刺青、ウサギ……そして高まる厨二感③
「ぜ、全部頂いちゃっていいんですか?」
今、御薬袋さんはちょっと足をわなわなさせながらもこちらに来てくれて、絶賛ドロップ品の回収中だ。ゴールドだけ頂いて、後は全部御薬袋さんの【素材錬金】に使ってみようと思ってプレゼントしたのだ。
本日ログインした際に、お互いギフトで貰ったスキルについてしっかり考えてみた結果、御薬袋さんの【錬金術師】に含まれるスキルは大きく3つ。
【鑑定眼・強】まぁ素材とか装備品とか、アイテムの詳細を一般説明文よりさらに詳しく見れる。更にフィールドに落ちてるアイテム等がリスト化されたりと凄い。
【錬金節約術】こないだはポンポン錬金していたけど、本来は錬金用の鍋やらのセットを用意して、それを材料と共に消費して行うもの。その錬金に関する消耗品が必要なくなる、といったものだ。
【素材錬金・Ⅰ】前回善戦出来たMVP。普通は【素材】→【加工品】+【消耗品】+【追加素材】の手順が必要なのだが、素材からダイレクトに錬金できるようになる。
まぁー……なんだ。ほんと、チートやで……。
「まっ白さん、改めて思うのですがこの【錬金術師】というジョブはですね、生産職してる人にとってズルみたいなもんです。絶対に口外しないように」
「そう、なんですかね……わかりました」
釘を刺す。こんなん街中でほいほいやってたら低レベルの俺達じゃ、下手するとチート行為疑われて通報案件だ。まぁ合ってるけど。
ということで、錬金しよう、そうしよう。今は街道から少し逸れたセーフゾーンギリギリの位置で話しているし、見られる心配もないでしょ。
「じゃあ先ずは……【一角兎の皮】と……あら?」
「どうした?」
「これ……あー、なるほどー」
どしたのって!ふんふんと一人でウィンドウと睨めっこしながら納得する御薬袋さん。教えてよー。
「このスキル、何でも錬金できるわけじゃないみたいです。組み合わせを満たした物だけ、合わせられるという感じでしょうか。それ以外はランダムで出るようです……えー、かなり難しい、です」
ふんふん……わからん。え、どういうこと?
俺が微妙なしかめっ面をしていると、補足して説明してくれる。自分もこういうゲーム始めたばっかりで大変だろうに、有難いねぇ。
「つまり……道中拾っていた【石】+【石】だと結果は10通りくらいになります。その中からレア度毎に抽選で、といった感じです。で、【石】+【一角兎の皮】だと【????】と表記されていまして、レア度毎の抽選率だけ表示されています」
「成程な、つまり決められた組み合わせはある程度結果を絞れるし、それ以外は完全ランダムでって感じ、かなー」
十分すごいな、ちょっとややこしい分可能性は無限大ってことかな。最悪粘ればその辺のしょぼい素材でもレアなのが出る可能性もあるわけだ。まぁそのランダムってのが一体このWAO内のどの程度までのアイテムからなのかとかはまた、色々あるんだろうなぁ。
まぁルールはある程度理解したし、物は試しにやってみようだ。先ずは【石】+【石】。
「出来ました、【鉄鉱石】ですね。別の素材になる場合もあるんですねー」
「加工品だけじゃないんだな……それにしても得したね、鉱石系はこの辺あんまないからなぁ」
そう、序盤のこの【ミアンの森】では鉱石素材は殆どドロップしない。稀に石砕いたりしたら入ってたりはするけど、一々そんな低確率ドロップの大したことない素材の為に時間使うプレイヤーの方が珍しい。ただ、鉱石系は装備に使えたりするから必要っちゃあ必要なんだよ。
「あ、この鉄鉱石は皮と合わせられますよ」
「お、行こう」
さっきもそうだったが、錬金開始すると御薬袋さんの両手がパァっと輝く。これちょっと目立つな……やはり街中ではNGか?
