だった10年ほど前でも古の若者の写真として、良く企画や番組で真似されていたものだが、一周回った感じか?
「じゃあ、いくっすよ……せーの‼︎」
「ジャーンプッ‼︎」
ジャーンプッと、嬉し恥ずかしなんとなく胸の前で小さく手を揃え、両足もしっかり膝を曲げて勢い良く穴へ飛び込む。
浮遊感、後暗転。うぉぉ、やっぱ真っ暗こええ……心臓に悪いんだよ。まっ白さんは多分初めてだから不安なんだろうが、俺はこの強制暗転形式のマップ移動がどのジャンルのゲームであっても、本当に苦手だ。
昔流行った何◯年ボタン押して真っ暗空間でその年数過ごしたら〇〇みたいなの巻き込まれたら、間違いなくショック死だな。間違いない。
直ぐに視界に色が戻る、おかえり世界、ここで後何回これやるんだろ……考えない考えない。柴鴨thの言う通り視界が開けたと同時に地面に接触する。
「イェーイ‼︎」
「ばかっ、本当ばか」
すぐに大声出していつも通り叱られるやつ。隣ではお姫様抱っこしてる女傑、されてドギマギしてるお嬢様、暗転酔いしかけている美幼女全員が無事揃っている。
この階層もダンジョン環境に変化はなさそうか……いや、道幅が狭いのか。今いる2階層スタート地点は、上空に真っ黒い大穴が開いていてその他には何もない広場だが、広場から伸びる前後2つのルートの道は1階層より遥かに狭い。
1階層は5人全員が並んでも余裕ある道幅だったが、この階層は2人並ぶのが限界か。いや戦闘の事を考えれば1人ずつ並ぶ方が事故は少ない。天井は相変わらず高く、更に相変わらず点在した苔は沢山ある。
「じゃあ、まっ白さん一旦降りてもらっていいっすか?」
「あ、ごめんなさい!私っ‼︎」
わたわたと顔を真っ赤にして降りる御薬袋さんにほんの一瞬思考が止まる。やはり可愛いは正義だ。
しかし幸せは言葉通り一瞬。御薬袋さんが着地したあたりで足元が微かに振動を始める。
「うぉっ⁉︎ゆ、揺れてる?」
「お、本当っすね……震度3とかくらいっすかね」
「いやわからんが……これ崩れたりはしない、よな?」
この手のゲームは下手にリアルな分、ダンジョンのみならず通常マップであっても地形ダメージが存在する。例えば、天井にぶら下がっている照明なんかを落として、敵の頭にでも当たれば中々良いダメージを叩き出す。
正に現実世界でもそうだが、こんな洞窟。しかも縦穴式でこの階層からは道幅も狭くなると来た。埋まれば即死か最悪身動きできなくて詰む場合もある。
「そればっかりはなんともですね。とりあえず、ヂュンちゃん余計な事はしないように」
「な、なんもしてないぞ俺!」
陽さんの言う通り、リスクを考え出すとそれこそ身動き取れなくなるってなもんだな。
振動も収まり、しばらく経ってもうんともすんともしない静寂が漂うのみ。これはもう行けって事です。
「あ、一応索敵するっす」
柴鴨thが俺達の前方の方の通路の際に立ち、手を挙げる。そういえばパーティも呼吸止めなきゃ行けないんだっけか。
「じゃあ皆さん、せーので息止めてくださいっす。せー、のーっ!」
の、の瞬間なのか、のが終わってからなのか。終わらない問題だよね。まぁ俺たちは特に問題なくぴったりと息を止め、また一陣の風が吹き、しばらく経つと柴鴨thが首を捻りながら戻って来た。
「えーっと……とりあえず前方。疎に敵がいるっすね、種類まではわかんないっすけど面白い事に小部屋が5つあって、手前から5匹、4匹って減っていってるっす」
「また何かのギミックなんでしょうか?こういうのもよくあるんですか?」
「いやー……まぁ、偶にある、かなぁ。でもさっきの階層のギミックの事もある。何かしら特殊な意味合いはありそうだよね」
このゲームの製作陣の凝り性具合から見て一ダンジョン、一フロアだとしてもコピペは有り得ない。特にクエスト用のともなれば絶対に何か仕掛けられているはずだ。
そして、柴鴨thの報告からパッと思いつく答えは。
「やっぱり、最奥がボスかな」
「やっぱりか‼︎流石陽、俺もそう思ってたんだよ‼︎」
やっぱそうだよな。ヂュンや陽さんの想像が一番オードソックスというか、定番の流れだろう。まず前座の雑魚モンスターの群れ、そこから少しずつ厄介なモンスターが続き、最後にはっとね。
