瑠璃の化身②
「じゃあ俺と陽が先頭な!」
「ヂュンちゃんが前衛、私がサポート。まぁここはいつも通り」
集合時間には無事復帰して来ていた陽さんが加わり、突入前にお互いのジョブを紹介したりと最終チェック中。地に足がつく場所に戻って来た途端、余裕を取り戻した様子の陽さんちょっと可愛い。
聞くところによれば、二人は特に固定のパーティやギルドには所属しておらず、二人だけで活動する事が多かったようだ。レベルも二人パーティなら破格の50台。3次職まで解放されており、ヂュンが【剣士】【ハイコック】【ナイト】、陽さんが【プリースト】【妖術師】【大食漢】のバランスの良い……んえっ⁈
「フードファイター?」
「あぁ、やっぱり気になるよね。何かの間違いじゃないかと思ったんだけどね……ヂュンちゃんの作る試作品達を味見し続けていたら……ね」
「な‼︎」
二人しててへっ⭐︎みたいなノリで済ませようとしているが、どれだけの量食べたんだ……。俺も通常通りプレイしていた以前のアバターで、結構料理系アイテムも食べてはいたがそんなジョブは選択肢に出た事がない。質、なのかな、料理の。
「ま、まぁね、美味しいは正義だから……で、中継は俺とまっ白さん」
「はい。ヂュンさん達のサポートと、あわよくばレベル上げ、ですよね」
本来であればレベル差があるパーティ構成は寄生行為とも取られかねず、忌避すべきものだが今回ばかりは是非参加したいクエストであるし、俺のレベルを迅速に上げないといけない事情もある程度は承知の上だ。遠慮なく寄生させてもらい、ヂュンと陽さんの撃ち漏らしなどを狩りとっていく陣形をとる。
一応、【魔法使い】と【魔物使い】であるので役目的にはこの辺りが正解でもある。魔物使いが中央で魔物を使役しつつ索敵や軽い戦闘をこなし、前衛を支援。前衛が戦闘中に高威力の魔法を狙いすまして魔法使いが安全圏から唱えるわけだ。
「お二人とも存分に私らに甘えてくださいっす!私に後ろは任せてくださいっ!」
「はい、ありがとうございます、柴鴨thさん」
シュッシュッとシャドーボクシングする拳には紫乃とやり合っていた時とは違い、恐らく雷系統の効果が付与されているであろうバチバチと電流のようなエフェクトが飛び交い、フサフサした茶色の魔物毛で覆われた手甲が装備されている。
この最強の布陣で、いざ行かんっ!
◆
青白く、ぼんやりとした弱光を放つ苔に覆われた岩肌。全体的に湿っぽく、やや水気も帯びていて足元が良く滑る。
視界も良好とは言えないが、周囲の発光する苔と、陽さんの一次職【プリースト】の初期魔法の一つである【トーチ】により、パーティの前後少しまでは視界は確保されている。
因みに【トーチ】は発動時にMPを消費する魔法であり、3時間で消える。確定3時間なのがミソで、こういったダンジョン内では時間間隔を測る大事な要素だ。
ステータスなりインベントリなりのウィンドウにゲーム内時、現実世界時が表示されるが、ダンジョンに潜るという行為は普段フィールドを探索する場合よりプレイヤーの視野を狭める。そうなのだが、皆忘れるのだ。
「そっち!左上の岩肌に瑠璃蝙蝠2匹、います!」
「あいよぉっ‼︎【ソニックエッジ】ィ‼︎」
御薬袋さん(正確には漆黒のトゥルエビッツことトゥルーさんだが)の索敵により事前に敵を発見。すかさず前衛のヂュンの剣士スキル【ソニックエッジ】が轟音をたてながら、【瑠璃蝙蝠】へと直撃する。
剣士ジョブを獲得すればほぼ無条件で獲得するスキルではあるものの、そこは流石年の功もとい、高レベルの功。魔力を帯びた衝撃波は瑠璃蝙蝠に当たると一撃で葬り去ってしまう。
そんな中、俺と御薬袋さんはというと被弾する事は全力で避けつつ、隙を見て一撃入れるスタイルだ。我々も【閃光刃】や【ファイアボール】など遠距離攻撃を試してみたものの……閃光刃は現在のMP全使用で、それに応じたダメージを叩き出す。MP完全回復中ならともかく、今現在秒間でもMPを吸われ続けている以上、運用できる可能性は低い。
更に俺や御薬袋さん程度のレベルでは、【ファイアボール】その他低威力スキルなど色々試してはみたが、瑠璃蝙蝠達のVITやDEXが高く雀の涙も通れば御の字よ。
よって、より高ダメージが出るように武器で直接的に攻撃を加えている。相手からの攻撃はまだ喰らってはいないが、これ程のステータスの差を見せつけられては一撃死もさもありなん。
俺は小盾を装備しているが、御薬袋さんは今メイス一本だからより安全マージンを取りながらの戦闘を余儀なくされている。
「凄いですね……先程からレベルアップのアナウンス沢山します。普段長時間狩りをしても中々上がらないのに」