さてパァっとして出てきたのは……
「おぉ、【一角兎のレザーアーマー】です。レア度は同じコモンですが、今の初心者用よりはちょっとマシですよ」
「良かったじゃん、しっかり着ときなよ?このゲーム自動で装備はされないしね」
そう、ぬか喜びしてステータス変わってなくて爆死、なんてしょっちゅうやった。やー、ゲームごとに装備自動だったり手動だったりするからさ、色んなゲームプレイしてるとやっちゃうよね。
さて次々ー、と道中拾っていた素材を並べていると、エルフお姉さんがやや上目遣いでこっちを向いているのに気づく。え、可愛い。
「お、おふ……な、何?どうしたの?」
やべ、変な息でた。
「い、いや……ウサギさん倒したのははなださんですし、この鎧貰っちゃってもいいのかなーっと」
……ええ子やぁ!!こないなええ子初めてえぁ!!……いかんいかん、興奮しすぎると書庫の羊猫が憑依しやがる。そんな気を使わなくたって……ええんやで。
「ええんやで……じゃなくて!それは使ってよ、まだこのゲームも慣れてないだろうし、ちょっとでも防御力高い方が安心でしょ」
「……はい、ありがとうございます。じゃあまた皮が手に入ったら、次は使ってくださいね」
皮は1枚しかドロップしなかったからなぁ。それにつけても、たまに執念深くはなるけど、近年稀にみるええ子やぁ……油断するとすぐ顔に出るからな、気を引き締めろ、俺。
そして、残る素材で言うと……
「【一角兎の角】と【魔物の肉(兎)】が残ってますね。どうしましょう、今は両方どの素材と組み合わせてもランダムになっちゃいますけど」
「それなら……練習がてら頑張ってみる?戦闘」
俺が提案するとさっきまでよりかは小慣れてきてくれたのか、考え込んでくれる。さっきまでは即決で拒否だったろうからね、進歩したなぁ。
正直、このままだと俺だけ戦闘スキルがポンポン上がっていって御薬袋さんを置いてけぼりにしてしまう。このゲームにおいてはキャラクターやスキルのレベルは敵を倒した際の経験値だけでなく、御薬袋さんのように生産スキルを使ったり、商売をしたりなんかでも上がっていく。
が、その行動によってどのスキルにどんな経験値が入るかは変わってくる。まぁ生産スキルだけでもよかろうなんだけど、もし別々に行動しだした時に苦労しないようにはしといてあげたいなぁ。
しばらく森の方見て不安そうな表情になったり、俺の方見て考えたり、繰り返してようやく決心した顔で頷いてくれた。よっしゃああ。
「私、頑張ってみます!……もちろん、やばくなったら……」
「任せてよ、必ず先に肉壁になる!」
「……そこは【君は僕が守る!】とかじゃないんですね」
え?なんか言った?気にしなーい。だってそんな、ねぇ。いくらゲーム内だとはいえ、めっちゃアドレナリン出てる時でもなきゃ、そんな歯の浮くようなセリフはちょっと……。
心なしかため息をついているように見える御薬袋さんを連れて、ウサギさんを探しに少し奥へと進む眼帯厨二美少女と、超絶エルフ姉さま。よーし、お姉さま、頑張りますわよっと!
◆
「えやぁぁぁ!」
ずばんと脳天に重たい一撃。御薬袋さんは色々インベントリに入っている初心者用の武器の中から、メイスを選んでいた。1メートルくらいの金属の柄の先に、拳より少し大きいくらいの鉄塊が付いた初心者用メイスだ。
武器はどれにするかってことになり、色々試してみた結果、一番扱いやすかったのがこれらしい。確かにメイスはとりあえずぶん殴るだけで強いので、特別な技術なんかは必要ないし案外最適解ともいえる。
しばらく二人で何頭かホーンラビットを狩っていたのだが、ようやく動きに慣れた御薬袋さんが初めて、最初から最後まで一人で終わらせたのだった。兎さんはさっきの一撃で虹になった……撲殺天使の誕生だね。
「やりました!やりましたよ、識守くん!」
「おー、見てた見てた!やったじゃん」
本名になってるけど、まぁ周り人居ないし喜んでるからいいや。自らが兎のようにぴょんぴょん跳ねながら、ドロップ品を回収するエルフお姉さんかわいい。
やがて回収し終わったのか足早に向かってくる。
「ありがとうございます!私やりましたよ」
きゃーとくっついてくるけど、だからこれ中身俺だからね……役得だから言わないけど。よしよしとなだめつつ、二人が狩った成果を確認する……ほうほう、結構集まったな。
特にホーンラビットのレアドロップ、【一角兎のコア】が取れたのは多分でかい。御薬袋さんの錬金が無くとも、単純に鍛冶屋とかで加工してもらうだけで追加効果持った装備ができるはずだ。
「どうしますか?またちょっと見えないところで錬金します?」
「いや……うーん、今で大体こっち時間で5.6時間、現実では大体2時間くらい経ってるんだよね。一回ログアウトして休憩しよっか、錬金はその後街でしよう」
「そうですね、私も入社早々お漏らしはいやですし」
