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こんな家族の姿があってもいいんじゃない?  作者: アーエル
第三章:慈善事業『白い花の箱』

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35-2 曇らされた確認先


 港の施療院から、産後の女性が微熱を出したという報告が届いた。急報ではなく、通常報告としてである。責任者の文面は落ち着いており、院内で対応中、今のところ本邸への支援要請は不要と書かれていた。


 だが薬師からは、同じ朝に別の知らせが来ていた。港の施療院で大口の往診依頼があるかもしれないため、薬の準備をしている。正式な依頼はまだないが、必要であればすぐ向かえる、と。


 さらに布商人からは、施療院は布が十分に足りていると聞いたため追加納品は控えている、という返答が届いた。薪商人は逆に、湯が足りなくなるかもしれないと聞いて備えているが、正式依頼がないため動けないと言う。


 セシリアは四通の手紙を机に並べた。施療院は支援不要。薬師は備えている。布商人は待っている。薪商人は迷っている。同じ場所を巡る情報なのに、誰も同じ景色を見ていない。


「確認先が、曇らされています」


 声に出した瞬間、セシリアは自分の背筋が冷えるのを感じた。これまでは、本邸へ届く知らせを疑えばよかった。道を確認し、紙質を見て、同報の有無を調べればよかった。けれど今回は、確認する相手たちがそれぞれ違う前提を持たされている。


「二方向で確認するだけでは足りません。二方向が、それぞれ何を誰から聞いたのかまで見なければ」


 エリアスは無言で頷き、家令へ港への追加確認を命じた。薬師には正式依頼の有無だけでなく、誰から事前情報を聞いたのかを尋ねること。布商人と薪商人にも、同じく情報の出所を問うこと。施療院には、微熱の状況と、急報にしなかった理由を確認すること。


 返答が揃う頃には、夕方になっていた。薬師は商家の使いから聞いたと言い、布商人は施療院の下働きの知人だと名乗る男から聞いたと言い、薪商人は侯爵家の事情に詳しい者から忠告されたと言った。施療院の責任者は、侯爵家へ余計な急報を出すと管理能力を疑われると聞いたため、通常報告に留めたと答えた。


 すべての言葉に共通していたのは、誰も正式な通達を見ていないということだった。皆、誰かの口から聞いた親切そうな話を、自分の判断として受け取っていた。


「これは、確認先を増やすだけでは防げません」


 セシリアは新しい報告書を開いた。題は、確認先攪乱に関する記録。そこには、情報の内容だけでなく、誰が誰から何を聞いたのかを記す欄を作った。


『リディア様。確認先そのものが曇らされました。薬師、商人、施設責任者はそれぞれ違う情報を受け取り、誰も嘘をついたつもりはありませんでした。けれど、三方向の確認は一致しませんでした』


『今後は、確認結果だけでなく、情報の出所を確認する必要があります。何を知っているかではなく、誰から聞いたのか。正式な通達か、口頭の忠告か。そこまで分けなければ、確認そのものが罠になります』


 手紙を書き終えたセシリアは、ひどく疲れていた。道を守れば、道を選ばされる。急報を疑えば、確認先を曇らされる。守りを厚くするたび、相手はその外側へ回り込んでくる。


 けれど、以前のセシリアなら、そこで立ち尽くしていただろう。今は違う。分からないなら、分からないと記録する。足りないなら、足りないと助けを求める。曇ったなら、曇った場所を探す。


 一方、ヴァレリー伯爵は報告を聞き、静かに笑った。三方向の確認は揺れた。だが、まだ崩れてはいない。セシリアは情報の出所を見始めている。


「ならば次は、出所そのものを整えてやればよい。偽の口頭ではなく、正式に見える紙で」


 彼は側近へ、役所の書式と侯爵家の通達文を集めるよう命じた。親切そうな声が通じないなら、次は整った紙を使えばいい。


 白い花の箱は、また一つ守りを増やそうとしている。けれど王都の陰では、偽りが今度は声ではなく、印と書式をまとおうとしていた。


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