「だな、これぞまさに、寄生プレイってな」
「おぅよ!どんどん寄生してくれよ!まだまだ余裕だぜっ、と」
御薬袋さんの仰る通り今の戦闘で4度目のエンカウントだが、もう2人ともレベルは2ずつ上昇している。通常通り自分のレベル周りのモンスターを狩っていたとしたら、凡そ1レベル上げるためには2.30回は戦闘が必要だったろう。うまうまである。
因みに、レベルアップ時はHP・MP共に一旦全回復する。急に吸い上げるMP量が多くなるからか、その度に黄衣の蜥蜴が振るえ出すのがこの上なく不快だったと心に留めておく。
パァンパァンと、瑠璃蝙蝠がヂュン達に屠られる光景は続く。モンスターの消滅エフェクトは違いが無い筈だが、元の見た目が瑠璃色をしているのも相まってとても綺麗である。【ソニックエッジ】が当たる度にまるで流れ星が弾けるようだ。
当たる度にとは言葉通りで、ほぼ一撃だ。ヂュン達にとっては瑠璃蝙蝠程度はまだまだ自分達よりレベルどころか格下のモンスターだろう。陽さんもサポートはしているが、大体ヂュンの一撃で葬られるので、それまでに俺と御薬袋さんは攻撃を当てれるよう虎視眈々と狙っている。
「しかし入り口から2.30分くらいか……まだ瑠璃蝙蝠以外出てこないし、レベルも大したことないんだよな?」
「そうっすね……大体平均20後半くらいのレベルが多かったっすかね。因みにはなださんがこないだ倒してた【ヴァパファング】は18でした」
おー、俺で勝てたんだから勿論瑠璃蝙蝠よりは下のレベルだと思っていたけど、案外健闘してたんだな。危ない危ない、【ジャイアントキリング】の補助なければ無理だったかな。
お察しの通り、このWAO内には【鑑定】のスキルもあり所有者はモンスターやプレイヤーに視線を向け、集中すればレベルが表示される。残念ながら【パパラッチ】や【錬金術師】には内包されていないが、そこはハイレベルプレイヤー。
柴鴨thが取得済みで、逐一レベルや弱点も報告してくれる。因みにモンスターのレベル以上の弱点・ドロップアイテム・生態などは【鑑定】スキルのレベルが上がってゆけば項目が増えるそうだ。
「まー、そうっすね。瑠璃蝙蝠のレベルが20後半くらいっすからヂュンさん陽さん揃っているなら大丈夫っすね」
「そう、2人共遠慮しないで大丈夫ですから。いざとなればヂュンちゃん肉壁にでもしてください」
最早そういった扱いをされる事に慣れているのか、そうそう!と元気に笑いながらズンズンと前に歩みを進めるヂュン。ありがたいっちゃあありがたいのだが、流石にコメントには困る。
寄生させてもらっているうえに更に敵の攻撃への肉壁にするなんて、良心の呵責が……ヂュンなら、まぁやるしかない場合ならいいか。
俺か御薬袋さんが被弾して死んで、リスポーンするなり蘇生させるなりを待つよりは肉壁にした後に後ろからポーションでも投げている方が余程有用かもしれない。
「しかし、まぁ……何にも無いな」
「そうですね、時々のエンカウント以外は特に目立った場所や物も出てこないですし。トゥルーも、しばらく大丈夫じゃないかと余裕そうです」
トゥルーに関しては、というよりは俺達のあれやこれやに関してヂュンと陽さんはあまり深入りしてこなかった。御薬袋さんが【魔物使い】である事を伝えると特に不審がられることもなく、積極的に共闘してくれている。
トゥルーもまた斥候として戦闘を続けている最中にヂュンに懐いたようで、さっきから偵察任務に出ては帰ってくるなりヂュンの足元を走り回っている。
俺に懐かないのはこの左眼の【一角兎の紅魂】の影響だろうと思っていたのだが、意外にも柴鴨thにも同じと言うか、割と無視に近い対応をトゥルーは取っていたのでてっきり人間嫌いなのかと思っていた。
だが、ヂュンに対しては小さい子供が親の気を引くような、周囲を走り回っては体を寄せてどう?とまるでアピールするように上目遣いで迫っていたりする……むぅぅ、何故奴はあんなにモテるのか。
さては兎も角、洞窟の第一層というのか、この蝙蝠ロードはいつの間で続くのやら。途中本当に視界が悪い以外は一本道すぎて逃したギミックや謎解き箇所も見受けられなかった。
ひたすらに瑠璃蝙蝠を駆逐しつつ歩み続ける以外には方法は無さそうだ。トゥルーの索敵で異常が告げられないって事は逆に出口とか別の階層への階段なんかも見つけられなかったわけだしな。
「入口から30分……いや1時間くらいっすかね?」
「あー、かもな……相変わらず苔と蝙蝠ばっかり」
「結構広めだな!」
相変わらずヂュンは溌剌としているが、柴鴨thと俺はちょっと飽き飽きしてきている。本当に、2.3分歩いては蝙蝠、倒してはまた苔玉を通り越してはまた蝙蝠。
お?
