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第六不思議【生きている水】_3


 気のせいだった……で済ませたかったけど、そこから調子の悪い水道に遭遇する確率が増えて。何回かに一回、ハンドル捻っても出ないし、水が止まらなくなったり。あ、あと、錆ですよ、錆! 赤かったり茶色かったり、鉄臭いあれ! よく出てくるようになりました。色もニオイも全部最悪。とても飲めたもんじゃない。それなのに、何も異常がないんですって。

 何回か業者さんもきたみたいですけど、きた時だけなぜかちゃんと水が出るんですよね、錆なんか出てない、流れのある色も綺麗な水が。なんか、親の前でだけいい子にしてる子みたいじゃないですか? 外では好き放題するのに、親にはそういう面を見せないの。だから、親は自分の子どもが問題起こしているなんて知らない、何かあったら他者が悪いと思っちゃう。問題児は、自分の子どもなのに。


 ……校舎も新しいとは言えないから、他の部分が影響してるんじゃないかって。そうじゃない証明なんて、難しすぎますよね。検査して問題ないですよって言われたって、それが百パーセント信用できるのかって言ったら、無理だと思いますもん。水道のほうもそう。あ、貯水タンク? ですか? そこも問題はなかったみたいですね。

 それに、運動場にある手洗い場は、チェックする前も後も何も起こりませんでした。無事だったんです。無事って言い方が正しいのかはわかりませんけど。


 で、私も結構当たりました。その錆の水。しかも、日に日に……出るたびに、色が濃くなっていっているような気がしたんです。ニオイもちょっと……錆の、生臭いニオイが強くなっているような。友達も言ってました。「この水臭いよね」「たまに凄い色してるよね」って。でも、錆が出ること自体は今までもあったし、水を出しっぱなしにしていたら、そのうち消えてくじゃないですか。だから、こうなる前から先生にも「水の色が濁ってたら、なくなるまで出しっぱなしにして」って言われてましたし。


 みんな、飲み物をいっぱい持ってくるようになりましたよ。なくならないように。おっきな水筒に凍らせたペットボトルドリンク、なくなる前に自販機や購買で買って、中には、友達に渡せるようにめちゃくちゃおっきな水筒持ってきてる子もいましたよ。学校側も、まだ水道から水が出るうちにタンクに溜めて、氷も入れて部活に差し入れしたりしてました。ありがたいですよね。


 高校生になると、校庭で遊ぶってあんまりないんじゃないかな、女子は。男子はそうでもなかったけど。体育から戻った時とか、手を洗いますけど、取り敢えず一人誰か蛇口を使ったら、みんなその蛇口を使うようにもなりました。無事な蛇口ってことで。他のはダメかもしれないでしょ? そんなこんなで、ダメな蛇口に当たることも少なくなったんです。


 暑い日と雨の酷い日を繰り返して、流石にそろそろ梅雨明けするよね……って思い始めたころ、考えてもみないことが起こりました。……教室に、その日の宿題で出た教科書を忘れちゃって。取りに戻ったんです、一人で。滝のような雨でした。どうしたらそんなに降るの? って思っちゃうくらいに。傘はあったけど、横殴りだったからあんまり意味なくて。もうビショビショですよ。

 教室開いてたから、勝手に持っていきました。下駄箱で靴を出した時に、手に泥がついちゃって。気持ち悪いから手を洗おうと思ったんです。車も沢山通っていたし、私って雨の中歩くの凄く苦手なんですよ、どう頑張って歩いても、水が跳ねちゃって。歩くの苦手なんです。つま先からもう泥だらけの水だらけ。他の人より足元濡れてる自信ありますもん。……誰かに、雨の中上手く歩く方法教えて欲しいくらいですよ。


 しまった、そんなことはどうでもいいや。雨の中じゃ外の洗い場は使えないので、校舎の廊下にある手洗い場を使うしかなくて。できれば、外が良かったですね。けど、そんな雨の日に外の手洗い場なんて、とても使えないじゃないですか。ちょこっと洗うくらいだし、一番近くにあった一階廊下の手洗い場を使うことにしました。で、ハンドルを捻りました、いつも通りに。


「……? あれ?」


 キュッキュッ。


「あれ? 嘘、出ない……?」


 キュッキュッ。


「こ、こっち!」


 キュッキュッ。


「あああ、もう!」


 キュッキュッ。

 キュッキュッ。

 キュッキュッ。

 キュッキュッ。


「全部出ないじゃん!」


 そこの手洗い場は、どの蛇口からも水が出ませんでした。……正直、出ないこと自体はもうよくあることになってて、驚きはしませんでした。イライラはしましたけど。最後に回した、あの深いバケツとか入れるところもダメでしたね。


 なんか、私も意地になっちゃって。ここがダメなら、廊下の先のもう一つの手洗い場も、水は出ないだろうな……って思ったんです。だから、二階へ上がって、遠いほうの手洗い場の水を出すことにしました。二階なら、職員室もあるし。……変なことが起こっても、すぐに先生呼べるじゃないですか。


 廊下を進んで、突き当たりにある手洗い場に行きました。途中職員室を覗いて、誰かしら先生がいることは確認済みですよ。


 キュッキュッ。

 キュッキュッ。

 キュッキュッ。


「あー……はぁ。もう、やっぱり出ないのね……」


 蒸し暑いし、制服と靴下はベトベトだし、これ以上は諦めました。で、もしかしたら、職員室にウェットティッシュあるんじゃないかって。最初からそうすれば良かったって後悔しながら、職員室の方へ戻りました。職員室の目の前にも、手洗い場はあるんです。最初は避けていったんですけど。位置的には、私が最初に一階で使おうとした手洗い場の、ちょうど真上になります。


 「もしかして」……って、淡い期待を抱いちゃったんですよね。もしかして、水が出るかも……と。それを確認してから、職員室で先生にウェットティッシュもらっても、遅くはないよなって。ここまできましたし。


 キュッキュッ。


「……あ。出た」


 出ました、水。なんであっちの手洗い場は水出なかったの⁉︎ 下の階も‼︎ ってちょっと怒れちゃいました。……まぁ、次の瞬間にはどうでもよくなりましたけどね。


 流れてこないんです、水が。蛇口の先に見えているのに。ゆっくりと出てくるけど、流れない。

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