ストーカーのために女装して!
『以上、演劇部によるロミオとジュリエットでした。皆様もう一度、盛大な拍手をお願いします』
「演劇なんて久々に見たけど、いいもんだね」
「……♪」
体育館から出た後、俺達は自然にその辺をぶらぶらと歩く。
いやあ彼女は楽しめるだろうけど俺は楽しめないだろうなと思っていたが、
予想以上に我が校の演劇部は迫力満点だった。
それにしても今日初めてまともにロミオとジュリエットのストーリーを知ったが、
なんて愚かな二人なのだろうか。悲劇でもなんでもない、自業自得のお似合いなバカップルだよ。
ま、俺と彼女は別に敵対しているわけでもないし、妨げなんてないから彼等の気持ちはわからないけどね。
きゅるるるるっと音がしたかと思うと、彼女の顔が真っ赤に染まる。
「お腹空いたの? さっきのお詫びもあるし、何かおごるよ」
「……! ……」
首をふるふると振る彼女。遠慮しているのだろうか。
ならばこっちにも考えがある。
「実は俺、クレープとか綿菓子とか食べたいんだけど、男一人で買うのって恥ずかしいんだよね。だからその、一緒に来てくれるとありがたいなんかなー、なんて……あはは、迷惑だよね、ごめん。それじゃ」
「……!」
去ろうとする俺の服をぎゅっと掴む彼女。ノッてきたノッてきた。
「いやあ美味しかった。あ、口の周りにクリームついてるよ」
「……♪」
彼女と文化祭食べ歩きツアーをしてお腹も心も満たされる。
そろそろ女装コンテストの時間だ。彼女とぶらぶらと会場の近くまで歩いて誘導すると、
「……」
彼女が女装コンテストを見るからここでお別れだとジェスチャーしてくる。
「そっか。それじゃあね、デートみたいで楽しかったよ」
「……! ……♪」
満面の笑みで手を振る彼女に見送られ、俺はその場を離れて、会場の別の入り口……参加者用の入り口へ向かう。
それなりに出場者は多いようだ、ほとんどがネタか罰ゲームかなんだろうけど。
「よう、シスコンショタ野郎」
「……喧嘩売ってんのか」
控室で陰鬱な顔をしているシスコンショタ野郎がいたので声をかける。
この表情だと、無理矢理出る羽目になったのだろう。
優勝候補間違いなしだが、別に俺は優勝狙ってるわけではないのでどうでもいい。
それより大事なことがある。
「なあお前、何の衣装で出るつもりなんだ? まさかスクール水着とか言わないよな」
こいつと衣装が被ってしまうのは実に困る。ただの二番煎じ、劣化になってしまうからな。
まあガチ女装のこいつとネタ女装の俺じゃ別物かもしれないが。
「……スリングショット」
「涙吹けよ」
今は一人にしておいた方がいいだろう。
大丈夫、理不尽を耐えた先にはハッピーエンドが待ってるさ。
「8番さん、出番でーす」
「あいよ」
スクール水着に着替え控室で待機していると、係員が俺を呼ぶ。
俺は覚悟を決めて会場へ。
数百人はいるだろうか、お客さんの視線が筋肉質な俺の身体にはアンバランス、おまけに少しもっこりしているスクール水着に釘付けだ。
いや、半分くらいは直視できなくて目を逸らしている。
彼女の姿を探すと、滅茶苦茶驚きながらも、すぐに携帯電話を取り出してこちらを撮影しだす。
まさか俺が出場するなんて思ってなかったのだろう。
「エントリーナンバー8番ですっ! 好きな人に、私の本当の姿を見て欲しいなっ! こないだ駅前のオシャレなパスタ屋さんに行ったんだけど、そこでチョー素敵なカップル見つけたの! 私もあんな風になりたいな、なんてっ! それからそれから……」
空気なんてなんのその、ヤケになった俺は裏声でマシンガン乙女トークをぶっぱなす。
「キモいんじゃ、さっさ失せろや!」
「女装を冒涜してんじゃねー!」
そして浴びせられる罵詈雑言。おかしいなあ、何がいけなかったのだろうか。
しかしこいつらの評価なんてどうでもいい、大事なのは彼女。
彼女の姿を探すと、携帯電話をこちらに向けたまま、
「……」
白目を剥いて笑った表情のまま固まっている。
笑いすぎて失神してしまったのだろうか。腰は抜かすわ失神するわ、大丈夫かなあ彼女。
人として大切なものを失ってしまった気がするが、不思議と心が満たされる。
俺も随分彼女に調教されてしまったようだ。