ゲーム内は現実の3倍の速度で時間が経過する。辺りも最初は日中だったが、今は夕暮れを越してやや暗くなってきた。御薬袋さんの言う通り、お漏らし回避するためにも一旦ログアウトすることに。まぁ本気でやばくなったらアラームが鳴るから冗談なんだけどね。
ログアウトする際の注意事項だが、基本的にはアバターはその場所で留まる。つまり森のど真ん中なんかでした日には、気づいたら街に死に戻ってる、なんて事もざらである。
回避するためには街中や、さっきの門の周りみたいなセーフゾーン、後は無理矢理セーフゾーンを作れる【キャンプキット】なんかを用意すれば安全にログアウト出来る。今回は用意がないので近いし歩いて帰るのだ。
てくてくと、なるべく敵とエンカウントしないように整備されている道の方を選んで歩く。いやーしかし、ちょっと戦闘してみて痛感したけれども、眼帯やべーな。ホーンラビットだったから一直線にしか来ないのが分かったうえで対処できたが、普通のモンスターになるときついぞ。なんかこう……眼帯はしてるけど視野は確保できるみたいなの出来ないかな。
今度アリさんにでも頼んでみようか……いやしかし、また根掘り葉掘りされちゃうか……いやでもこのままはちょっとな。
「……sん!はなださん、つきましたよー」
「っおお、ごめん!ぼーっとしてた」
「顔見たらわかりますよ、厨二美少女が顎さすりながらぶつぶつ言ってましたし」
それはやばいじゃん。暗黒神とかと交信しちゃってるじゃん。
いつの間にか着いていた門をくぐり、再びアタノール帝国城下町へ帰還。辺りは暗くなってきたとはいえ、帝国内は殆ど地下に埋まってるようなもんだからあまり関係ない。この世界に電力は無く、魔力で灯した灯りを街灯にしている。
この地点でログアウトしてもさして問題はないのだが、この後錬金したり素材やらなんやらを整理したりすることも考えると、やはり人目がない場所がいい。ということで、二人で宿屋に向かうことにしている。お金はさっきの兎狩りで少し稼いだから、ホームタウンの宿屋に泊まるくらいなら十分だ。
高級宿なんかになるともっと城寄りの貴族街に近い場所になるのだが、安宿は例のプレイヤーマーケットの内外にある。
そこまで来ると暗くなってきていても賑わいは変わらずで、美味しそうな屋台の匂いに釣られそうにもなるが一旦置いといて、先ずはチェックイン。なんとなく、女性と二人でっていうのはあまり経験がなく気恥ずかしかったのだが、御薬袋さんの方はさして気にもせずあっという間に部屋に着いてしまった。
部屋の前で緊張して棒立ちしていると、御薬袋さんが不思議そうに屈んで話しかけてくる。……っく、下からはダメ!破壊力が!
「どうしました?早く入りましょうよ」
「う、ウン。そうだね、ゴメンネ」
「なんですか、また考え事ですか?」
や、まぁ考え事は考え事だけれども、言うのも恥ずかしいのでバーンとドアを開けて入室。宿自体も初期の安宿なので内装も至ってシンプル。清潔なシーツが敷かれてはいるが固そうなベッドが二つと、簡素なクローゼット、マーケットの方に面していて賑やかさが伝わってくる大きめの窓。ごく普通な部屋だね、うん。
多くのゲームがこういった宿や、自室でログアウトするもんで……実家のような安心感を感じる、ただいま。
隣ではタタっとベッドに走っていった御薬袋さんが、飛び込んでみたものの思わぬベッドの硬さにむすっとしている。
「……えぇー、普通もっともっふもふなのでは?」
「ゲームにもよるけど、こういうゲームだと大抵こうだよ。もっと高級な宿ならお望みの物があるか、な?」
わからん、別に何でもよかったからわざわざ高いところに行こうと思った試しがない。まぁ確かに高級宿は高級宿でそれなりの特典はあるのかも知れないけど、だってログアウトしてる間は意識ないしね。
まぁ特に他に何がある部屋というわけではないので、ベッドで横たわりログアウトの準備をする。ちなみに立ったままだろうが飛んでようが、ログアウトは可能だ。但し、帰ってきた際は同じ姿勢からのスタートなので転倒や事故が多い、お勧めはしない。
隣のベッドで御薬袋さんも横になり、こちらに話しかけてくる。いやほんと、今更でもないっていうか、なんかもうドキドキだね。これからログアウトする度、こんなんでいいのか。
「じゃあ!次は、その高級宿ですね!」
「そ、その内ね」
なんかナチュラルに一緒に泊まることになってんな……ま、まぁペアだし、俺のアバター厨二だけど女子だから問題ないよね。そうだよね。
御薬袋さんはその内ですかー、とか言いながら早速ログアウトしていった。苦手な人からしたら結構ホラーなんだけど、ログアウトすると一気にそのキャラクターの時間が止まる。姿勢や呼吸なんかもそのままになるから、すごい違和感を感じる……まぁその場で意識を失うとかじゃないだけましか。
グダグダ言ってないで俺も続いてログアウト、徐々に視界が真っ白になっていくー、あー……。
2022年、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。