「あれ?いやいや、ちょっと待てよ……」
「はなださん、どうしました?」
「まっ白さん、あの苔玉ってささっきも見たくない?」
隣り合って歩いていた御薬袋さんに苔玉を注視するよう指で誘導する。目線は直ぐに苔玉に向くも、うむむと記憶を掘り起こしている様子。
実際苔玉に関しては半信半疑ではあるんだが、考えてみると瑠璃蝙蝠の出現頭数もずーっと、4匹→5匹→2匹の組み合わせな気がする。
直近遭遇した瑠璃蝙蝠が5匹だったから……この考えが正しければ次は……あ、ほら2匹だ!
「瑠璃蝙蝠2匹!陽さんに向かいました!」
「あいよぉ!」
御薬袋さん含めて、少し考え事をしていたので、戦闘への対応が僅かに遅れる。今の立ち位置からでは瑠璃蝙蝠が陽さんに攻撃する事を止める事も、トゥルーが攻撃自体を受け止める事も不可能だろう。
が、まぁ心配ご無用!無駄に元気有り余りまくりなヂュンが直様、陽さんへ群がって来ていた瑠璃蝙蝠を斬り倒す。仕留めたのは1匹で、残り1匹は突然斬り倒された仲間の断末魔に取り乱す。
手当たり次第四方八方に暴れ回っているようだが、しっかり狙っていない攻撃など少し離れれば当たる事はない。
「ほい、【溜め切り】っと」
座標も定まっているので、ゆっくり溜めモーションを行い渾身の一撃を放つ。今回は【レールスライド】による空中落下+【ダブルスラッシュ】は付属させていない(というか肉塊のせいで実現出来るかが怪しい)
だがヂュンが少し弱らせていた事と、途中で白雲に持ち替えていた事もあり、しっかり通ったダメージで倒し切る。
「いやー、めっちゃ安定してるっすね」
「おー、そうだよな‼︎魔法使いって聞いてた、はなだが剣ばっか使ってるのはウケるけど!」
ヂュンがカラカラ笑いながら洞窟に大声を響かせる。普通のダンジョンならモンスターの追加が来そうな行為だが……やはり2.3拍置いても周囲に動きはない。
「それで、はなださん。戦闘前に何か、苔がどうとか言ってませんでした?」
「うん、それと今のヂュンの大声でも追加モンスターが来ない事で確信したんだけど。多分この道ループしてるね」
おい、そこの中級者!やべって顔で今更焦っても遅いんだぞ。普通のパーティでダンジョン潜ってたら最悪干されるぞ。
「どういう事です、ループって言うと……繰り返し?」
「あぁ、時々あるダンジョンタイプ。ゲームではむしろ良くある演出で、何か特別なアクションとかキーアイテムを手に入れないとひたすら同じ道、同じ敵ばかり出てくる感じだよ」
ゲームとかアニメのサブカルにあまり触れていないと想像もしないんだろうな。可能性として無いわけではなかったが、こういうタイプのダンジョンは気付けばものの数分で次のフロアに進めたりもする。
しかし、自分で言っといて何だが……。
「それで、その特別なきっかけって?」
冷静な陽さんの的確な指摘に今までのドヤ顔が鳴りを潜める。それはほら……ね。
ごにょごにょともごついていると、結局わからんって事か!とヂュンに背中を激しく叩かれる。やめろ、このアバター小さいんだから衝撃で飛ぶ!
