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刺青、ウサギ……そして高まる厨二感②

「成程ね、昨日のワールドアナウンスから解放された新しいモンスター、【五使】とやらにたまたま町から出たところで遭遇し、やられたらこうなったと」


ちょっとだけ嘘を混ぜる、それが上手い噓の付き方だって偉い人が言ってた。


「そう……で、効果は?NPCの好感度下がるので合ってるんでしょう?それに……それだけじゃないわよね。仮にもワールドアナウンスが鳴るくらいのモンスターですもの」


「全員好感度が下がるのか、特定のNPCだけなのかはわからないけど町の服飾店では目の敵にされて追い出された。あと、毎日所持金が半減する」


「あら、じゃあ思ったてた以上にお金ないのね」


御可哀そうなこと、みたいな視線を向けられる。いや実際にこれは大分ハンデなんだけどね。横で話を聞いてる御薬袋さんは空気を読んでるのか、難しい話題はこっちに全振りなのか、一切会話には入ってこずにいる。


「まぁそういうこと。あのモンスターとの遭遇条件とかはわからないから。俺達もたまたま出会っただけだし」


「ふーん……まぁ、いいけどぉ。お連れさんが同じ刺青がないのは?」


急に話を振られてびくっと体を震わす御薬袋さん、いや寝てたのかよ!「ふえ?」とか言いながらきょろきょろしているので助け舟を出す。


「いや、彼女とはそのモンスターにやられてから合流したから。ただ単にやられてないだけ」


「あらそう……こんなもんかしらねー。じゃあー、約束通りお二人にこれはプレゼントよ」


ポンポンと頭にアナウンスが流れ込む。店員さんからのフレンド依頼のメッセージだ。ネームは【アリアーリー】。同時に、どうしたらいいのかわからなそうな視線を隣から感じる。きっとウィンドウの出し方がわからないんだね、あるある。


「スキルとかと同じでイメージだけでもウィンドウは出せるんだけど、最初は【フレンド】って口に出してみて」


「【フレンド】。お、出ましたよ!」


「後はフレンドの登録、の項目をチェックすればオッケーだよ」


じーっとやりとりを見つめてくるアリアーリーさん、もといアリさんと呼ぼう。最初こそなんか妖艶さを感じていたが、今はちょっと底知れぬ怖さが……なんだ、なんでそんなに見つめるんだよぉ。


「お連れさん、えーとまっ白ちろすけちゃん。は、このゲーム初めてなの?」


「あ、はい」


「そう、じゃあこれから色々手助けしてあげるし、仲良くしてね。……ところで、二人はどうやってフレンドになったの?」


い、痛いところを突いてきたー!そう、俺たちは他の参加者も含めて、束内さん達の手心により、全員自動でフレンド登録されるように設定されていた。しまった、なんか初心者あるある過ぎて、普通に教えちゃったけど完全に墓穴。


「え?初めから入ってましたけど?」


やめてー、もう話さないでー……さっきの呪胎の話の時より明らかに楽しそうな顔に変わるアリさん。うわー、絶対何かしら勘繰られている。


流石に纏わりつく目線に御薬袋さんもちょっと怪しいと思い始めたのか、更にこっちに視線で問いかけてくるが、時すでに遅し……くぅぅ。


「いや、実は俺達リアルでも知り合いで、合流場所決めといて最初の登録とかは全部俺がしてあげたってわけでー」


「ウィンドウだせないのに?」


「え、そ、そうだっけ?まっ白さん?」


「え……あ、【フレンド】!こうですよね」


こうなったらしらを切れだ、さっきのやり取りなんてなかったんだ、多分。我ながらもうちょっと何かなかったかと言いたくなるような言い訳だが、思いつかないもんはしょうがない。


アリさんもこれにはため息を吐くしかなかったようだ。


「まぁ、何か事情があるんでしょうね。これ以上はビギナーへの手助けとして聞かないことにするわ。それより、折角プレゼントしたんだから二人とも、早く着けてみなさいな」


そう、このプレゼントを贈る為にフレンド登録が必須だったのだ。小パニックで忘れてたが、折角のネゴシエイトの報酬を早速装備する。


おー、やっぱり片目はちゃんと見えなくなるんだな。これはちょっと考え物だな……目立ちはしないけど戦闘面とかでは大分ハンデになるな。それと特殊効果も試してみる。


アイテムを受け取った際の説明欄に【導きの糸】というスキルが付属されていたので、イメージする。すると、今いる場所の足元から一直線に店の出口まで、細長い発光した糸のようなものが見えるようになった。なるほどなー、二人には見えないようでリアクションはない。


御薬袋さんはというと、隣で着けたマントを翻すようにくるくる回ったり、露出狂よろしくばさーっと開いてみたりして遊んでいる。そっかー、こういうゲーム慣れてないと現実世界ではこんなマントとか着けないもんなぁ。


