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十一曲目「the Garden of sinners -劇場版「空の境界」音楽集-」

「府雨の音楽記憶」十一曲目「the Garden of sinners -劇場版「空の境界」音楽集-」


 梶浦由記


 いついつ聴いても飽きることがない。


 空の境界を観たのはいつだったのだっけ。


 小説『空の境界』はもちろん読んだけれど、それもいつだったかわからない。


 式の美しさ。黒桐の素朴さは、誰もが憧れたように思う。アニメキャラの声を聞いて僕は育った。


 それは嘘まで織り込める声優の声で、そう思ってないことを声だけで表現して、なおかつわかりやすさがあった。


 アニメは超現実ではない。現実こそが超現実なのだと知る。素朴な人間が素朴を装って生きるのが、一番早い「勝ち方」だと、全てのアニメが教えてくれる。


 空の境界は、建前と本音をひっくり返したその時の日本の姿をよく捉えていた。僕はそれをなぞった。


 現実をなぞりながら、解釈はどこまでも現実を超えて。


 解釈の世界に生きることはできない。でも、解釈をすることで現実を変えられる。昔でいう文芸批評とかは、そういう営みなんだろう。


***


 音楽を聴きながら泣いたこともあったように思う。


 戦争で死んだ家族を思い出す人の景色が不意に現れて、思わず泣いてしまった。


 ああ、悲しいなぁ。十年前浪人中父の和歌山のマンションで、勉強しながら、窓の外を見たら、僕が「焼いた罪人」の火が見えた気がした。


 あの新大阪駅の最終列車。鉄の焼ける臭いは、今もそうなのだろうか。


 浪人中に見た「なんでもあり」の闘技場。関東にはない独特の階級社会。守られている人とそうでない人がいて、はみ出しものは悪態をついて、でもどうしようもないのだ。


 京阪神の役割分担とか、その相互批判の構造とか、馬鹿みたいだと思った。誰もが泣いている。鬼になりきれずに。


 そういう意味では鬼ばかりの世界で育った僕からすると、ずいぶん優しい世界だと思った。


 力より関係。一人より二人。ツレ。


 美しい天王寺の女の子でさえ、抱えている配下から逃れられない。捨てられない。汁を吸う。夢は見えない。


 ずっと家入レオを聴いていたのは、それもあってからかもしれない。


 力が必要だと思った。


 周りの声が見通しを暗くする。子どもを愛しているだけのことでも、ひそひそとされて安心して外食も食べられない。


 そういえば、友達と路上ライブでstyle-3のシングル「家康」を買って聴いていたのも関西で浪人している時だった。


 精神の闘技場。昂りが止まらなかった。戦国かと見紛う。


***


 家族とか医者とか、金でつながっていることは大事なんだと最近思う。


 見返りのない愛とかに頼り出したら、頼る方も頼られる方も途方もない。際限がないし、方途もない。


 黒桐が友達にお金を借りるシーンが思い出される。


 アニメではお金を借りているとしか描かれない。


 借りてみると、実に感情は複雑で、でもそれを体感するには、想像力や実際の経験が必要だ。


 意味の輪郭を色濃くする音楽。


 いつも黒桐鮮花が活躍するシーン。水樹奈々が愉悦している「よくってよ、よくってよ、黒桐さん!」のシーンと音楽が癒着している。それくらい梶浦サウンドがピッタリきていたのだろう。


 能登さんの演じる浅上も、美しかった。


 橋を曲げる。空間を、世界をねじる。


 自分だけはついぞ曲げられないまま。誰かに助けてほしいとすら思わない。そんなことを考えることもできないくらい孤独な。孤独な人ばかりで。孤独だというのが罪だと、この音楽のタイトル「罪人の箱庭」は言っているのかもしれない。


 言葉だけで想いを伝えることは孤独だけど、そうでないと生きることはできないと、僕はこのアニメから教わった。


 もし、仮に世界にテレパシーがあったとして、だからなんだというんだろう。


 もし知覚が乗っ取られて、自分というものがなくなるのが楽しいとしても、それでは生活はできない。


 意味の世界へ戻ってくるのは、人間にとっては重要なことで、もし仮に精神が何かの高揚感を得たとして、それに僕らは言葉でなんて説明するのだろう。


 僕らが言葉を使うのは、それだけが正確に気持ちを伝える方法で、それ以外の方法は覚醒剤なんかを含め、全て邪道なんだと、これもアニメが教えてくれたのだ。


 例え物理空間をねじ曲げられたとしても、助けてほしいと思ったなら、言葉で。


***


 何を言えばいいのかわからない時もたくさんあるけれど、上手く言えなくてもいいから少しずつ言葉で。


 式と黒桐の関係を再現することに、少なからぬ人が人生を費やしている。

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