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偶然偶然、ホントグウゼン⑤

船体漂うは純粋な海とは呼べはしないが、船体に付いている魔導モーター(船長NPCの微々たるMPで、効率よく船を動かす事が出来るよ、って設定らしい)の駆動により船体が振るえ続け、微弱な波が起きる。


そのぱちゃぱちゃと小さな波音を背中に、俺達は縦横共に4メートルは凌ぐであろう、大きな洞穴の入り口に突っ立っていた。入り口では風が強く吹いていて、その度にまるで獣の唸り声のような音を鳴らしながら洞窟の奥へと吸い込まれていく。


位置的には先程釣りを行っていた湖畔中心部から少し離れ、黄衣の蜥蜴がねぐらにしていた南部とは反対側の、瑠璃湖畔北部にあたる。マップの端にあたり、通常のルートからは森に阻まれ見えない位置だな。船長には万が一に備え船で待機してもらい、俺達は洞窟へのカチコミ準備中というわけだ。


「ここに瑠璃湖畔の主が……【七宝主】さんがいらっしゃるわけですね」


「クエストテキストと、船長のおっちゃんが言うにはね」


そう、おっちゃんが心当たりが有ると漏らした途端、クエスト申請がパーティ全体に提示された。【青星方解の七宝を求めて】、なるクエストだ。


出現条件がよく分からず、あまり再現性も無いであろうシチュエーションなので一瞬エクストラクエストを期待したのだが、生憎通常クエストのようだ。それでもレアクエストには変わりないだろうけどね。


クエストテキスト曰く。瑠璃湖畔周辺での漁を生業にする漁師の間で、実しやかに噂される恐ろしい轟音の鳴り響く洞穴が、湖畔にひっそりと存在する。


かつて数多くの物見遊山な漁師や、一攫千金を狙った者達が足を踏み入れたものだが、無事に帰り洞穴内部の様子を伝えた者はおらず。そして洞穴の近くで漁を行う漁師達は、時折地面を揺るがすような大きな獣の声にも似た轟音に恐れをなして誰も近寄らなくなったという。


しかし、瑠璃色に煌めく古の残海抱えし宝はその奥底にこそ在るのか。一陣の唸風は永久に吹き続けている、だそうで。


そんな状況で、この辺りの漁師頭でもある船長のおっちゃんは、自らの船で爆釣果を上げた一組の【探索者】達に目をつけたわけだ。要は洞穴調査の鉄砲玉だな。


「だけど有力情報っすよ!海宝種とは言えないらしいっすけど、海辺でも見る貝や時折珊瑚まで洞窟周辺には見かける、らしいっすからね」


「そこはまぁな、意外にもこの辺りでは一番の船頭NPCだったみたいだし、誤情報とは思いたくないな」


おっちゃん曰く、が本当であるならばだ。まだ見ぬ洞窟深部には海宝種が居ることだって夢じゃないだろう。ましてやレアクエストもクリア出来るとあれば、やらない理由の方が見当たらない。


しかし、それにしても洞穴の奥はかなり暗くなっており奥行きがほぼ判らない。松明なり照明用の魔法があれば使用して進むタイプのダンジョンだな。


「お!丁度陽のやつ復活できるみたいだ!」


「良かったっすね!幸いここはしっかりした足場っすしね」


洞窟やらダンジョンは内装が判っていない場合、内部に出現するモンスターや罠もさることながら、どれくらい攻略に時間がかかるかも挑戦するネックになる。


確かログインしたのが現実の昼過ぎで、半日以上は経過しただろう、そろそろ夕方か夜に差し掛かる時間帯のはずだ。


一度ログアウトしないと不味そうな気もするんだよな……まだオムツ生活はしたくないし、何より万が一漏らしてしまったとして空百合が用意した最新鋭のダイブ機の補償、弁償など考えるだけでも眩暈がする。


