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放出_2


 ない頭をひねりながら、私は一生懸命二つ目の不思議を考えた。『カゲが気に入ってくれたら良いな』なんて思いながら作るのも悪くない。そんなこんなでできあがった二つ目の話を引っ提げて、まず私は一つ目の不思議を生徒に広めるべく、校舎へ向かった。


 朝早いからか、校舎には誰もいなかった。当直の用務員さんがいるかもしれないが、明るくなりかけの今はきっと巡回時間じゃない。私は悩みながらも、校内で一番人目につくはずの、一階中央土間にある掲示板へ、第一不思議を載せた紙を貼った。

 掲示板は各部活の紹介や、学校新聞が貼られる場所だ。ほかに校外で行われるコンテストや、生徒が行けそうなイベントのお知らせが掲示されていた。この中にあっても目立つように……と、私は文字の色を赤黒くして、まるで血文字で書かれたような文章にした。ちょっと掠れていて、文字の書き始めはところどころ血だまりになっている。筆をおいたら、きっとこうなるだろう。それから、あえて文字サイズは不揃いにした。一枚の大きな紙へ全ての文を載せても良かったが、折角なので何枚かにわけてバラバラに貼り付けた。バラバラに貼り付けていても、絶対に同じものであるとわかる。ただの紙じゃ面白くないから、適当なサイズの焦げ穴を作った。最後に、水とコーヒーを落としたシミも。ヨレヨレになった後、完走した部分が引きつってカサカサになっている。たまに、文字へ水とコーヒーをかけるのも忘れなかった。読める範囲で。


 そのできは、私の中では中々上手くいったと思えるものだった。何も知らない人がこれを見たら、ギョッとするに違いない。そして、怖いと思うはずだ。同時に『誰かに話したい』とも。……思わずニヤついてしまうくらいに自信はある。


 こうしてできあがった七不思議の第一不思議お披露目会場に満足した私は、この後起こる騒ぎを楽しみにしながらその場を後にした。


「――それで? その顔はどういう顔なの?」

「これ? 『みんなが怖がってくれて嬉しい』って顔だよ」

「あぁ、そうだったんだ」

「え、そんなわからないような顔してる?」

「うん」

「えぇ……結構わかり易い顔してると思うんだけどな」


 最初にアレを発見したのは、ほぼ毎日同じ時間に誰よりも早く登校してくる女子生徒だった。あの中央土間を教師は使わない。だから、必ず生徒が第一発見者になることはわかっていた。その生徒はじっくり掲示物を見たあと、スマホで写真を撮っていた。次の生徒がやってくるまで彼女はそこにいた。学年色が違うことから、他の学年だと思われる男子生徒が、次にやってきた。彼女は不安そうに話しかけ、一緒に掲示物を見た。最初は訝しがっていた男子生徒も、時間が経つにつれて微動だにしなくなった。そして、第一発見者の彼女と何か言葉を交わすと、二人で次からまたやってきた生徒へ、掲示物を紹介し始めたのだ。

 中央土間はあっという間に人で溢れかえり、写真を撮ったりその撮った写真をSNSへ載せたりと、やりたい放題だった。騒ぎを聞きつけてやってきた教師が全員を教室へ帰らせるまで、今までにこんなに人の集まることがあっただろうか? と思うくらい、土間には沢山の人がいた。生徒たちは教室に戻ったから知らないが、教師たちもまた、あの紙を写真におさめていた。流石にSNSに載せる大人はいなかったが、学校中この話で一日もちきりだったのは言うまでもない。


「ぜーんぶ思った通りですよ」

「それで嬉しい顔をしているんだね」

「してやったり」

「楽しそう」

「楽しそう、なんじゃなくて、楽しい、の!」

「こんなに上手くいくなんて、って?」

「そうだよ? 私、中々上手に加工できたと思わない?」


 帰るころには、あの紙は剥がされていた。最後にあの場を去った教師が、剥がすべきだと判断して職員室へ持って行ったのだ。でも、捨てなかった。捨てるつもりだったのかもしれないが、その教師の机の上に、ほかの書類やファイルに混ざって、乱雑に置かれていたのだ。


 だからそのまま、私が拝借した。というか、正確には返してもらった。


「ジャーン」

「持ってきて大丈夫なの? それ」

「まぁ、私の作ったものですから? 正当な所有者は私、ということで」


 何度見ても上出来である。私だって何も知らずに突然現れたこの紙を見たら、落ち着かない生徒たちと同じ反応をしただろう。


「あー、楽しかった!」

「……これ、七不思議作るたびにやるの?」

「そうだよ? だって、そうじゃないとぽくないじゃん? 今回この形式をとったなら、次からもその形式に則らないと。儀式っぽいしね、そのほうが。怖くない? 突然現れる、今までこの学校になかった学校七不思議の書かれた紙……って」

「確かに怖いとは思うよ?」

「でしょ? はー、これでこの文化棟への人増えるかな? みんな本当か確かめたくなるでしょ? そしたらここへくるしかないもん」

「人が増えても俺にはどうしようもないよ」

「賑やかになるじゃん!」

「その賑やかさ、必要?」

「そのほうが面白いんじゃないの?」

「人によるよ、そんなの」


 カゲはちょっと不満そうだった。私以外に視える人が増えたら、きっと楽しいと思ったのに。私の邪な気持ちが、もしかしてバレてしまったのだろうか。


「で? 昨日の今日で第二不思議考えてきたの?」

「勿論!」


 私は昨日思いついた不思議をカゲに向かって話し始めた。

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