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絶世の姫は愛を拒み、呪いを遺した―西の京・山口に眠る姫山伝説―  作者: さとちゃんペッ!


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第1話 戦国武将大内義隆~家臣団の策略

ご覧いただきありがとうございます!

謹んでお届けします。

 西国一の大名、大内義隆《おおうちよしたか》。


 周防・長門を本拠とし、中国地方から北九州にまで勢力を広げたその国は、今、かつてない繁栄の中にあった。海には大陸からの船が行き交い、港には異国の香辛料や絹の匂いが満ちる。山口の町には白壁の屋敷が立ち並び、整えられた水路には清らかな水が絶えず流れていた。


 山口は「西の京」と呼ばれた。奥方は桜御前。「故郷の京の都が恋しい」と泣く桜御前のために都の文化が流れ込み、和歌や管絃が日夜たしなまれる。春には桜が庭を埋め、秋には月見の宴が開かれる。琴の音が夜気に溶け、香木の甘い煙が薄くたなびく。


 だが――

 その内側では、静かに火種がくすぶっていた。


       ◇


 重臣たちは、二つに分かれている。

 武を重んじる荒くれ男たち。そして、文化と政を重んじる公家の伝統を受け継ぐ者たち。


 その中心にいるのが――

 武断派の筆頭、 陶晴賢《すえはるたか》。


 戦では鬼神のごとき働きを見せ、槍の穂先にいくつもの命を散らしてきた男。戦場では血と土にまみれ、怒号の中で笑うことすらある。その武威によって、大内家は幾度も危機を乗り越えてきた。


 だがその反面、激しすぎる気性と、主君すら恐れぬ言動で、誰もが扱いに苦慮していた。怒りが燃え上がれば、言葉は刃となり、時に手すら出る。その眼差しは常に獲物を狙う獣のようだった。


 そしてもう一方。

 文化と政を支えるのが、

 相良武任《さがらたけとう》、 冷泉隆豊《れいぜいたかとよ》らである。


 相良《さがら》は理《ことわり》をもって国を治め、帳面と文書に向き合う日々を送っていた。冷泉《れいぜい》は京の雅をそのまま持ち込んだような男で、香を焚き、扇を操りながら言葉を紡ぐ。彼らは、武ではなく知で国を治めようとする者たちだった。


 さらに、その両者を見守る宿老《しゅくろう》―― 内藤興盛《ないとうおきもり》。


 白髪を結い上げ、静かに座すその姿は、老木のように揺るがない。多くを語らず、ただ見ているだけで場を支える重みがあった。


 この均衡によって、かろうじて国は保たれていた。

 だが――

 その均衡は、今にも崩れようとしていた。


      


「――くだらぬ」

 低い声が、静寂を切り裂いた。


 山口の館。広間。

 磨き上げられた板の間に、香の煙がゆらりと漂う中――盃が激しく叩きつけられた。

 乾いた音が、やけに大きく響く。

 陶晴賢《すえはるたか》。


「山口を京のような美しい都にする? もう十分ではないか。殿の京かぶれにはこれ以上付き合いきれんわ。――だいたい、財の使い道が違うだろう。戦こそがすべてじゃ。これまでも、これからもじゃ!」

 これが主君が席を立った直後の言葉である。

 その目は鋭く、獣のようだった。灯りに照らされ、ぎらりと光る。今しがたまで主君、大内義隆公が座していた上座を、まるで値踏みするかのように見やる。

 

 誰も反論しない。できない。 この男は――強すぎる。そして危険すぎる。

 広間の空気が凍りついたままだ。誰かがわずかに身じろぎするだけで、衣擦れの音がやけに響く。誰もが思っていた。


 この男は、いつか。 いつか必ず――主君すらも、喰らう。


       ◇


 やがて、陶《すえ》が荒々しく立ち上がった。衣の裾が床を打つ。

「くだらぬ話に付き合う暇はない」

 吐き捨てるように言い、広間を出ていく。重い足音が廊下に響き、やがて遠ざかる。

 その音が完全に消えた瞬間――張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。

 誰かが、深く息を吐く。

「……いよいよ、抑えが利かなくなってきましたな」


 静かに口を開いたのは、 相良武任《さがらたけとう》。その声には疲労がにじんでいた。

 隣で、冷泉隆豊が、バシッと扇を閉じる。その音がやけに鋭く響く。

「武の功に溺れた男ほど、始末に困るものはございません」

 低く、しかしはっきりとした声。香の煙の向こうで、その目は冷えていた。


 誰もが同意していた。

「……このままでは」

 相良が続ける。

「いずれ殿のお命すら危うい」

 沈黙。


 重く、逃げ場のない沈黙。 誰もが同じ未来を思い描いていた。


 そのとき。

「殺すのが、一番早い」

 しわがれた声が響いた。


 振り向けば、そこにいたのは宿老――内藤興盛《ないとうおきもり》。


 誰もが息を呑む。

「だが、それはできぬ」

 自ら否定するように、続ける。


「功が大きすぎる。今あやつを斬れば、家が割れる」

 その言葉は、冷たい現実だった。再び皆は頭を抱えた。


冷泉が静かに言った。 

「ならば――縛るしかあるまい」

鶴と亀が描かれた扇をゆっくり開き、公家らしく口元を隠した。

 

「武で縛れぬなら、情で縛るのです」

「情で……?」

 杉重矩《すぎ しげのり》が眉をひそめる。

冷泉は、わずかに口元をゆるめ可笑しそうに笑った。

「ほっほっほ、使うのは、女でございます。皆様、もっとお近くへ」

皆が冷泉の周りに集まった。


「まず、絶世の美女を探し出し、殿にお側へ上げる。もちろんお分かりですな、大内義隆公でございます」

「……それだけで、陶が大人しくなるとは思えぬが」


「ええ。ですから――その先がございます」

 冷泉の声は静かだった。

 だが、その言葉は刃のように鋭い。


「その絶世の美女に、殿の御子を宿させる」

 息を呑む音が、重なる。 空気が一段、冷える。

「そして――その身重になった絶世の美女を、陶に娶《めと》らせるのです」



 沈黙が流れた。

 誰もが理解した。 それがどれほど残酷な策かを。 ひとりの娘の一生が、ここで決められたのだと。


     


「……見事な鎖だ」

 内藤が低く唸った。

「主君を裏切れば、我が子と自分の未来も潰《つい》える。陶が出世したければ殿をお守りするのが一番の早道」

「文化を重んじる殿の気持ちを汲むことになるやもしれませぬ」

「殿の安泰が、自らの安泰」

  

「殿のためにも……やるしかあるまい」

 相良《さがら》が顔を上げた。

「殿を守るためだ」

 その言葉に、誰も反対しなかった。

 できなかった。


「まずは――」

 冷泉が静かに言う。

「絶世の美女を探し出せ」


◆蛇娘の言葉解説◆

私は蛇娘。言葉の解説をさせていただきます。


宿老(しゅくろう)とは、豊富な経験と知識を持つ高齢の人物、または武家政権や諸藩において重要な職責を担う古参の重臣を指す言葉でございます。宿徳老成《しゅくとくろうせい》十分に経験を積んだ老人を指す言葉が元になっております。昨今よく使われる「老害」と対になる言葉でございましょう。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

いかがでしたか?


感想をいただけるとすごく励みになります。

次回もどうぞお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
史実の夫殺害+若妻略奪事件絡みでネタ元は毛利輝元説の方がメジャーだと思われる姫山伝説ですか。 陶晴賢への改名は大寧寺の変以降ですが、隆房だと「誰?」になってしまうジレンマですね。
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