「まぁ、じゃあ時間もないですしそこは任せてくださいっす!」
自信満々に俺達から少し離れた柴鴨thは手の内に数本の黒い糸か、紐のような物をインベントリから取り出す。一本摘んだかと思いきや、自身の頬にペタペタと貼っていく。
どういう粘着力かはしらないがしばらくすると左右対象に頬に黒いそれが展開され、一見すると猫のコスプレでもしているかのように見える。それで準備が整ったらしく声がかかる。
「ちょっと今から探索スキル使うっすから、みなさんなるべく呼吸も止めてじっとしてて下さいっす!」
「こ、呼吸も⁉︎り、了解でふっ、がふっ!ごほっ!」
御薬袋さんが慌てて激しく息を吸ってむせたので一拍。あの髭もどきは見た事ないが、探索スキル自体は持っているプレイヤーも少なくはない。ダンジョンへ向かうとなれば最低限の役割は果たせるし、普段のマップであっても奇襲対策にはなる。
しかしそれくらいは柴鴨thほどのプレイヤーなら当たり前の事だし、なんならこのダンジョン入った途端に使う方が定石ではあるはずだが……何か制限とかでもあるタイプかな。
そうこう思案する内に整った御薬袋さんを筆頭に全員で柴鴨thへオッケーサインを送り、確認した柴鴨thが片膝を折り、両手を地面に触れる。クラウチングスタートの姿勢っぽいな。
一呼吸おいて、魔法陣やらスキルの発動エフェクトによる発光やらは見受けられなかったが、強めの一陣の風が俺達の間を通り抜ける。このダンジョンに潜って後、風を感じることは無かったのでおそらくこれがスキルのエフェクトか。
「なる、ほど……っす、あ。みなさーん!もう大丈夫っす」
「ぷはぁ、どうだ!柴鴨th!」
「ヂュンちゃん」
注意されたばっかりだろ、と陽さんのしっとり湿度を感じる一言が添えられる。まぁ柴鴨thも距離あるから割と大きめの声出してたし、何より探索スキル使った後だから安全なのもわかってるだろ。
そして当の柴鴨thはくいっくいっと片手で洞窟の壁を指しながら近づいてくる。壁か。
勿論警戒はしていたが、それはモンスターが潜んでいたり地形を把握したりする程度の警戒で、何かギミックが隠れているかまでは当然無警戒だった。
「すごい舐めプといいますか、偶然でも突破できそうなもんっすね。この辺、ある程度の間隔で壁がない場所があるっす。で、奥には同じような長細い道が若干続いてるっすね」
ほら、と柴鴨thが徐に周囲の苔が密集して生えている箇所に手を添える。が、その手は苔に呑まれたように苔内部へと消えてゆく。
はー、なるほど。幻覚、もとい幻影の方が正しいだろうな。実際に壁がある箇所と無い箇所が混ざって配置されていたのか。
ある程度運が良ければ突入してすぐ、壁を触りながら進んだりすれば容易に看破可能だったわけだな……してやられたな。
「うわっ、本当ですね!見てくださいはなださん、私半分埋まってますよ!」
「おぉ、なんか前衛的なアートっぽいよ!それにしてもまっ白さん、そっち安全?」
ひぃっ!と慌てて御薬袋さんが此方に飛び戻ってくる。折角柄にも無くはしゃいでいるところ申し訳なかったが、通路の奥にモンスターや新たなギミックが無いとは限らない。
しかし種が判明すれば容易いもので、むしろ全員で隣の通路に移ってからは瑠璃蝙蝠と遭遇することも無く、恐らく最奥部へと辿り着いた。
眼前に広がるは全てを飲み込むかのような大穴。先の幻影のギミックと同じか、はたまた自然的なものか、底は見えない。
「これみよがし、だな!行くか!」
「バカ。行くって、死んだらどうするの。真っ逆さまかも」
「後は下にモンスターがうじゃうじゃって可能性もあるな……だけどこの穴が次のフロアに繋がってるのは確かかな、他に反応もなかったんだろ?」
柴鴨thによれば、元のルートには等間隔に並んだ瑠璃蝙蝠とひたすら奥行きのある道が続いていて果てが感知できないとのこと。逆に隠されていたルートはこの大穴以外に目立つものもない。
とくれば、決まっている。
「やっぱ行くしかないってね」




