第七不思議【そこに立つ少女】_4
幽霊って凄いですよね。やっぱり、不思議な力を持っているんでしょうか。まさか、本当に七不思議になぞらえた事件が起こるなんて。事件ってほどじゃない? いやいや、平凡な人生を送っている僕にとっては、十分に事件なんですよ。他の生徒もそうじゃないですか?
彼女との関係が進むことはなかったけど、ある日、彼女は気付き始めたんだ。「もしかしたら、自分は死んでいるかもしれない」って。気が付く要素はなかったと思うんだけど、よく考えたら僕が彼女の載った新聞をうっかり持っていってしまったこともあったし、つい、熱が入って「生きていたら新聞の子と友達になれたのに」って力説しちゃって。変だな、って思われちゃったんだろうね。なんとなく普段も誤魔化して、幽霊とかお互いの生死の話には移らないようにしてたんだ。素性とか生活とか。
作られる七不思議は、全部が全部怖いものじゃなかったんだ。どこか優しさとか甘さがあった。とことん怖さを突き詰めたっていいのに、非情になれないっていうか。……そういうところも含めて、僕は彼女が好きだった。幽霊の癖に人間臭くて、酷い人生だったのに今は意にも返してなくて、楽しそうなんだ。僕も、一緒に文化棟で過ごす時間が楽しかった。そのためだけに文化棟へ行ってた。彼女の顔が見られない日はとても残念だった。
いざ、七つ目を発表するとなって、貼り出すための紙を作っていたんですけど、ちょっと考えちゃったんですよね。今まで作った不思議は、貼り出してからその不思議が実際に起こったから。詳細まで再現されているとは言い難かったけれど、概ね誤っちゃあいなかった。てことはですよ? 僕の作った不思議も、実際に起こるかもしれない。そりゃあ、起こったところで現実の話を喋っているんだから、怖いことは何もないんですけどね。だって、起きたことなんだし、起きたからと言って、みんなに恐ろしいことは怒らない。Hさんと顔を合わせるだけなんだから。
あ、いじめっ子やご家族……ご、なんて、丁寧に言いたくないけど。そっちは会いたくないかもね。顔合わせたら、呪い殺されちゃったりして。
……冗談です。彼女はそんな子じゃあない。
で、僕は考えたんです。彼女を、この世に留めるためにはどうしたらいいか。僕は、彼女がいなくなったら、また友達のいない生活に戻ってしまう。そんな寂しいこと、考えたくもなかった。――ただ、同時にこうも思っていました。
「彼女をきちんと成仏させてあげたい」
と。
複雑な気持ちですよ。友達と離れたくない反面、友達に苦しい思いはしてほしくない。悩んで考えて困って、僕は決めました。わかってます、エゴなんです、僕の。僕が決めることじゃなくて、もっと手の届かない神様とかが決めるものなんだ、人の生死は。
僕は「彼女がこの世に留まること」を選んだ。
この最後の七不思議は、明日学校の掲示板に貼り出します。貼り出してみんなが読んでこれを認知した時、彼女……Hさんはこの世に残る七不思議と化すんだ。
彼女は、そのことに気が付かないと思う。だって、今の生活と全く変わりないんだから。彼女は自分が死んでいることに気付かないまま、この学校に永遠に留まり続ける。彼女はこれまで恵まれた人生ではなかったけれど、今の生活は悪くなさそうだった。だから、どうなるかわからない死後の世界へいくよりも、ここに残るほうが幸せかもしれないでしょ? ……何度でも言いますけど、僕はわかっていてこの話をしています。
……え? 僕の顔が怖い? 笑ってるのに? それも嘘なんじゃないかって? はははっ、嫌だなぁ。
……バレちゃいました?
この話、もう貼り出した後なんですよね。えぇ、そうです。この七不思議はもうとっくにできあっていて、全生徒にお披露目済みなんですよ。みんな、怖がっていたというか、不思議な顔してましたね。今までの話に比べたら、インパクトに欠けちゃったのかも。それでも、Hさんは喜んでましたよ。無事に話は完結して、あの何でもない掲示板が、みんなの注目する掲示板に変わった。
――そういえば、最近この学校の雰囲気が変わったんですよね。不気味っていうんですか? 七不思議は本当に起こるし、生徒はどこかビクビクしてる。文化棟の取り壊しの日程ももう決まって、すべて外に出し切って、中には完全に入れなくなりました。鍵が交換されちゃって。壊れてた窓は木の板と釘が打ち付けられて。誰も寄り付かなくなりました。生徒はおろか、先生たちさえも。一気に廃墟みたいになっちゃって。そうなったら、確かに誰も寄り付きたくはなくなりますよね。
僕、ですか? ……入れなくなっちゃったんだから、仕方がないです。中には入っていませんよ。怒られたくもないですしね。入れなくなると同時に、水道電気も止められちゃって。
は? 彼女? どうしたか? ……さぁ? わかりません。文化棟って部分が独り歩きしちゃったのか、あの第七不思議を貼り出した日から、みんな文化棟へ肝試しに行くようになったんですよ。第一不思議の時は、底までじゃなかったのに。女の子の例だからなのかな? 残念なことに、僕の憩いの場所は奪われてしまった。その時は彼女に会えたんですけどね。最初は人が来たことに喜んでいましたけど、数日経ったら口数も少なくなって。それからあそこへは入れなくなったから、彼女にはもう会ってません。校舎にはこなくなっちゃったんです。彼女を残すためにこの話を作ったのに、彼女に会えないなんて……!!
でも、文化棟のあの、僕がいた部屋から、今でも視線を感じるんですよ。恋しいような、恨みがましいような。彼女はいるんですよ、文化棟に。ずっと、ずっと。
僕は彼女を、成仏させたくなかった。離れたくなかった。大好きだった。
……神様はどう思ってるんでしょうね、僕のしたことを。
ん?
「君のほうが七不思議みたい」
って?
彼女に聞いてみましょうか。言ってくれれば良かったのに。そう思いません? 移動できるなら早く。……ホラ見て、そこに立ってるでしょ?