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ゆめつながり  作者: 秋和翔
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5.恋心

 実久と付き合いだして2ヶ月以上経った。実久は、僕がまだ彼女と登校していることに気が付いているようだったが、何も言わなかった。僕はそれを見逃してくれたと許してくれたと自分勝手に都合よく解釈していた。

 学校は夏休みに入り、僕と彼女が話すことも顔を見ることもなくなった。部活に入っていない僕は時間が無限にあるかのように、怠惰な生活を送っていた。

 そんな夏休みのある日、僕は実久とデートすることになった。夏祭りに一緒に行こうと実久からの誘いだった。僕は人の多いところが得意じゃない。だからイベントにはなるべく参加したりはしない。でも僕は実久の恋人になっている。友達としてならノーと言えたが、恋人としてノーと言うことは僕にはできなかった。


 夏祭りはやっぱり人が多かった。実久ははぐれないようにしなきゃねと言って僕の手を強く握った。それは離さないようにではなく離れないように握っているようだった。

 夏祭りに来るなんて何年ぶりだろうかと思いながら、隣ではしゃぐ実久と歩いた。実久は屋台でリンゴ飴やチョコバナナなど食べ物ばかり買っていた。僕は実久と2人きりで夏祭りに来ていることを誰にも知られたくなくて、顔を隠すためにお面を買ったが、それをつけるのも恥ずかしくて、結局つけることをせず、お面は鞄のなかで眠っていた。

 ひととおり屋台も見終わり、どこかで少し休憩しようとなっていたときだった。周りに知り合いがいないか常にキョロキョロ動かしていた僕の目が止まった。

 彼女がいたのだ。なぜ彼女がここにいるのだろう。僕はそう思いながら、彼女の方向にそれとなく歩を進めようとした。だが実久と繋いだ手がそれを阻む。

「ねぇ、あっちは人が少ないよ。あそこで少し休もう」実久はそう言って僕の手を引っ張る。僕はグッと踏ん張り言った。

「ごめん。トイレ行ってくる」そして僕は実久の手を半ば振りほどくようにして、彼女のあとを追った。

 彼女はそわそわした様子で1人立っていた。その姿は、待ち合わせをして会うときの美玖とそっくりだった。嫌な予感がする。少しすると、彼女は手を振って誰かを呼んでいる。その方向を見ると、彼女に手を振り返しながら小走りをしている男の子が1人。僕の嫌な予感は見事に的中した。

 彼女はその男の子が来ると、とても嬉しそうにしながら手を握った。男の子は照れながらその手を握り返した。それは離さないようにでも離れないようにでもなく、より近づくため、一緒にいるために手を繋いでいるように見えた。

 僕はその光景に自分でも驚くくらいのショックを受けた。大切な何かが音を立てて壊れていくような感じだった。

 僕は泣きそうな顔を隠すためにお面を鞄から出して被った。お面を通して見ても彼女たちはとても幸せそうだった。彼女たちはそんな僕のことに気付かず、僕の横をまるで幸せを見せつけるかのように通り過ぎて行った。

 僕がその場に立ちすくんでいると、背後から声がした。振り返るとそこには困った顔をした実久がいた。実久は僕のあとを追ってついてきたのだろうか。彼女が恋人と思われる人と一緒にいるところを見て、ショックを受けた僕をどう思っているのだろう。実久は実久で傷ついてしまったのかもしれないな。実久への後ろめたさが僕に追い打ちをかけてくる。

「今日はもう帰ろっか」実久はそう言うと手を差し伸べてきた。

 実久の望んでいることは何となく分かっていた。その手を握って帰るのがおそらくより良い選択だということも感じていた。だけど実久の手を握ってしまったら、音を立てて壊れた大切な何かの破片さえも消えてしまうように感じて、その手を握ることが出来なかった。

「うん。帰ろう」僕がそう言って歩き出す後ろを実久は黙ったまま付いてきた。やっぱり夏祭りなんて来なきゃよかったと後悔していた。


 夏休みも終わり新学期が始まるその日の朝、僕はすがるようにチャイムが鳴ることを待っていた。秒針がきざむチクタクという音がゆっくりと僕の首を絞めるように感じた。

 彼女はギリギリまで待っても来なかった。それでも僕は待っていた。来ることを祈っていた。

 ガチャっという音とともにドアが開いた。僕は変な期待を抱きながら玄関に向かう。そこに立っていたのは夜勤から帰ってきたお母さんだった。僕がまだ学校に行っていないことに驚いて、怒りながら僕を学校に行かせた。

 なんて憂鬱なのだろう。学校がまた始まることに加えて、また1人で行かなくちゃならなくなるなんて。幸せは続かないなって悟ったようなこと考えながら歩いていた。

 遅刻するくらいなら休んだほうがましなんて考えているとふとある考えが浮かんだ。彼女は今日休みなのではないか。だからチャイムも鳴らなかった。僕はきっとそうだ、そうに違いないと言い聞かせながら、それを早く確認するために走り出した。

 息を切らせながら教室のドアを勢いよく開いた。クラスメイトの目が一気に僕に集まる。

「新学期そうそう遅刻か。気を付けろよ。ほら、早く席に座れ」と教師に言われ、席に座る。肝心の彼女の席を見る。いた。僕と目が合った彼女は気まずそうに僕から目を逸らした。僕も前に向き直って思った。終わりなのだなと。


 それからの日々は流れるように過ぎていった。転校生の彼女が現れる前と同じように1人で登校し、1人で過ごす。学校生活は前と全く変わらないようになってしまった。

 唯一変わったと言える実久との関係も良いとは言えなかった。あの夏休みの一件以来、僕には実久への罪悪感のようなものが、実久には僕に対する不満と不安があった。互いの持つそれらは僕たちの間に常にあって、近づくことを常に阻んでいた。そして冬休みもまばたきをしたかのように終わり、新学期が始まった頃、僕と実久は別れた。僕たちは壁を取り払って近づくことが、一緒にいることが出来なかった。

「私たちたちもう別れよう。一緒にいると私、みじめに感じるの。一緒にいるのが何か辛くなっちゃうの。好きなんだから一緒にいて辛くなるわけなんかないって思ってもダメ。やっぱり辛くて。それでも一緒にいたかったから頑張ったけど、もう耐えられも頑張ることも出来ない」

 別れの言葉を最後に、僕と実久は嘘のように話さなくなった。そして、それが一緒にいることよりもましだといいうことを、お互いに感じていて、僕はそれが何とも言えなかった。

 そうして三学期は学校だけでなくプライベートでも1人になってしまった。前の生活に戻っただけなのに前とは全く違う思いが僕のなかにあった。

 何かを持つとそれを失ったとき、持たないときに戻っただけのはずなのに、失ったもの以上のものを失い、持たないときだった頃以上に持っていないように感じる。僕は初めて虚無感というものを味わった。

 何となく苦痛を味わっているような気持ちのまま2月に入った。この時期は街も人もバレタインのイベントで一色になる。街から染まり始めるのか、人から染まり始めるのか未だによく分からない。恋人達や愛し合うイベントといえばクリスマスもある。今年のクリスマスは実久と出掛けたが、あれは夏祭り以上に酷かった。思い出したくもないほどに。あのとき、分かれること決定づけられたといってもいいくらいだ。

 僕にとって、全く関係ないものになってしまったバレタイン。毎年関係のないものであったが、今年の関係ないは、特に複雑な気持ちだ。

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