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第一不思議【誰のものでもない原稿】_4


 その後のことは、よく覚えていません。でも、確かに、確かにそれ以降も影は居続けました。……となると、みんなが辿り着くのは「結果に納得してないんじゃないか?」になるんですよね。それはそうかもしれないって。最初に、私たちは彼の印刷物をすべて処分したじゃないですか。シュレッダーにかけて。だから、本来ならあの部誌に彼の作品は載らなかった。それが彼敵に認められなくて、部誌へ載るようにしたんだと思いますけど……。


 覚えてないけど、記憶が鮮明になるシーンがあって。何となく部誌の話がまたタブーになって、それでも影の気配は消えなくて。実害があった訳じゃないから、もうみんな慣れたもんで、またいるなってくらいの気持ちだったんじゃないですかね。そんなある日、部長を通して全部員とあの部誌を作る時に手伝ってくれた子たち、全員部室に集合するように通達があったんです。それなりに人数がいたから、まぁまぁ広めの部屋を部室にしていましたけど、久し振りに全員プラスアルファ集まったらやっぱり狭いなって。

 そんなどうでも良いことを考えながら、何の話だろうってソワソワしました。まぁ、部誌の話題が上がってたので、それ関係の話なんだろうな……っていうのは、なんとなくわかっていましたけど。色んな意味でソワソワしません? だからこの場合のソワソワって、間違ってないですよね?


 ……とにかく、みんなが何だ何だと待っているなか、口を開いたのは部長でした。


「文化祭で発行した部誌について、話がある」


 って。なんだか妙に改まった言いかたで、急に身構えちゃいました、私。なんにもしてないんですけど。パトカー見かけたときに、なにもしてないのにドキッとしちゃうのと同じですかね?


 その後何を話すの? と思っていたら、部長黙っちゃって。でも、誰も何も言えなくて。ただひたすら、お互いがお互い誰かが口火を切るのを待っていたら、顧問がやってきました。部長は顧問がくるのを待っていたんだと思います。安心したような顔をして、そこからまた話し始めました。


「あの印刷物の正体がわかった」


 何て言い出すんですよ。ざわつきましたよね。「どういうこと?」「何の話?」「誰が犯人だったの?」って。大体みんな、そんなようなことを口にしていました。話すに話せない状況もあったし、その日も相変わらず影はいるし……で、みんなとっくに、キャパオーバーしてたんですよ。コレに関しては。卒業するまでこのままなんだろうな……って、私もぼんやりと考えていましたし。卒業しても、文化棟にはまだあの影って出てくるのかな、とか。また部誌に原稿載せるのかなとか。それなら、卒業後も文化祭覗いてみようかな、とか。


 別に、面白がってるわけじゃなくて。怖いもの見たさ……っていうか、何ていうか。ありますよね? そういうのって。


 部長も何となく、話すのを躊躇っているように見えました。気のせいだったかもしれないですけど。少し、核心に触れるのに、時間のかかった記憶があるんです。そういう時って、話し辛いんだなって思いますよね? 私はそう思いました。みんな何も言わなくて。空気はピリッとして、多分同じことを考えていたんだと思います。


「あの黒いベタ塗りの紙の用途はわからないけど、インクが飛び散ったような紙と、ひらがながビッシリ羅列された紙の使い道があった」


 それを聞いて、あの紙に意味があったんだ、って思いました。でも、そうですよね。わざわざ死後何年も経って部誌に原稿を載せるのに、意味のないものは載せませんよね。話になっているならまだしも、文字すらない紙だってあったんですから。

 そのころもう、みんな部誌を廃棄していたみたいで。持っている人の確認は誰も挙手しませんでした。唯一持っていたのは、その確認をした部長本人だけで。部長はおもむろに部誌を解体して、勝手に混入していた紙を三枚抜き取りました。で、私たちに見せるんです。


「こうやって、紙を重ね合わせたら、空いた部分に浮かぶ文字が文章になった」


 ……読めました、読めちゃったんです。文章が。掠れの薄いところや空白が、上手いこと二枚紙を重ね合わせて光に透かすと、下の文字を抜いたんです。何が書かれていたか? ……えーっと、ハッキリ覚えてないんです。驚きが勝っちゃって。


 でも、両親への感謝とか、友達への気持ちとか、そういうのだったと思います。だから、その文章は怖いっていうよりも悲しい……って感じましたね。これは無念だなって。


 部長はこれを持って、顧問と一緒に主と思われる元生徒の家へ行ったそうです。間違いないのか? は、多分としか言いようがないですね。でもホラ、文末に名前が載っていましたから。ペンネーム。親御さんには会えたみたいで、最初は怪訝な顔をされたけど、最終的にはお礼を言われて帰ってきたそうです。

 気味が悪い……なんて思わないのが親なんですかね?


 無事に原因も理由もわかって、めでたしめでたし――すると思いましたか? おかしくないです? 何でそんな凝ったことを幽霊がするの? とか、文字が浮かんだのは偶然じゃないの? とか。文章には部誌のことについて一切触れていなかったし。無理やりな感じがしないでもなくて。


 ……それにね?

 雨の降る日は、未だに知らない誰かが文化棟を歩いているみたいなんです。私は今年卒業したけど、後輩は残ってますから、顧問も。話に聞くんですよね。うん、私も、卒業まであの影を感じ続けました。


 ……成仏してないなら、部長が唱えた説は恐らく間違ってるわけで。


 だから、私が最後に載せた部誌にも同じものが載っていたのもおかしい話じゃないですよね?


 もしかして、誰かが本当の理由を知るまで、部誌にあの意味のわからない紙が載り続けるのでしょうか。

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