「これが、マント!……どうです、はなださん、似合ってますか?」


「お、おぉ、似合ってる似合ってる」


ちょっとテンションが上がっているからかいつもより圧がすごい。まぁこれだけ喜んでもらえたなら付き合わせたかいもあったかな。


「二人とも、似合ってるわよ。まっ白ちゃんはエルフ感増したし。はなだちゃんは……より純粋な厨感が出たわね」


おい、ちょっと優しい目をするんじゃない!もう開き直って痛いキャラで行こうと思ってたのに、変に慰められると意思が揺らぐ揺らぐ……えー、俺ずっと厨二すんのか。


こうなってくると俺の当面の目標は呪胎をどうにか出来ないか調べること、かなぁ。


とりあえず、これ以上長居しても今度は減る物しかないため出発することにする。とりあえず先ずは御薬袋さんに何か御馳走しないとだな。


「じゃあ俺達そろそろ行きますね。まぁなんか足元見られたような気もするけど、助かった。ありがとう」


「ありがとうございました、アリさん」


俺と一緒に御薬袋さんもぺこっと頭を下げる、律儀。というかなんか普通に話してたけど、もう男ってばれてるよね。


「いいわよ、面白かったしね。また何かあったら来てね、初心者用から上級者用まで、色々揃えているし。なんだったら面白い話と交換してあげるわ」


フレンドにもなったわけだし、多分贔屓にはすることになるだろう。挨拶もほどほどに店を出る。


約束はしっかり覚えていたようで、店から出るなり「何食べますかー?」とずんずん出店の方に進む御薬袋さん。楽しんでいるようで何よりだ!




その森は日中だというのにあまり日も差し込まず、時折森の奥から誰かの呻き声やら何かの鳴き声なんかが木霊する、いかにもなんか出ますよ感を醸し出している【アタノール帝国】近くの【ミアンの森】。アタノール帝国は世界樹の真下にあるという設定だが何も世界樹としか繋がっていないわけじゃない。


その左右は森に囲まれ、北には火山の地下洞窟、南には大きな峡谷と非常にラインナップ豊かな環境に囲まれている……その中でも西側が初心者用マップのミアンの森だ。俺たちはあの後レベル上げや、御薬袋さんをゲームに慣れさせるために訪れていたが……


「こ、怖すぎですよ~はなださぁん」


この調子だ。まだ門から出て2,30歩ほどしか歩いていない。おかげで割と近くに門番NPCの姿も見える。確かに、ちょい暗めではあるかもだが……ちらほらと周りにも他のプレイヤーもいるし、なんだったら賑やかさすら感じるんだが、相当怖がりなようでずっと俺の腰辺りにしがみ付いてのろのろとした歩みになっている。


役得のような、ちょっとうっとおしいような葛藤を覚えるが、なんせまだ俺たちは初期ステータスなわけだし、初心者のレベリング出来そうな場所もここ以外は厳しい。頑張ってくれ、御薬袋さん!


「大丈夫だってー、ほら。周りいっぱいプレイヤーいるよ?」


「います、いますけど……もっと初心者的な、こう。すっごいひろーい原っぱで、弱そうなスライムとかがいるようなマップはー……」」


あるよ。だがしかし。


「俺たちのくじ運が無かったのさ、【スガナダ】や【ミューゼス】の初期マップはそんな感じだなぁ」


「そんな……今からでもそっちへ行けませんかね」


のろのろのろのろ、嫌々ながらも歩きながらなんとか回避する策を模索する御薬袋さん。なんかちょっと可愛く見えてきたが、甲斐性なしでごめんよ……


「無理だ、お金がない!」


そう、違う国や領土間で移動する際は歩きだろうが転移だろうが料金、というか通行税がかかる。もちろん転移は一瞬で移動できるだけあって高額だ。徒歩なら少し稼げば行けそうな気もするが、どちらにせよ稼ぐ=モンスターを倒すか採取をする、クエストをこなす、となる。ならばこのマップ以外ないのだ、すまぬ。


ちなみに最初に集まった世界樹麓の街には初回のみ無料で行ける。そして帰りの移動費用は束内さん達から頂いたので、こうしてホームタウンに皆戻っている訳だ。


いやしかし、わかるんだ。苦手なものは本当に見るのも聞くのも辛いのは。俺も昆虫が大の苦手で、例えゲームの中であっても昆虫モンスターだけは忌避している。それに突っ込めと言われれば幾ら上司から言われたとしても絶対無理だ、ましてや俺上司でもないし。


「よっし、まっ白さん、こうしよう!ほんとは戦闘の仕方を教えながらお金を稼ぐつもりだったんだけど、この際ね。俺が、戦闘する係。まっ白さんは素材回収して錬金していく係、ね、決定!これなら怖くなーい、大丈夫」


「……いいんですか?」


「仕方なーい、大丈夫さ。そのかわり出来るだけ遠くからでもいいから見て、どんな感じで戦闘するのか考えといてね」


話が進まんしね、なんかを成すにしてもまずは基礎からだ。身銭もなけりゃあレベルも低いでは話にならない。ここは非効率ではあるけど、リモート見学、みたいな方向でいこう。


