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転生

初投稿です。よろしくお願いします。

 ぱしゅっ―――


 頬を走った痛みと音が耳に届いた後、芝生の上に投げ出した足の上の本に、ポタッと紅い雫が落ちた…。

 それを見た途端に、私はパニくった。



「あぁーっっ綺麗な挿し絵に血がーー!!」


 長髪の女性と、高身長長髪でとがった耳の人が手をとり合って見つめ合っている切絵の様な挿し絵。

 絵自体がオパールのような何色もの虹彩を放っている。

 こんな印刷物があるものかと不思議に思った。


 『? 私、こんな本持ってた?』 

 

 『これ…誰の…? ――ヤバイ……これって弁…償よね…。はあぁぁ……なんて本かな……』


 困惑した思考のまま『とりあえず……』と表紙の確認をする。


『ーーーん? これ……って英語じゃないよね?……私、外国語わかんないのに読んでた?ーーーって、イヤイヤ待て待て、知らない文字なのに読めている…?』


 頭の中が『?』で埋まった。


 すると、ふっと記憶が流れ込む。

 そして、瞬時に理解した。




 『転生』してる!!!!




 そうだ。享年53歳で、家族に囲まれてその生涯を閉じた『笹石 晶()』の記憶だ。



 ******


 主人と子ども2人の4人家族。子どもは順に社会人となって家から巣立った。

 48歳の春。


 久々の2人暮らし。GW過ぎて梅雨前には生活リズムも出来た。

 今までは忙しさ諸々のために出来なかった人間ドック。一泊かけて主人と仲良く受けるのもアリかと思い立ち検査をしたら見つかった病気。


 そういえば最近よく貧血起こすなぁ〜とか、体重が減ったなぁ〜とか思っていたけど……(体重に関しては、ある時期から体重増えて地味に悩んでて……子離れしたしパートをフルにしていただいて仕事に邁進。あと時間が出来たので散歩なんぞもしてみたり。ここにきて効いたんだ! 嬉しぃ〜っって思っていた)


 それがまさかのステージ4で。


 家族親類みんなでメソメソ、ジメジメ、湿度上昇……。いろんなモノが(物質的にも精神的にも)カビた。

 なんせ、我が家は健康的で大きな入院は私の出産くらい。

 皆が皆、この事態に免疫がない為に、一度沈むと浮上の仕方が分からなくなった。

 その後も、こんなことになるなんて…と病室で家族と嘆いて過ごしていた。



 ある日、外を見ていた。雨も上がり白い入道雲が彼方に見える。いつの間にか季節が移っていた。



 『え? いつの間に……?』



 自分の、いや、自分達の時間は一体いつから止まっていた?

 ふとベッド横の椅子に座っている家族の顔を見た。


 病人の私と同じくらい……いや、もしかしたらそれ以上?の目の下のクマ、こけた頬……光の灯らない目…声をかけたのに薄い反応。


 私は、『これは…いけない』と思った。


『こんな事いいの?』


『私は病気で永くない……。でも皆は? まだこれからなのに』


 『そうだ……。皆はこれからも生きていく人で(いやね、私も生きてるけどさぁと一人でツッコむ) ーーーとりあえず、どうしよう? ……うちの家族食べるの大好きなのに、こんなにげっそりになってるとか……妻として母として情けない…』



 無理矢理にでも思考を巡らせる。

 それで私は気持ちがちょっとだけ浮上できた。主治医にお願いして退院する。


 自宅に帰り、ちょっと休憩してから、ふぅふぅ言いながら家族と台所に立つ(一ヶ月以上もベッドの住人になってたら体力は落ちるよね……)


 家族は、病院と職場に家と3人で頑張ってくれていた。入院した頃とそんなには変わらない我が家にホッとした。


「何を作ろうか?」


 冷蔵庫を開く。

 そこは空っぽで……気合いを入れた私の心はぽきっとなった。聞けば、食べたいと思えなくなって最近は出来合いか栄養inゼリーとかが主食で、すっかり冷蔵庫の中に何があるかも把握してなかったと。あぁ、ゴミ箱の中身が物語っている。


 家族の生活を聞いて、自分が情けなくなった。

 私が入院して。家族は、仕事に行き、家の事をし、少しでも時間ができたら私に顔を見せに来てくれていた。そして私を気遣ってくれていた。

 私は、どんどんと皆の顔色が悪くなるのも分からないで自分の不幸を嘆いていたのに…。



『ごめん……』



 心の中で家族に謝まる。多分、家族は謝罪を望まない。私の事を第一に考えて皆で耐えてくれていたのに謝罪は違う様な気がする。


『家族にしてあげれることは何だろう……』


 すぐには思いつきそうもなくて。

 とりあえず皆で、家族が大好きなオムライスと、冷凍庫の野菜やキノコ、ベーコンでスープを黙々と作った。


 そして、皆で机に並べ椅子に座る。

 ―――しばし、無言で。腰かけたまま俯く。誰も声を出すことができない。

 ふぅ……と細く微かに息を吐きーーー料理をしながら考えたことを私は家族に言おうと、膝の上で両手を握った。


「私が入院してる間、頑張ってくれたんだね。ありがとう。私、病気って聞いて…動揺しちゃって…正直、皆のこと見えてなかった……。皆は忙しかったのに会いに来てくれてたんだよね。感謝しかないよ。ありがとう」


 私は頭を下げた。皆は顔を上げた。


「まだ2年位は……って担当医の先生も言ってたし、私もまだ諦めないことにした。…もしかしたら奇跡とか起こるかも、じゃない? でも、ダメなこともあるかも……とも思ってる。だから、ね……その時は皆に笑ってる顔を覚えててほしい。それに私も皆の笑顔が見たい。今までと一緒の生活は、正直なとこ無理かもしれない。でも! 皆と笑って過ごしたい!!』


 涙ダラダラ、鼻水ズルズルしながら顔を上げて。ぎこちないけど笑顔で言えた。


 皆は、キョトン?て文字が張り付いた顔して私を見る。


 しばらく待つと3人共が涙と鼻水を流した。そして、頑張って笑顔を見せてくれた。


「あぁ、そうだな。そう……まだ一緒に居れるんだよな……」

「……うん…そう…そうだよね。あ〜、母のオムライスいつぶりかなぁ」

「だよねっ あ! 明日は俺が作るよ! 一人暮らししてから結構作れるようになったし! 母は何がいい? 栄養とらなきゃ!」


 それから家族といっぱい食べて、たくさん話した。

 それからは時間が許す限り、いろいろな事を一緒にして過ごした。




 余命2年と担当医に言われていたが治療も頑張りつついろいろな事を家族と楽しんでいた。

 気づけば53歳になっていた。

 4年目くらいからは担当医の先生に『凄いですね!!』と褒められた。






 

「………ねぇ、私って幸せ者だわ」


 病院のベットの上。

 喉を震わせながら何とか絞り出した小さいけれど皆に聴こえる声で。頑張った。

 ふふと口端を上げ、周りの人達の顔を見つめる。目頭が熱くて視界が歪む。


 『あぁ、皆の笑顔が滲んじゃう』


 最期まで見ていたいのに私ったらダメね……と思いながら、自分に笑ってしまった。


 意識が薄れていく……なんだか力が抜けていく。

 最期の一言を………。



「ありがとう………」



 ーーーそうして、私の人生は幕を下ろした。


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