第2話 絶世の美女を探せ
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伝説……この伝説を知ったのは、書物からではなく、生きた人間との会話からでした。伝説を元に創作した物語をここに謹んでお届けします。
山口の館を出た命は、風のように広がった。書状が認められ、使者が放たれ、馬が道を駆ける。周防・長門の代官所へ、寺へ、港へ。命は短い言葉で伝えられた――「美しい娘を探せ」それだけだった。だが、その一言の裏にあるものを、誰もが理解していた。生贄だ。人身御供だ。
周防の里々では、朝の空気がどこか重くなっていた。畑を耕す手が止まり、井戸端の女たちが声を潜める。「聞いたかい……山口からのお触れ」「美しい娘を、だってさ」「そんなもの、どうやって決めるんだい」――誰も笑っていない。誰もが知っている。選ばれることが、幸せではないことを。
長門の港では、異国の船がゆらりと揺れていた。荷を運ぶ人足、帳面をつける商人、香の匂いと海の塩気が混ざり合う。
「妙な話が回ってるな」
と男がつぶやく。
「山口で、美しい女を探してるってよ」
「殿のためか?」
「さあな……だが、あの武断派の陶が絡んでるらしい」
――その名が出た瞬間、空気が変わる。誰もが口をつぐみ、それ以上は語らぬと身体が知っていた。
寺でも、噂は流れていた。旅の僧が囲炉裏のそばで語る。
「石見でも同じ話を聞いた。顔立ちの良い娘は、皆、奥へ隠されているとな」
「……隠せるものか」
「隠し通すしかないだろう」
――火がはぜる音が響く。その向こうで、若い娘がそっと顔を伏せた。
安芸では、事情はさらに複雑だった。毛利の地でありながら、なお大内の影が色濃く残る。
「大内からの命だと?」
と国人が顔をしかめる。
「表向きは従うしかあるまい」
――だが内心は別だった。娘たちは山奥へ隠され、名を変え髪を切り、顔に泥を塗る。それでも、噂は消えない。
筑前・博多。商人たちの町では、噂は金に変わる。
「絶世の娘だと?」
「それなら知ってる」
「どこだ」
「周防の奥、平川って里だ」
――声が落ちる。
「長者の娘だ。見たことがあるが……ありゃあ、人じゃねえ。光って見えた」
酒を飲む手が止まる。誰も笑わない。それほどの話だった。
その噂は、海を越えてきた者の耳にも届く。――龍一郎。彼は黙って聞いていた。杯を持つ手が、わずかに止まる。
「……平川?」
「おめえ、知ってるのか?」
「……いや」
短く答える。だがその胸の内で、何かが静かにざわめいていた。
そして――その噂は、ついに山口へ届く。報告が読み上げられる。
「周防国、平川の地。長者の娘、小夜。類なき美貌とのこと」
――沈黙。広間に重い空気が満ちる。その中央で、ひとりの男がゆっくりと目を細めた。
陶晴賢。
「……見つかったか」
その声は低い。
「なんと、博多からの報告が山口の地、平川の娘とは……連れて来い」
その一言で、すべてが決まった。
◇
その頃、平川の里では、いつもと変わらぬ風が吹いていた。川は流れ、鳥は鳴き、陽はやわらかく差し込む。何も変わらない穏やかな時間が流れていた。
◆蛇娘の言葉解説◆
生贄とは
古代から中世にかけて、神や霊の怒りを鎮め、豊作や秩序を願うために、生きた動物や人間を供物として捧げる儀式がございました。そこで神にささげられたのが生贄です。特に人間を捧げる場合は「人身御供」とも呼ばれ、戦争捕虜や選ばれた者が犠牲となることもございました。このお話の場合、美しい娘を差し出すことで勢力争いを鎮めるというもの。娘の幸せは保障されませぬ。
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