「どうする、一旦潜る前に休憩にするか?……というかそもそも皆時間大丈夫なのか?」


「あー、今が現実では16.7時くらいっすかね……私は別に24時くらいまでなら平気っすけど休憩してから潜りたいっすね」


「俺も、陽の様子を一旦見てくるぜ!」


まぁ、だよなぁ。ランカー候補である柴鴨thは勿論の事、ヂュンもWAO内の仕様には精通しているようで、話はトントン進む。


まっ白ちろすけ事、御薬袋さんはイマイチピンときていないのかみんながそうするなら、と言った様子だ。


「よし、じゃあ現実で1時間後。18時ごろ集合にするか」


「了解っす……これログインしてもちゃんと船からスタート……っすよね?」







「まぁ、俺も陽を見に行った時帰ってこれたし、大丈夫なんじゃないか?」





「「いただきます」」


既に夕刻も過ぎ去る時間帯に近づき、利用する社員も疎な社員食堂の一角で俺と御薬袋さんは同じ窯の飯で作られたであろう、リゾットをつっつく。


俺はトマトソース、御薬袋さんがクリームソースだ。受け取ったばかりで未だ湯気が立ち上り、これから被る口内の火傷を暗示している。WAO内ではMP回復の為、常に何かしらつまんでいて錯覚した満腹感はあったものの、更に食欲がくすぐられる良い香りだ。


「皆さん、何というかこう……避難訓練上級者のようにテキパキされてましたね」


「ん?……あぁ、まぁね。御薬袋さんはこういうゲームあんまりしないんだったよね?」


「まぁ、ゲーム自体も数える程しかしませんね」


ならば想像し難いのも当然です。ここはゲーム活動の先達として、しっかり説明させていただくとしましょう。リゾットに付属の粉チーズを振り掛けつつ、早速何から説明したものかと考える。


「じゃあ先ずはダンジョンについてかな。さっきみたいな洞窟、お城だったり果ては墓地だったり、場所は様々だがフィールドとは別のエリアが設定されているわけだ」


「それは私も想像出来ます。沢山モンスターさんがいたり、宝箱があったり」


「そう、それもダンジョンで重要な要素。大体一番奥にボスがいて倒すか、何かしら重要なギミックをこなせばクリア、かな」


ダンジョンによってはボス不在で脱出する事を求められたり、果ては特に目的も無い場所だって存在する。


そういう、このダンジョンを作成した人はここで何をして欲しくて作ったのか、を考えながらこなすのもダンジョン探索の醍醐味でもある


「それで、何れのタイプだとしても最深部に向かって進んでいくんだ。大体のダンジョンで内部がエリア毎に振り分けられていて、上がったり登ったり、果ては落下しながら進むダンジョンも見たことあるなぁ」


「落下……痛そうですね。ダンジョン内のエリアは事前に構造がわかったりは……?」


「しないね、こればっかりは実際に入ってみるまでは全く見当も付かない。それも醍醐味」


だからこそマッピングが重要で、プレイヤー作のマップを専門にしたショップもあるわけだね。そしてマップが無いことの弊害は他にもある。


「そして今回一旦休憩を提案したのは、まさにそのダンジョンの内部がどうなっているのか不明だった事が原因だ。当然、内部に入ればタイプは大体わかるんだけど、長さ深さは結局最深部に着くまではわからないからね」


「成る程……最悪とても長いダンジョンなら現実時間が経過しすぎて生活に支障が出ると」


「うん、まぁWAOに限らずどのダイブゲーム……いや、非ダイブゲームもそうか。ダンジョンなりイベントなり、初見はそこが一番の敵だったりするかもね」


古の日本では晩御飯前にゲームを始めたお子様が、家族揃って食卓を囲う慣習のため無理矢理ゲーム機の電源を切られたりしたこともしばしばあったとか無かったとか。


時代が進めど、その部分は効果的な改善は見受けられないし、してはいけない気がする。ダンジョン、イベント、ボス戦諸々、何が待っているのかわからないからこそワクワクするのであって、今からこれくらいの敵が出現してこれくらい平均時間がかかります、なんて盛り下がる表記はゲームにとってはノイズでしかないだろう。



「と、言うことは」


「言うことは?」


「識守くん、明日の遠足行事はどうするつもりなんです?」


ぐっ……痛いところをつく……今が18時前くらいか。そろそろ集合時間ではある。WAOに戻ったとして、23時までには現実に戻らないと終電が無くなってしまう。


5時間=WAO内で15時間。誤差差し引き13時間と見ていいだろうが、例えば瑠璃湖畔に限らずあのレベルの初級エリアのダンジョンであれば、凡そ2.3時間もあれば隅々まで探索攻略出来ると言われている。


