廿
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――――お前、芹何財団がいつ創設されたか知ってるか?
財団だから、もとは財閥だったんでしょ?
いや、知らないなら良いんだ
異常続きのお披露目会は急遽中止となった。縁談が破綻ともなれば、当たり前と言えば当たり前なのだが。それでも折角の料理が勿体無いとのことで、主役なしの宴会みたいなものがこの後行われることとなる。那野が気を失った後は―――――――。
「お前なぁ、まぁ縁談破棄ってのは良いことだが……」
「……良いこと、だ?」
芦切は自分が地雷を踏んだことを知らずに軽々しく言い放った。
あー、そういやこいつ隠してるぽかったなと思いだして壁のもとに倒れている那野をもう一度じっくり見た。
それにしても線が細い。女だと言われると普通に信じられる。
芦切は男にしておくのは勿体無いような気がした。
那野をじっくりと時間をかけて観察してから、再び視線を怜へと戻すと、そこには頗る目つきが悪い怜の顔があった。しばらく相対した後、芦切はそんなもの知ったことではないという風に軽く受け流した。
「あーお前、那野さん? 助けろよ、早く。首の骨折れてっかも」
そう言いながらも自分が近付く芦切。しょうがねえ、抱えるか、と呟いた瞬間、怜がいつの間にやら隣にいて那野をお姫様だっこの要領でそっと抱え上げた。
そしてひしゃげた襖に向かって歩き出す。途中、怜は不自然なところで立ち止まった。それは、ある、一人の男の前で。
怜は器用に片手で那野を支えながら、もう片方の手でそいつの胸倉をつかみ宙に浮かせる。男は驚いたように足をバタバタさせた。そんな男に怜は、血も凍るような冷徹な声で吐き捨てるように言い放つ。
「…お前はクビだ」
男は突然の出来事に目を白黒させ、口をパクパクさせた。口の中からだらしなく唾液が漏れだす。
せめて理由を教えてくれと、もがき、食らいつく姿は思わず目を逸らしてしまうほど、――――見苦しいものだった。
しかしその願いが叶うこともなく、怜の腕力によって次の瞬間には投げ飛ばされていた。
『逃げられたんじゃないのか――――――』
先ほど不躾に那野に向かってそう言ったこの男は、先の怜の所業によってこの後生死をさまようことになる。
それから、あっという間に立ち去った怜を見た芦切は、俺は趣味をどうこう言うつもりはないがな…、といつまでも誤解をしたままで。
「お前もクビな」
芦切は頼りなかった司会者を自分もクビにすると颯爽とその場から姿を消した。
―――――後始末を全て、女中に押し付けて。
何だったんだ、としばらく口々に言い合っていた人々は酒の力もかりて次第に盛り上がっていった。
その中で首にされた二人、一人は打ち所が悪かったのか急遽運ばれ生死を彷徨い、もう一人は自分の司会進行の何が悪かったんだと、熟思していた。




