えぴそーど8 姫様御出掛(前編)
最初にこの言葉を言うのがテンプレになってるなぁ・・・,遅れてゴメンナサイ。
私の一日は窓を開けることから始まる。
夜更かしをしてしまい、腕を動かすのでさえ億劫であっても、カーテンを開いて朝の陽を一身に受け、窓を開けて部屋の空気を入れ替えれば、たちまち眠気なんて吹っ飛んでしまう。・・・たまに一過性な場合もあるけど。
単純な一日の始まりの儀式。その中にもし、君がいてくれるなら、それは始めから素晴らしいことが起きるとわかる吉兆になる。今までいつもそう、だから今日君が私の見える場所にいるのも・・・あれ?
「いやぁぁぁぁぁぁ!!! 優ちゃん起きてぇぇぇぇ!!」
幸せのシンボルは、その艶やかなブロンドの髪を道路上にぶちまけながら、見事にぶっ倒れていた。
「8対2の割合で歩美が悪い」
「もぅ・・・、だから謝るから許してよー・・・」
金髪碧眼のわがままお姫さまは、上に羽織ったパーカーをピョコピョコさせながら私の隣を歩いていた。
「約束の時間に間に合わないから朝ご飯抜いてまできたってのに、一時間経っても出てこないなんて考えられないぞ普通!」
「だったら・・・,チャイムを鳴らせばいいじゃない?」
「それで三三七拍子をやってみた」
・・・夢の中でパパとママを応援してた気がする。パパとママもきっと私を応援していたに違いない、うん。
だけど優君は、ちゃんと朝ご飯を食べなかった過失についてはキチンと責任を認めてるんだ、偉い偉い。
「被害者の頭を撫でるな!」
怒られちゃった。せっかくの優君とのお出かけなのに・・・,幸先悪いなぁ。
先週の文化祭の話し合いの結果、「パイレーツ・オブ・カルビ牛」と「風邪の舞」は決定、優君のオンステージでは優君が希望していた「冷静大陸」と、沈没で有名な超大作、「怠惰ニック」のテーマ曲を演奏することになった。ところが優君、怠惰ニックを知らないと言うのだ。「飛んでる、わたし飛んでるわ!」と、名シーンのセリフを言ってみても、「クスリでもキメたのか?」と言われてしまう始末。
というわけで、これから橋向こうのレンタルビデオ屋さんまで行ってDVDを借り、二人で見ようということになったのだ。なんと優君からの誘い! 「どれが怠惰ニックなのかわからないから誰かについてきて欲しいんだけど、福島は考慮に入らない。だから日曜お願いできないか?」と、いかにも消去法チックな理由を説かれたけど、こうして二人で並んでお出かけできるんだから気にしない。
こうして近くから改めて優君を眺めてみると、全然女の子として努力してないのに、女の子してる。あんなスースーした腰巻きなんてマッピラだ、と言って好んでよく着ているオーバーオール、肩に掛ける部分は腰に垂らして上からパーカーを着る。なんてことない普段着なのに、優君のボーイッシュで爽やかな印象を存在を引き立てるにはそれでも十分役に立ってるんだ。「こっちジロジロ見んなよ」と言いながら耳を赤くしてるのがなんとも可愛らしいよね。
私はというと・・・。優君の引き立て役でしかないのだろう,商店街に入って人通りが多くなっても,行き交う人々が向ける視線は全部優君の物だ。・・・いや,それは当然だろう。一人で歩いていたって,私をジロジロ見てくるわけがない。というかそんなことされたら怖い。でも・・・うらやましいという気持ちは変わらない。
「・・・ん? どわっ!?」
急に優君が後ろを振り向く。優君はやや早歩きで私のちょっと前を歩くから,私は優君を後ろから抱き支えるような姿勢になってしまう。
「うわっぷ・・・,大丈夫?」
「あぁ・・・,今さ,私のこと変な目で見るやついなかったか?」
さっきから羨ましいと思われるほど浴びてるじゃないのさ,今更気付いたの? この子は・・・。
「いやそういう意味じゃなくて,もっとこう・・・,あぁなんだ・・・? そう,犯罪予備軍的な!」
・・・どうだろう,私からすれば優君の今日の可愛さ愛らしさが犯罪的に見えるよ。みんな優君のこと攫って可愛いお洋服着せて抱きしめてぎゅーってハグしてほっぺムニムニしたいって思ってるんじゃないかな? 私はそうしたい。
「学校と我が家でほぼ毎日されてるから,もう結構だ」
そんなことをしゃべっている内に,橋も越えて商店街のレンタルビデオ屋さんについてしまった。きっと中に入って目的のモノを見つけたらあまった時間で『VUMP OF PORK』とか『たいらのあやや』とかの新曲のCDもチェックして,でも借りずに目的だけ果たしてまっすぐ帰るんだろうなって思ってた。
「よう,姫様に歩美君!! こんなところで会うなんて奇遇だな!!」
優君の観察力はすごいなって,改めて関心しちゃった。