最後_1
これは、私が作った七不思議の最後の話だ。集大成……と呼ぶには少し違うかもしれないが、これはこれで良い味が出ていると思っている。
「最後の話、どうだった?」
こうやってカゲに感想を聞くのも、これが最後になる。第七不思議はカゲの担当だ。私の出番はない。
「うん、良かったよ」
「良かったよ⁉︎ やった! ホントに? ホント?」
「本当だよ。……でも、強いて言うなら……」
「待って! ストップ‼︎ もうちょっと褒められた余韻に浸りたい!」
私は大袈裟に手を前に出してノーの意思表示をすると、カゲが続きを言わないように止めた。折角一発OK……というか、グッドの評価をもらったのだから、この嬉しさを噛み締めたい。……ダメ出しはその後だ。
「うん、うん。よし、で、どうしたらもっと良くなる?」
「えーっと、前置きっていうか、雑談が多いような……?」
「あ、そこか……。ちょっとこう、自分のことをよく喋っちゃうというか、つい情景みたいなのも全部話す時に出しちゃう子、って感じで書いてたから。あちこち話が飛んでも、最終的に大筋にちゃんと戻ってきて、ダラダラ雑談みたいに話が長引いても、オチがまぁつくなら良いかなって。リアルでしょ? そのほうが。日常会話ってそんなものだろうし」
「まぁね。確かに。俺も脱線しがちだし。盛り上がると、細かいところまで描写したくなるし」
「でしょでしょ? 誰かから七不思議たり得る話を聞いてるんだから、ちょうど良いと思うよ。話してる本人だって、きっと怖い話をストレートに口にできないってあるはず」
「話してるうちに、怖くなってきちゃうんだよね。自分が」
「それそれ。ね? リアルな感じする」
カゲと会うようになってから、私はよく喋るようになった。自分でもそう思うほどに。元々お喋りは嫌いじゃなかったが、なんせ肝心の喋る相手がいなかったのだ。話しかけても独り言か、その場にいない人の扱いで寂しかった。途中から吹っ切れたが、それでも自分の話しかけた人が、私を無視して他の人と話し始めるのは胸が痛い。
「なんだか緊張するなぁ。これを貼ったら、もう残るはカゲの考える第七不思議だもんね。いよいよ……って感じがする」
「俺まで緊張してきた」
「それで? どこまでできたの?」
前に聞いた時は、どこまでできているのかどうかわからなかった。何を題材にしたのかも、順調に進んでいるのかどうかすら。何も教えてくれなかった。流石に、残り一話となったら教えてくれても良いだろう。
「そんなに知りたい?」
「そりゃあ、勿論」
「……じゃあ、ヒントを一つ」
「え、ヒントだけなの?」
「全部話したらつまらなくなるだろ?」
「そうだけど……」
「俺だって、詳細は聞かなかっただろ? 話のネタになりそうなことは言ったけど。フェアじゃないってこと」
「ぐ、ぐぬぬ……。そう言われちゃったら仕方ないなぁ……。ヒントちょうだい?」
「良いよ。……そうだな、俺が作るのは第七不思議だから。七不思議最後の話。いわば、集大成」
「うん」
「それがヒント」
「それだけ⁉︎」
「随分と大きなヒントだと思うけど?」
「ぜんっぜんわかんない」
「これ以上は言えないな。もし話の内容を推察するっていうなら、俺が出せるのはこれだけだよ」
「なんかズルい」
「何が。全然ズルくないからね?」
わかってはいるが納得できない。ここまで一緒にやってきた仲なのだから、せめて話し始めくらい教えてくれても良いのに。それか、欲を言うと起承転結……とまではいかなくても、メインになり得る話題を。
「ねぇ、第七不思議がどんな話なのか、当てたら賞品出たりしない?」
「賞品?」
「そしたら頑張れるじゃん? ご褒美があるから」
「別に、どんな話なのか当てるのは必須でもないし。この場合、そもそもどんな話かわかるのがご褒美でしょ?」
「……それもそうか」
「はい、じゃあ頑張って」
「えええ、もうちょっとヒントー!」
「ないものは出せないよ」
食い下がってみたものの、これ以上話を引き出せそうにはなかった。
今までの話をまとめてみても、カゲの考えそうな話は思い当たらない。鏡の話のヒントをくれたし、変えてよくなりそうな部分も教えてくれた。嘘も混じっていたが、旅館で見た絵の話も聞かせてくれたし、なんとなく、どんな話でも全方向に対応できそうな気がする。
幽霊のくせに妙に人間くさいし、死んだ後に自分のことは棚に上げて怖い話を作る変わり者だ。……誘ったのは私だから、私が一番の変わり者なのだろうか。けれど、だからこそ、ストレートに抉るような話も、捻くれて後に残る話も書けると思っている。……お陰で、全く話の方向性が見えない。
「……明日これ貼り出して、みんなの反応見ながら考える」
「俺が一依に話をするのは、第七不思議を張り出す前日だよ。今までの君と同じ」
「それまで気になったままかぁ」
「これだ! って思いつくものがあったら、どうぞ言いにきて? 当たってるって教えるかどうかはわからないけど」
「そこは教えてよ!」
「だって、当たってるって言ったら、全部話してってなるだろ? ちゃんと、貼り出す前日に話さないとね」
はぁ、と溜息を吐いて、私はカゲとバイバイした。一旦諦めることにして、まずは明日の貼り出しのことを考えなければ。