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ゆめつながり  作者: 秋和翔
現実
8/14

8.覚悟

 エレベーターに乗り1のボタンを押す。しかしエレベーターは4階で一度足を止める。寄り道なんて生意気なやつだ。なんてまたつまらないことを思う。何かを擬人化してしまうのがすっかり癖になってしまった。

 エレベーターに入ってきた人物は知り合いだった。知り合いというより元カノか。元カノというより幼馴染みか。

「ひ、久しぶり。えっと……、母さんの葬式以来…だっけ。元気にしてた」僕は幼馴染みの彼女に挨拶をした。彼女は僕からの挨拶に驚いたようだった。それはそうだろう。昔だって僕から話しかけたり挨拶するなんて滅多になかったし、別れて以来はろくに話しもしていない。最後に会った母の葬式だって、話しかけるどころか話しかけてくるなと睨んでしまった記憶がある。

 でも彼女はそんな表情から一転して笑顔で挨拶を返してきた。僕はそんな彼女を尊敬した。それが昔のような笑顔と挨拶だったから。

 だけど、その先が続かなった。気まずい空気がエレベーター内に充満しそうになる。僕はまた珍しく自分から口を開いていた。

「そう言えば中学の同窓会来てなかったね。仕事とか忙しいの」

「えっ、うん。仕事は順調だよ。それよりも同窓会行ったんだ。なんか…いいね」

「あ、ありがとう。これから仕事…?スーツじゃないけど…」

「いや、ちょっとね…。仕事だけじゃなくてプライベートも充実しててね。その…これからデートなんだ」

 彼女はどこか気まずそうに言った。ふと今日の夢のことを思い出す。彼女の想いが他の人に移ってしまっただけのこと。でもそれをさみしいなんて思ってしまう僕はきっと自分勝手だ。

「そうなんだ。いいね。その…幸せだろうけど、もっと幸せにね」なんて言えるようになったのはいつ頃からだろう。僕もだいぶ成長した…のかもしれない。

「ありがと」幼馴染みの彼女はそう言うと、こちらまで照らしてくれるような笑顔をした。僕はあの頃、目の前の彼女をこんな表情をさせたことがあるのだろうか。パッとその記憶が浮かんでこない時点で答えは出ているような気がした。万が一、彼女が今と同じような表情をしていたとしても、あの頃の僕は彼女のことを見ていなかったら、その表情は記憶にも残っていないだろう。

 エレベーターが1階に到着して扉が開く。彼女はじゃあねと言ってエレベーターから降りた。

「待って」僕は咄嗟にそう言っていた。そして少し話がしたいとつづけた僕に幼馴染みの彼女は驚いた顔と少し困った顔を混ぜたような表情で腕時計を見た。今からデートだとさっき言っていたじゃないか。それに僕はもっと幸せにねと返したじゃないか。まるでそれを邪魔するようなことをしてどうする。僕は安易に引き止めてしまったことを後悔した。

「ごめんね」僕はそう言ってエレベーターの閉のボタンを押す。続いて五のボタンを。エレベーターの扉はゆっくりと閉じていく。だが、扉は完全に閉まることはなく、逆に開いた。

「ほんとはっきりしないんだから」

そう言いながら幼馴染みの彼女は呆れた笑顔で、上のボタンを押していた。


 僕と幼馴染みの彼女は喫茶店にいた。あの後、幼馴染みの彼女は彼氏さんに電話をして、僕との時間を1時間ほど作ってくれた。幼馴染みの彼女は嘘で誤魔化すことをせず、僕のことを素直に話していた。彼氏さんはそれでもOKをだしてくれたのだから、きっと彼女との愛に自信がある優しい人なのだろう。僕は見ず知らずの彼に感謝した。

 僕はホットコーヒーを飲みながら、同窓会のあった日から今日までのことまでのことをかいつまんで話した。だけどSFみたいな治療法は詳しく説明しなかった。

 幼馴染みの彼女は複雑な表情を浮かべながら、静かな小さい相槌を打ちながら僕の話を聞いてくれた。

「それで、実久。あ、冬木の意見を聞きたくて。いや意見というか傷つく勇気を分けてほしいんだ」

「実久でいいよ。色々と気にしすぎ」実久は少し笑っていた。そしてすこし考える素振りを見せて続けた。

「私は話を聞いただけだから、話してくれたことのどれだけ分かったのか自信がない。あのときの転校生が、いまそんな状況だってこと信じられないし、色々とついていけてないって感じ…。でも、きっとその話は本当もことなんだよね。なら出来ることをするのは間違ってないと思う。でも…今私が分けるのは傷つく勇気じゃない。必ず助けるっていう覚悟だよ。そして彼女を助けたら、3人で色々話そう。あの頃の話、1回3人で話してみたいし」

 実久は僕の欲しい言葉が分かっているかのようだった。そのことを言うと幼馴染みだからねと笑った。

「ごめんね、わざわざ時間とらせちゃって。それとありがとう。覚悟以上の何かをもらえた気がするよ。彼氏さんにもありがとうって言っておいて」

「うん。どういたしまして。でも、まだあの子のこと好きなんだね。話だけでもそれが伝わってきたよ。私なんかより…ずっと一途だね」

 別れ際に実久は笑いながらそう言った。笑っていたけど少し悲しそうに見えたのは、僕の勘違いだろうか。いや、勘違いだろう。振り返って歩き出した実久はとても幸せそうだったのだから。

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