そして満面の笑みでバシバシと陽さんの肩を叩くヂュンさんの目の前で、くっ……と擬音が付きそうな程顔をクシャクシャにして口をモゴモゴさせている陽さんが不穏だ。どういう感情なんだそれ。
「で、もう一つっす。思ったより広く無かったんで後ろの道も探知できたんすけど……全く真逆の配置っす」
「というと……最初が1匹、そこから2匹3匹?」
「っすね。因みにどっちも最奥の部屋の敵はそれなりの強さはありそうな気配でしたね」
単体強ボスか、群れでの連携ボスか。どちらも一長一短ではある。こういう時に優柔不断が発動してすぐに決めれないんだよなぁ。
しかしこのケースに関しては全員一致でシンキングタイプだ。ヂュン?ヂュンは絶対ボス1体の方だろ。なんで悩んでるんだみたいな顔してるしね。陽さんに余計な事するなと言われたからか、まだ手は挙げずに我慢してらっしゃる、偉い。
「一体か、群れか」
「はたまた、どちらもギミックモンスターか」
「私は、ちょっと想像つきづらいので皆さんの判断に従いますね」
これでヂュンと御薬袋さんがシンキングタイムから脱落。残り3人の意見次第ではあるが……正直悩むだけ無駄な気がするんだよな。
たらればの話になってしまうし、此方が5人(推奨レベルより下のプレイヤーが2名いるが)いるわけだから、レイドボス並みの単体ボスだろうと連携が厄介な5頭のボスだろうと対応出来るはずだ。
だとすると個人個人の得手不得手を優先すべきか。俺は……。
「俺は単体のボスっぽい方に一票」
「理由は何かあります?」
「あんまりない。強いて言えば、単体の方がヘイトが分かり易いから柴鴨thへ集中させるよう動けば楽かと」
「はいはい!俺賛成‼︎」
「「「知ってる」」っす」
ヂュンは最初からカウントに入っていないので割愛。
「じゃあ、私。私は最後に5体いる方……後ろだっけ?に賛成。理由は私とヂュンちゃんのスキルに多数と闘いやすいものがあるから」
「成る程……んじゃあ柴鴨thは?」
「んんー……ってか、もしかして責任重大っすか?」
しばらく悩むそぶりをしていた柴鴨thだったが、ふと顔を上げて全員が柴鴨thへ視線を向けている事に気付いたようだ。ヂュンと御薬袋さんをカウントしなければ票が割れているからな。ヂュン1人だけ「え?なんで重大?」とか混乱しているが良いや。
「えぇー……じゃあ、単体ボスの方にするっす。理由は万が一はなださんとまっ白さんがやられた時、クエスト進行がややこしくなる可能性を心配して。ボスが5体いるとカバーしきれないかもしれないっす」
「そうか、俺達死ぬかもしれないか」
「まぁ、順当に行けば私が真っ先に、ですかね」
それも一理だ。俺の「柴鴨thにヘイトを集めればいい作戦」に繋がるわけだ。俺達2人が途中でやられてしまって、例えば船着場に戻されるとする。
すると俺と御薬袋さんは2人で洞窟を戻る事になるわけで、1層目はダンジョンギミックもバレてしまっているので割愛。この2層目が問題だ。
最初の部屋でやられてしまう以外、前にしろ後ろにしろ再度進み直しが必要となる。しかしパーティーメンバー達は既に先の部屋で待機している可能性があるわけだ。
そうなった場合、他のメンバーのサポート無しでは合流出来ない可能性を柴鴨thは気にしているんだろう。こういった造りのダンジョンギミックでは一度進むと後退出来ない造りのものも多い。
そもそも再入場出来ないかもしれないし、再入場後も合流出来ない事態が想定される。よってよりヘイト管理の点では単体ボスの方が安全性が高い。というわけだな。
「流石高レベルプレイヤーだな。集団プレイの経験薄いから気が付かなかったわ」
「あー、そっか。はなださんもまっ白さんも普通に着いてきてるからあんまりレベル差感じてなかった」
「お?よくわからないけど、真っ直ぐでオッケー?」
わからないというか、途中から聞いてなかったヂュンにオッケーサインを出し、改めて正面の通路に向き直る。続く先は仄暗く、柴鴨thの言う開けたモンスターのいるであろう場所は此方からは確認出来ない。
奇襲を受ける可能性も考え、1層と同じく先頭をヂュン、すぐ後方に陽さんが続き、その後ろに俺と御薬袋さんが並ぶ。殿は柴鴨th。ヂュンと柴鴨thの位置を変更する案も出たが、ヂュン達の連携を崩す事や柴鴨thのレベル差による圧倒的火力で終わらせるには、この冒険は勿体無い気がしたのだ。
「じゃあ、出発だ!」