「あ、ありがとうございます、ごめんなさい」


「……ほんと、大丈夫だから。俺も虫とか苦手だからわかるし、むしろ俺の方が朝はごめんなさい、だよ」


しょんぼりしないでおくれ……ゲームは楽しんでなんぼなんだ、落ち込んでたら意味ないぜ。


と、いうわけでフォーメーション雁行陣、だ。御薬袋さんはめっちゃ離れて着いて来て、門の周囲にあるセーフゾーンギリギリで待機。俺は適当に見える範囲で動き回って戦闘する、以上だ。


あ、これ雁行陣なってねえ。ただの斥候。


セーフゾーン近くということもあって敵との遭遇率はそんなに高くないが、その分というか、普通にこの辺でも最弱の部類のモンスターが多いだろう。御薬袋さんに分かりやすいよう立ち回るのもやり易いってもんだ。


ちなみに、このゲーム一応チャット機能もある。チャット中は眼前にチャット画面が出るのだが、まぁそりゃあほぼ視界は埋まる。戦闘中は基本使えないが今回はこれで実践する行動を簡単に伝えて見てもらう。多少リスクはあるが大丈夫だろう、頑張れ俺。


しばらくがっさがっさ茂みを漁ったりしていると、奥から光る赤い眼光が見える。あれは【ホーンラビット】かな、まぁ野兎の気持ち大きいやつに角が生えたようなモンスターだ。チャット画面をイメージして呼び出し、これまたイメージして入力する。


【ウサギのモンスター発見。基本1、音を立てない】


音立てちゃうと逃げられたり、折角の先制攻撃のチャンスを逃しちゃうからね。チャットも音声入力出来るけど今回はイメージ入力で。ホーンラビットは茂みの奥で鼻をひくひくさせながらのんびり歩いている。折角の先制攻撃チャンスなのだが、今回は御薬袋さんに見える位置で戦わないといけないし、逃げないのを信じてあえて呼び寄せてみる。


【じゃあ基本2、回避いきます。怖くないから、相手を良く見て、目を逸らさないのがコツ】


「おーい、こっちだぞ!」


パンパン!と手を叩きながら叫ぶと、一瞬耳をぴーんと立て、こちらに向いたホーンラビットと目が合う。硬直……来るっ!


なんだろう、こう、向かってくる前って筋肉がむくっと膨れる気がする?気のせいかな?兎に角、ウサギはこちらに一直線に来てくれた。茂みから自慢の角をせり出して突撃してくるのを後ろに跳び退いて躱す。


これでちょっと開けている街道に出る。見通しもいいし、起伏も少ないから変なミスも少なそうだ。俺が躱したのを確認したウサギは、再び攻撃せんとこちらの様子を伺いながらじりじりと間合いを詰めてきている。


そう、これこそがこの【ホーンラビット】最大の弱点である。奴らは角がご立派で、そこに全ての体重をかけて突進してきているのだが、それゆえ最中は視線は前方にない。即ち、敵を見失うわ、一直線でしか攻撃できないわと欠陥だらけなのである。ちょいと戦闘慣れしてきたプレイヤーならまず遅れを取ることはない。


しばらくは【攻撃前モーション】、【突進】、【回避】を繰り返す。なんか闘牛士ってこんな気分なのかな?ちょっと相手は小ぶりだけど、殺意では負けてないと思うね。


5分ほど避けていると御薬袋さんからチャットが入る。大体の要領はわかってくれたみたいだ。では次。


【基本3、攻撃。これは武器の種類にもよるけど、基本は回避と一緒、相手から目を逸らさない。後、躊躇わないこと】


もちろん、流石に戦闘中にチャット確認しただけあって一発突進が掠めていく。初期装備だし、まぁあんまり余裕こいてると後3.4発でデスっちゃうかな。視界を戻し、貰った【雪の剣】を構える。


中世のファルシオンくらいの刀身、片刃でちょうど片手で持てるくらいの重量感が手に馴染みやすい。別にこういう剣は両手でも片手でも好きにすればいいと思うんだけど、前のアカウントの時はよく転倒したりしていたので片手を受け身代わりに空ける装備が好きだったな。


今回もとりあえず片手はフリーで、【パパラッチ】のスキルが【AGI】に補正かかっているからか割とフットワークが軽い。この分だとうっかりでもしなければ事故は無さそうなんだよね。ただ、今は眼帯をして片方視界が悪いのが傷だ、人居ない時は取るかなー。


さてまぁ、ここからは反撃開始だぜ、ウサギさん。俺がしっかり剣を構えたからか、少し警戒を強めて先程までより慎重ににじり寄って来るようになった。しかし慎重になろうがモーションはバレバレなわけで……。


結局真っすぐ突進してきたウサギを少し真横に跳んで回避、ウサギが止まる地点を目指してすぐに飛び掛かる。着地して振り向いた奴が見たのは、大きく振りかぶった白い剣。頸部から股下辺りにかけて一筋、ダメージモーションが入る。しばらくよろけた後にそのまま虹色のエフェクトになり砕け散る。【ホーンラビット】討伐完了!


普通、初期装備だと2.3発入れないと狩れないんだけど、雪の剣が割と高めの攻撃力だったのか、クリティカルでも出たのか今回は一撃だった……多分相当キマってたに違いないな。


なんにせよ、初戦闘は無事に大勝利、だ。

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