第7話
「ほら、船長。そんな話をしている内に乾ドックに着きましたよ。」
「……私は小舟にでも乗っていれば良いか?」
「いえ、フォッサ提督に因ればこのドックは全体が海面に浮いているそうですよ。」
「え、離れ小島か人工島じゃないのか?」
「いえ、海面に浮いてる巨大な船だそうですよ。」
「……変な所に金を掛け過ぎじゃないのか。」
「船長の為に、国民達が自発的に作り始めたそうですよ。……国家からの建造依頼が来る前に。」
「もっとやばいだろ。」
何がそこまで彼らを本気にさせるのか、本気で分かっていないウィスが驚くのも構わず、船はドックを目指して航行する。山を刳り貫いたようなドックを隠している鋼鉄製の隔壁が開いて中が露わになる。
この国のように、ここまで頑丈な鋼鉄製の隔壁というのは珍しい。魔法がそれなりに開発され、こんなに巨大な建造物を金属を用いて建設出来るようになってからそれなりに経つが……それでも、未だ海水や海塩による侵食被害というのはまともな対抗策がない。
その為、こんな風に鋼鉄製の建造物を建てたとしてもある程度錆びてきたら表面を研いで削ぎ落とし、必要とあらば完全に取り外して新しい鋼鉄製の隔壁を嵌め直す必要がある。この作業とそれに必要な修繕費や運用費を気前良く出し、「後で困らないように」で割り切れない国が多い。
船が未だに木造や魔物の素材で造られるのも……この金属達を上手く扱いきれていないから。
誰もが思っているのだ、この金属達を使って軍港や港のように堅牢にすれば船が航海中に海賊に襲われても簡単に沈まず、海洋生物に襲われてもしばらくは耐えられる事ぐらい。それでもそうしないのは――その重さと錆への対策がないから。
魔法も、攻撃ばかりが開発されて防衛や民間系の魔法はそんなに多くない。結界なんて、よく話には出てくるが成功させた偉人もまだ居ないらしいからな。……嘆かわしいこった。
だが、不思議な事に海の魔物達は魔法を使う。空を飛ぶ魔法も、翼がないのに空を飛ぶ事も出来る。亀型の魔物なんて、他の文明を持つ知的生命体達がどれだけ躍起になっても構造すら理解出来ない結界魔法を当たり前のように使う。
極め付けには、学者達が言うにはこの世界はかつて、大魔導世界だったらしい。人は自由に空を飛び、宇宙にすら行けたという。幽霊船の類であれば現代でも多少は海中を潜る事は出来ても……かつての大魔導世界のように深海を探索するような事は出来なかった。
なのに、魔物達はそれが出来ている。
もっと面白い事に、その魔物達の発生源はこの大海賊時代が始まって数十世紀が経つというのに未だ分かっていない。魔物が湧く泉か、それとも魔物が果実のように実る巨大樹でもあるのか。まだ、誰も見つけられていない。
世界の探索は学者と海賊の義務だ。同時に、知的生命体達がより先の未来へ行く為には避けられない道だ。
まぁ、私のように答えへ手を伸ばし過ぎて焼かれてしまった者も居るがな。
「お帰りなさい、《夜煌の鎮魂歌》。仮にも海軍基地近くの港町で海賊の歌など……と説教したい所ではありますが、元気そうで安心しましたよ。」
「フォッサ提督か。まぁ、大目に見てくれ。彼らも折角海賊なんて物珍しいもんが来てんのに存在無視決め込まれんのは可哀想だろ?」
「えぇ、見ておりました。……全く。貴方がそんな人格者だからこそ、我々海軍は付き合い方に困るんですよ、ノクトゥルヌス船長。」
「お褒めに預かり光栄だ、フォッサ提督殿。――野郎共、錨を下ろせ!! しっかり結べ、じゃねぇと水が引いた時に中身ひっくり返るぞ!!」
「「「はい、船長!!」」」
これだけ言っておけば大丈夫だろう。
本来であれば接舷攻撃で使う事の多いロープを掴んで少し強度を確認した後、一気にそれを命綱に船から足場へと飛び降りる。その視界の端で隔壁が閉じられてあちこちのランタンに海兵達によって明かりが灯されていく。
ウィスも、大丈夫だと言われたので飛び降りたが……正直、不安はあった。しかし、完全に石工の類で出来ているであろう足場を幾ら踏んでも、唯一船と繋がっているロープを手放してみても呪いの副作用は作動しない。
その脇で、同じようにグラディウスが降りてくるのも気にならずに。
……ここが陸じゃねぇってのは本当みたいだな。




