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これはそんなんじゃない

彼女が消えた部屋、残された春の香り。

手が無意識に腕に触れる。

なんてことはない、はぁ、とため息がこぼれる。

さっきまで確かな熱を感じていたはずのそこは、今はもう冷たくて。

彼女に触られた場所だけが、ジクジクとして気持ち悪い。

なのに腕を撫でる手は止まらない。

視線は、シーツの上の彼女の金糸を凝視している。目が離せない、首が動かない。

「あ〜さかっ」

そこに彼女が重なる。

いや、それだけじゃない。彼女が残した余熱にまだ生暖かいシーツの感触に心臓が跳ねる。

まるでまだそこにいるような。

そうじゃない


——そういうあれじゃない。


そして私は金糸に手を伸ばした。

その瞬間

——「なに、触ってんの?」

……え?

指が金糸に触れそうになる。

空気が途切れる。

指先だけがそこで止まる。

鼻を突く匂い。

さっきより濃い春の香りがする。







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