巨人号の事件74
いまだ活発に触手を振るうクラーケンを見て
「あれをどうする気だ?」
問う幹久に、
乞一は
「そうさな……せっかく上がったレアものだ。釣り上げて材料にでもするか」
「ひとりでか?」
「玉蟲を舐めてもらってはこまる。おれの力があんなはぐれハンターと同程度だと思うか?あんな海獣ごとき、わが地の三柱にくらべたら雑魚に過ぎん」
「それはそうだが……どうせおまえのことだ、荒っぽくやるだろう?それだと周囲にも影響が出る。余計な損害を出す必要はない」
「ああ。おまえ、それでわざわざ船内に残ったのか?生き残った客を守るため結界を張ったな。相変わらずあまいやつだが……張りようは見事だな。やはり、志魔鬼三郎の死におまえたち娘夫婦が関わっているという噂は本当か?おまえの術ならば、あの志魔の島でなにがあっても気づかれまい」
「……クラーケンが来るぞ」
無視する幹久に、
乞一はわらって
「フナタマ、最大出力でぶっぱなすぞ。この船にためておいたありったけの魂魄をつかう」
「……あなたが船主。お好きなように」
死霊術師は、詠みかけの詩(の残り)に術をのせて詠う。
There hath he lain for ages, and will lie
ヤツは幾世も横たわってきた、そして今後もそのつもりだろう
Battening upon huge sea worms in his sleep,
好きに貪ってきたよな デカい海の虫を 寝ながらよ、
Until the latter fire shall heat the deep;
しかしそれも 終いの炎が 海を焦がすまでだぜ。
Then once by men and angels to be seen,
一度きりだが ここにいる人間そして使姫に見せてやる、
In roaring he shall rise and on the surface die.
吠え叫びながら ヤツが浮かんで 海面で死ぬさまを。
翔之介らが固唾をのみながら巨人号にせまるクラーケンを見つめていると、にわかにすさまじい閃光が放たれあたり一体を包んだ。
「わっ!?なにこれ?」
急な明るさに声を上げる少年のとなりで、
魔美子も
「まさか……これは人の魂!?それもすごい数!威力が……」
すさまじく、クラーケンのあれほど強固だった触手がみるみる溶けていく。
「どういう原理だ?」
術の専門家ではない奇多郎の問いに
答えたのは、ラビだった。
「あれは死霊術の一種だな。なんとも大がかりだが……」
顔をしかめながら、解説してくれる。
「あの攻撃は、あの客船に閉じこめられておった多量の死霊を一時に開放することによって得た力をつかったものじゃ」
死霊?そんなもの巨人号のどこにいたの?ぜんぜん気づかなかった。
少年のいぶかし顔に
「……そうさな。ありゃわしのように自分自身が死に近いか、よほどの魔道者でなければ見抜けまい。霊たちが縛られておったのは、あのヒトガタとやらいうぬいぐるみ人形のなかよ」