しかしながら、今回イベント発生条件が特殊な事もあり恐らく中級ダンジョン以上であることは確定かと思われる。中級で5.6時間は最低ライン。上級に近いものだと10時間越えもしばしば見受けられる。


「ぐぅぅ……多分なんだけれど、WAO内で10時間くらいはかかるかもしれない」


「なら、21時は過ぎると」


「うん……明日は確か会社近くの駅バスロータリーに10時集合だったよね?」


「はい、そこから貸切バスで2時間ほどかけて移動らしいですね」


なら睡眠時間的には移動時間で賄えるか……え?会社の活動で寝るのはどうかって?野暮な事ですね、遠足は仕事ではございません。慰安ですから、眠る事も慰安と捉えたり。


ネックなのは着替えなりなんなりを全く用意せず今ここにいるので、その辺りに割く時間が必要だって事だな。


「……識守くん。このクエストって多分私のスキルに関係ありますよね」


「多分、だけど。それか柴鴨thみたいなある程度高レベルプレイヤーが必要とか」


他にもヂュンのような調理系の上位スキル持ちが必要とか、考え出したら山のように発生条件は思い付くものだが、有力なのはこの2通りかと思っている。そしてそこが更に問題なのだ。


先の着替えなりなんなりの問題も、正直なところ俺一人の話なら最早気にせず残ることを考えるのだが、御薬袋さんのスキルが必要=御薬袋さんにも残ってもらう必要がある、わけで。


「21時……まぁ、無理ではないですけど」


「え、えぇ……なんというか、俺が言う台詞かはわからないけど、無理しなくていいからね?」


「はい……でも私も、これから識守くんとは別行動でログインする日も増えるでしょうし、折角ですからご一緒したくて」


はぁあん‼︎ダメだダメだ、そろそろ天使耐性付いてきたかと思っていたが、後光すら感じる!この子誰に対してもこうなんですかっ⁉︎そんなの、そんなの⁈


思わず目眩すら覚えるが、なんとか踏み堪え気付代わりにリゾットを一口放り込む。さすが大企業なだけはあり、社食も驚きの安さ且つ安定の美味さを成り立たせている。


「御薬袋さんが残ってくれるのはとても、ありがたいよ……正直、最近結構参ってはいたからさ。切羽詰まっているのは、重々承知しているんだけど、妹にあれだけ怒られてるというか」


「最早憎しみすら感じましたね……本当に心当たり無いんですか?」


「……無い、んだよなぁ。仲が良かったわけではないんだけどさ。昔はちゃんと話もしていたし、絶えず喧嘩していたわけでもないし」


こればかりは幾らかんがえても覚えがない。紫乃とはこの2年ほどはほぼ顔を合わせていない。辛うじて裁判中に実家に一時帰宅していた際は、家の中で顔を合わす程度はあったが。



そういえば帰省中に、やたらと従姉妹の美耶ちゃんと一緒にいたなぁ。昔から仲は良く俺と紫乃と、3人で遊ぶことも昔は良くあった。


……あの頃の紫乃はちゃんと俺の後に着いて頼ってきてくれて可愛かったのに、どうしてこうなった。


幾ら唸っても答えの出ない俺の様子を見て、呆れたようなというか、呆れたため息を一つ。不思議な事に御薬袋さんからあからさまなため息を吐かれても不快じゃない。


「まぁ、プライベートな事ですから余り詮索はしませんけど。女性目線で意見するならば、思い当たらない事が、より怒りを助長しているのでは?」


「かといって、他の家族に聞こうにもどう説明したもんかなぁ」


母さんはお気楽能天気というか、良くも悪くも当たりが柔らかい人で恐らく事情は知らないだろう。父さんも厳しくはないが、昔から紫乃に甘過ぎるので聞き辛い。


……美耶ちゃんに聞いてみるか?いやでも、連絡先知らないから一旦実家に帰って美耶ちゃんの家まで行かないといけないしな。その時に紫乃と出くわせば今度こそ現実で仕留められるかもしれないしな……ぐぬぬ。

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